閉じる
閉じる
電子書籍の機能を使用するには、記事を購入してください
少し前の出来事ですが、僕と佐藤智美は12年間の結婚生活に終止符を打ちました。

離婚の前日は結婚記念日でした。
とても晴れた天気の良い日曜日で、僕は息子に新しい自転車を買ってあげたばかりだったので、家族3人でサイクリングに行こうということになりました。
多摩湖自転車道を始点の関前5丁目から多摩湖まで約12キロ。
2時間かからずに多摩湖に到着し、隣接する西武園遊園地へ。
お昼は持参したお弁当を食べ、いろいろな乗り物に乗りました。
遊園地は人もまばらでした。
ジェットコースターは老朽化したのか運転しておらず、園内の奥のほうはロープが張ってあり閉鎖状態、飲食店は半分近くが閉店し、乗り物もほぼ並ばずに乗れる状態。
人の代わりに(?)、犬を連れたお客さんを多く見かけました。
普通、遊園地というとペットは入場禁止の所が多いような気がするのですが、ここは入場可能のようです。
集客のための苦肉の策でしょうか。
犬がすました顔でメリーゴーランドに乗っている姿はなんとも微笑ましかったです。
絶頂期の混雑を想像すると寂しい風景でしたが、子供の数が減り、エンターテイメントの多様化が進んだ現代では、遊園地のような巨大エンターテイメント施設が成立するのは難しいのかもしれません。
「5年後にこの場所はあるのだろうか?」
そんなことを思いながら遊園地を後にしました。
帰り道は自転車道の途中にある温泉施設に寄ろうと予定していました。
ところが、日中、あんなにいいお天気だったのに、雨がポツポツと降り始めました。
それが本当に 時々ポツリとくる程度の弱い雨で、これから本格的に降り出すのか、それとも一時的なもので回復するのか何とも言えない状況で、iPhoneで天気予報を確認しても30~40%とこれまた微妙。
予定通り温泉施設に寄ろうかどうかと家族で言い合いながら、結局は寄ることにしました。
昼間の汗を流し、併設の食堂で晩ご飯を食べて外に出ると、キレイな夜空です。
天気はなんとか保ってくれたようでした。
また自転車に乗って自宅に向かい、コンビニで翌日の朝食を買い帰宅。
夫婦でお酒を少し飲みました。
布団を並べて寝て、翌日、息子を学校に送り出すと離婚届に捺印し、夫婦でそれを市役所に提出しに行きました。
僕の人生で最も楽しい12年間でした。

