記者の目:脱法ハウス=加藤隆寛(東京社会部)

毎日新聞 2013年08月06日 02時00分

 ◇時を待たずに法令改正を

 「ネットカフェ会社がシェアハウスを運営?」

 ネットカフェの個室のパソコンで見た広告に違和感を抱いたのをきっかけに「脱法ハウス」の取材を続けてきた。次第に明らかになってきたのは、「都市分散型スラム」とでも言うべき貧困の実相であり、新たな形態の住まいの広がりに法が追いついていないことを利用した、悪質業者による「搾取」の構造だった。国は対症療法的な締め付けだけでなく、時代に合わなくなった法令の抜本改正を含む新ルールづくりに踏み出すべきだ。「惨事が起きてから動く」というあしき慣行にならう必要はない。

 ◇英国は免許制 豪州は登録制

 2畳前後の狭く密集した部屋に人を住まわせる脱法ハウス。居室に本来必要な防火設備がない物件も多い。安全面に十分配慮しながらシェアハウスを運営する業者は、業界全体のイメージ低下に悩む。

 英国・スコットランドでは1999年、日本と同様に法的位置付けが曖昧だったシェアハウスの火災で大学生2人が死亡した。これを受け、スコットランドで2001年、英国全土でも06年に物件オーナーの免許制度を導入。対象となる住居の定義も明確にし、安全措置を怠った管理者の罰則規定も設けた。豪州では市町村への物件登録制を採用。ビクトリア州は広さと収容人数の関係も細かく定めたガイドラインを09年に策定し、独自の査察制度も持つ。

 こうした例を参考に、日本の事情に合わせたルールを作ることは、そう難しくないはずだ。しかし、ある与党国会議員は「役所もなるべく(現制度に)触りたくない。具体的な不都合がないと、法改正まで持っていくのは難しい」と実情を明かす。現に、認知症高齢者グループホームの消防設備基準が見直されたのは、多数の死者を出した後であり、個室ビデオ店を巡る規制も同様だった。私は「報じることで救われる命がある」と信じ、記事を書き続けてきた。悲劇が起きる前に打てる手を打つことこそ、政治や行政の重要な仕事ではないのか。

 あえて言えば、ここまで脱法ハウスが広がったのは現行法が「ザル」だからだ。1950年制定の建築基準法上、多世帯の住まいは▽一戸建て住宅▽長屋▽共同住宅▽寄宿舎▽下宿−−の5分類しかない。ハウスを共同住宅や寄宿舎と見てマンションなどと同レベルの規制をかけるのか、それとも「疑似家族」が暮らす一戸建てと扱うのか、自治体も迷ってきた。担当者は「規則が実態に追いついていない」と口をそろえる。

 ◇限界ある現行法 「安全」明示型に

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