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政治
【主張】広島平和宣言 「北の核」批判を評価する
広島は68回目の原爆の日を迎えた。松井一実広島市長は平和宣言で「北朝鮮の非核化と北東アジアにおける非核兵器地帯の創設に向けた関係国の更なる努力が不可欠だ」と述べ、初めて北朝鮮の核問題に言及した。
秋葉忠利前市長時代の平和宣言は、北の核問題には全く触れず、むしろ米国の「核の傘からの離脱」を求めたりする内容だった。日本が直面する最大の核の脅威に向き合い、それを平和宣言に取り入れた松井市長の判断を評価したい。
松井市長は今年も、原爆と原子力発電を結びつけることなく、政府に「国民の暮らしと安全を最優先にした責任あるエネルギー政策」を求めるにとどめた。これも妥当な判断だといえる。
松井氏は事前のインタビューでも、福島第1原発事故について「放射能被害の心配は分かる」と理解を示しつつ、「絶対悪の核兵器と、人間のエネルギー造成のために使う技術は区分けが重要だ」と語っていた。
ただ、松井氏が日印原子力協定交渉を「良好な経済関係の構築に役立つとしても、核兵器を廃絶する上では障害となりかねない」と批判したのは疑問だ。平和宣言にはなじまない問題ではないか。
この交渉は5月下旬、来日したインドのシン首相と安倍晋三首相の会談で再開が決まった。核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドとの協定には一部に慎重論もあるが、日本の原発輸出の前提になるものだ。中国に対する日印安保協力の問題も絡んでいる。
一方、安倍首相は式典で、「私たち日本人は唯一の戦争被爆国民で、その非道を伝え続ける務めがある」などと述べたが、原発問題にはあえて踏み込まなかったのは賢明だった。
東日本大震災で福島事故が起きた一昨年の式典では、当時の菅直人首相があいさつの3分の1以上も割いて「脱原発」の持論を展開した。鎮魂の場の「政治利用」と批判されたのは記憶に新しい。
原爆の日は、政治的な主張を極力避け、遺族や国民が原爆犠牲者の霊を静かに弔う日である。そのことを忘れてはならない。
日本にとって、核の脅威は北朝鮮だけではない。中国のミサイルも日本に照準を定めている。北に核放棄を迫りつつ、日米同盟を軸に万全の防衛態勢を敷くことが現実的な平和への道である。
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