以下のインタビュ ーは、僕がインタビュアーとなり佐藤智美さんに離婚についてお話を伺ったものです。
佐藤智美さんは現在別姓と名乗っておりますが、漫画家として「佐藤智美」のペンネームを使い続けるとのことで、ここでは作家名を使い、「佐藤智美」と書かせていただきます。
離婚の前日は結婚記念日でした。
とても晴れた天気の良い日曜日で、僕は息子に新しい自転車を買ってあげたばかりだったので、家族3人でサイクリングに行こうということになりました。
多摩湖自転車道を始点の関前5丁目から多摩湖まで約12キロ。
2時間かからずに多摩湖に到着し、隣接する西武園遊園地へ。
お昼は持参したお弁当を食べ、いろいろな乗り物に乗りました。
遊園地は人もまばらでした。
ジェットコースターは老朽化したのか運転しておらず、園内の奥のほうはロープが張ってあり閉鎖状態、飲食店は半分近くが閉店し、乗り物もほぼ並ばずに乗れる状態。
人の代わりに(?)、犬を連れたお客さんを多く見かけました。
普通、遊園地というとペットは入場禁止の所が多いような気がするのですが、ここは入場可能のようです。
集客のための苦肉の策でしょうか。
犬がすました顔でメリーゴーランドに乗っている姿はなんとも微笑ましかったです。
絶頂期の混雑を想像すると寂しい風景でしたが、子供の数が減り、エンターテイメントの多様化が進んだ現代では、遊園地のような巨大エンターテイメント施設が成立するのは難しいのかもしれません。
「5年後にこの場所はあるのだろうか?」
そんなことを思いながら遊園地を後にしました。
帰り道は自転車道の途中にある温泉施設に寄ろうと予定していました。
ところが、日中、あんなにいいお天気だったのに、雨がポツポツと降り始めました。
それが本当に 時々ポツリとくる程度の弱い雨で、これから本格的に降り出すのか、それとも一時的なもので回復するのか何とも言えない状況で、iPhoneで天気予報を確認しても30~40%とこれまた微妙。
予定通り温泉施設に寄ろうかどうかと家族で言い合いながら、結局は寄ることにしました。
昼間の汗を流し、併設の食堂で晩ご飯を食べて外に出ると、キレイな夜空です。
天気はなんとか保ってくれたようでした。
また自転車に乗って自宅に向かい、コンビニで翌日の朝食を買い帰宅。
夫婦でお酒を少し飲みました。
布団を並べて寝て、翌日、息子を学校に送り出すと離婚届に捺印し、夫婦でそれを市役所に提出しに行きました。
僕の人生で最も楽しい12年間でした。
以下のインタビュ ーは、僕がインタビュアーとなり佐藤智美さんに離婚についてお話を伺ったものです。
佐藤智美さんは現在別姓と名乗っておりますが、漫画家として「佐藤智美」のペンネームを使い続けるとのことで、ここでは作家名を使い、「佐藤智美」と書かせていただきます。
佐藤秀峰×佐藤智美 「離婚インタビュー」前編
■夫に子供ができた
佐藤秀峰(以下 秀峰): 本日はどうぞよろしくお願いいたします。
佐藤智美(以下 智美): よろしくお願いします。
秀峰: まずは離婚されたということで、お話を伺ってもよろしいでしょうか?あまり立ち入ったことをお聞きするのも心苦しいのですが…。
智美: いえいえ、どうぞ(笑)。
秀峰: では、まずは離婚の原因からお話いただけるでしょうか?もちろんお話しできる範囲でかまいません。文章は必ず掲載前にご確認いただきますので、言い過ぎたところや言い足りなかった部分は後から修正もできます。ざっくばらんにお話いただければありがたいです。
智美: 了解です。そうですね、離婚の原因は簡単にいうと配偶者の不貞行為です。
私ではない女性を妊娠させてしまったとのことで、元夫から突然告白されました。
秀峰: え…!?…あー…、それは…大変ですね…。シャレにならな いと言うか、何と申し上げて良いのやら…。
智美: ええ。浮気だったら…と言ったらアレでですけど、完全にアウトですよね。私はそんな相手がいることも知らず、まったくゼロの状態だったので驚きましたよ。
秀峰: 初耳ですか?
智美: はい、まったく知りませんでした。確か、そうですね…。(カレンダーを確認する)今年2月2日です。土曜日の午後に聞かされました。
最初は「子供ができた。認知したい」という話でしたね。ちょうど私たちの子供(元ご夫婦の間にはお子さんがいらっしゃるそうです)が習い事で出かけている時間があって、元夫と二人きりの時に聞いたのですが、聞かされてから2時間くらいで離婚を決意しました。
自宅のすぐ近くに会社の事務所があるのですが、話の後、元夫は事務所に用事があって出かけなくてはいけなかったんです。
話自体はやはり2時間くらいしたのかな?
で、出かけている間に家の掃除をしながら考えました。離婚しようと思い、事務所に電話をかけ、受話器越しに元夫に「離婚しましょう」と伝えましたよ。
秀峰: 元ご主人は何とおっしゃっていましたか?
智美: 「えぇ〜〜〜〜!?」って言ってました。
秀峰: そうですか。そのくらいしかリアクションが取れなかったんでしょうね…。
離婚について、掃除をしながら考えたとおっしゃいましたが、具体的にはどのようなことを考えましたか?
智美: まず「認知したい」とのことですので、これについては子供の命を断つようなことがあってはいけませんし、認知すべきと思いました。これは聞いた瞬間に思いましたね。
元夫は漫画家という仕事柄、家を空けることも多かったのですが、それについては信頼していましたし、彼は子供が小さい頃から育児には協力的で、最近は子育てが幼児期より落ち着いてきたこともあって、漫画家として、同業者として理解したいとも思っていました。それなのに、裏でそういうことをしていたというのがショックですよ。
秀峰: 分かります。
智美: いえ、分かってないからそういうことをするんでしょうけど…。とにかく認知するということは決まっているので、そうなると夫婦を続けることに疑問を感じました。私も子供を産んだことがありますし、元夫がやらかしたことや時期は想像がつく訳です。あの忙しい時期に 「このクソ野郎がっ!」 と思いました(笑)。
あ、いえ「クソ野郎共がっっ!!」ですね。
秀峰: まずはショックを受けて、続いて相手に対する否定の気持ちが起こったと。
智美: はい。その次は「なぜ?」という疑問やモヤモヤした気持ちや黒い感情が沸き起こってきて、何て言うんですかね…?透明な水に黒いインクを一滴垂らしたような、黒いものが自分の中にじわじわと広がっていくのを感じました。
もしかしたら認知した上で夫婦を続けるという選択もあるのかもしれませんが、これから産まれてくる新しい子供との親子関係は一生切れるものではありませんよね?私と元夫は元々は他人同士で、私との関係は解除できるものです。だったら、私はその輪からは外に出ようかなと。元夫は私の知らない所 で勝手にもう一つ輪を作っていて、その輪に私を組み入れられるのはちょっと…。それこそ、夫婦を続けたら私の収入が認知した子の養育費にまわされる可能性だってあります。私は慰謝料を請求できる側です。元夫が「自分は未婚だ」と相手の女性を騙していたなら仕方ないけど、女性も元夫が妻帯者であることは知っていたわけですからね。

