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ノンフィクション

祖父倫 7

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1992年12月1日 ソフトウェア倫理協会設立
早朝6時30分、佐藤は渋谷のNHKのスタジオ通用口に来ていた。1992年12月1日の肌寒い朝であった。
できたばかりの18禁シールの清刷を持って7時からのNHKニュースに間に合わせるため御殿山の自宅からタクシーを飛ばして来ていた。
和やかに迎えてくれたPDは前日の郭とのマスコミ発表の詳細な報告を受けているらしく、佐藤から渡された清刷を見て確認後ADに素早く指示をしていた。
佐藤はオンエアーを控え室モニターで見ることになった。
「本日、パソコンソフトメーカーで自主規制を目指し業界審査団体としてソフトウェア倫理協会が設立されました。」
その男性アナウンサーは、初めて使う業界団体名を噛まないようにゆっくりと語っていた。
それに女性アナウンサーが続いた。
「パソコンソフトには様々なジャンル・カテゴリーが存在し、中には成人向けのレーティングも存在するとのことで、メーカーが自主的に作品審査を行い、業界の健全化を推進し、ひいては青少年育成に寄与すると理事長の佐藤氏は語っています。ご覧になっているのは今後商品パッケージに成人向け作品であることを明示するために貼付される審査済みシールです」
在阪の人気ブランドポニーテールが創った18禁シールが画面に映し出されていた。
佐藤は、誰も居ない控え室でウトウトしていた。三日三晩不眠不休でという言葉があるが、佐藤はここ五日間はベットに横たわったことがなかった。
「取りあえず、ぶち上げたな。さて、これからどうするか……」
佐藤はウトウトしながら、これからの協会運営をシミュレーションしていた。
会社としては、ゲームも創らないとならない。ゲームが好きで、プログラムが好きで、好調だった貿易会社も売却したのだ。
少なくとも、ゲーム業界に入ったのは業界団体を創りたかったわけではなかった。

それも初代理事長になるなんて、「意味わかんねえ」と独りつぶやいていた。

社内は、正にディーオーの代表作となっているRPGの「ブランマーカーⅡ」の制作真っ只中であった。
業界団体なんかに関わっている場合では正直無かった。12月の初旬、各メーカーはコミケの準備か年末発売作品のマスターアップで、それこそ寝る時間がなかった。

「意味わかんねえ」は社員に何度も佐藤自身が言われた言葉でもあった。

「会長、なんでそんなもん創るんです。ほっておきましょうよ。捕まる奴は捕まるんですから……」

「そんなことして目立ったら、ディーオーの作品が売れなくなりますよ。何考えているんですか?ユーザーを敵に回すんですか?」

「大変だな……」
佐藤はポツリと控え室でADからもらった昆布茶を片手につぶやいた。

共同通信の配信もあり、その日を皮切りに続々とマスコミに「ソフトウェア倫理協会」の名称は踊った。
日経新聞にも載った。当たり前と言えば当たり前だが、TVと違い、事細かに書かれていた。
『本日、パソコンソフトメーカーで自主規制を目指し業界審査団体としてソフトウェア倫理協会(理事長 佐藤健次)が設立された。協会は今後成人向けのパソコンソフトを自主的に審査して行く。パソコンソフトにはアダルトソフトが数多くあり、警察庁によるとここ数年摘発件数が上がってきているとのこと……』

佐藤家には、ちょうど米国に留学以来40年近く定住していた母方の叔母が帰国していたが、新聞を見るや「あなたなんてことに手を出したの?これってポルノじゃあない。何考えているの。お母さんが見たら……」と凄い剣幕であった。
数日後、母親の知るところとなりバツが悪い佐藤に母は「私はわからんちゃ。健次がすることやけん、間違いはないやろ。まあええわ」
叔母に対して「こん子はね。高校の時、不良でどうしようもなかった。心配で心配でどうしようもなかった。家の裏が少年鑑別所で、いつかいくやろかと思っちょった。担任の先生が「お母さん、安心してください。健次は勉強はせんけど、すばらしい素質をもっとる。まあ、やくざの親分か会社の経営でもするような男ですから安心しておってください」いうてな、まあええわと思っちょったんよ」と担任も凄いが、母親としては何やら摩訶不思議な論理を説いていた。
肝っ玉母さんを地で行く人で、高校時代佐藤が血を流しながら帰宅すると、我が子のことはそっちのけで、相手に追わせた傷の具合を心配するような親であった。
こうして、家族の理解(?)と社員の不信の中で、何の得もない業界団体運営が始まったのである。


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