■2時間で離婚を決断した
秀峰: 非常に理路整然としているというか、それだけのことを掃除をしている2時間で考えたのですか?
智美: モヤモヤするのも面倒くさいですし、自分が悪感情にさらされるのが嫌でしたね。夫の不倫と女性の妊娠と夫婦問題を同時に突きつけられて、しかも「意見を聞かせてほしい」って言うんです。「何それ!?私に決めさせるの!?」という感じですよ。
「あなたはどうしたいの?離婚したいの ?」と聞いても「あなたの意見を1番に尊重したい」って。
後で調べたら、法的には私がどうするかを決める権利が強いみたいで、それを元夫は知ってたんでしょうね。
その日まで私はそんなことを考えたこともなかったし、元夫と女性には心の準備があったのに…。



(佐藤秀峰氏の作品でもこんなシーンが。『新ブラックジャックによろしく」第2巻より)
秀峰: お気持ちが混乱されたことは容易に想像がつきます。でも、2時間で決断するというのは早すぎませんか?
混乱していた訳ですし、せめて1日考えてみるとか…。
智美: 極論から入ったほうが楽というか、離婚を考えたら気持ちが軽くなったんですよね。我慢して夫婦生活を続けるのは自分にとっても、子供にとっても良くないと思ったんですよ。母親は笑顔でがんばっていないと(笑)。
後、 話が変わりますけど、元夫のお姉さんのことも大きいですね。元夫のお姉さんは元々は結婚していて、実はその後、不倫して離婚したのですが、それを私も元夫も「いけないことだよ」と子供に教えてきました。「自分の父親ならOKだよ」とは言えません。子供の倫理観に悪影響を与えてはいけないですし、夫婦で居続けたらそのことで喧嘩もするでしょうし、自分が元夫を責める姿を見せたくなかったというのもあります。
■生活は?子供を誰が育てるか?
秀峰: 今、お子さんのお話が出ましたが、離婚をした場合、お子さんはどうしようと思われましたか?
智美: 子供は自分が育てようと思いました。それは決まっていました。でも…、そうなんですよね。離婚問題というのは親の問題であることが大きくて、この場合も離婚してスッキリしたいのは親である自分であって、子供がそれを望んでいるのかはその時点では分かっていませんでした。
「だから離婚はしない」とは思わなかったですけどね。元夫が間違った大人だとしたら、正しい倫理観を教えられるのは自分だけですよね。このまま一緒にいたら、私も間違ったことを受け入れる大人に なってしまうので、誰も正しいことを教えられる大人がいなくなってしまいます。子供のためにも離婚すべきだと考えました。
とは言っても、初めは自己満足の部分もあったと思います。元夫も私の気持ちに沿いたいと言ってたので、そうさせてもらおうと。
秀峰: ただ、離婚は大変だとは思いませんでしたか。今までの生活スタイルが一変してしまうことになりますよね?
智美: そうですね。「漫画家を続けていけるのだろうか?」とか「どこに住むか?」とか「子供をどこで育てるか?」とか、いろいろなことを思いました。いろいろ思いましたが、子供のことを一番に考えようとは最初からずっと思っていました。まず考えたのは実家に戻って、子供は転校というパターンですね。仕事的には ちょうど新作の準備を始めた時期でしたし、クラウドファンディング(*後ほど説明)も企画進行中でしたし、すぐに動くのは難しい反面、子供の春休みも迫っ ていて、転校のタイミング的には「今」という気持ちもあって…。
秀峰: 「今でしょ!」ってヤツですね。
智美:もう古いですよ、それ。で、一方では実家には介護の必要な祖母がいて、「同居は難しいのかな?」とか、「だとしたら実家の近くで物件を探して」とか、とにかくやらなければならない事が多過ぎてどこから手を付けたらいいかよく分からなくなってしまいました。
結論的には、今の自宅にとりあえず住んで、仕事は節目があると思うので、その都度、考えようと思いました。子供についてはもう「父親は死んだ」とか「外国に行った」では通じない年齢なので、「離婚」という親の決断を一方的に押し付けるのではなく、なるべく彼の意思を尊重しようと思いました。仲の良い夫婦だったと思うんです。子供に「何で自分がこんな目に遭わなきゃいけないんだ?」と思わせないようにしたいと思いました。
秀峰: この時点ではお子さんにはまだお話しされていなかったということになりますか?
智美: そうですね。まだ今後の方針がはっきりしていなかったですし、今の家に住み続けようと決断するまでには1,2週間かかりました。子供は転校は嫌がるだろうし、今、すごく友達を大事にしている時期なので、大好きな友達と引き離すのはかわいそう、寂しいだろうと。実家に近くに引っ越した方が私と2人暮らしよりは寂しくないのかな?という気持ちもありましたが、友達との関係を優先しました。今ある環境はなるべく変えずに、失うものは少なく、喪失感はなるべくないようにと考えました。
夫婦ではなくなるけど、子供の親であることには変わりありませんし、仕事上は良いパートナーとして関係を続け、親としても良好な関係でいたいと思いました。

■漫画家として
秀峰: 「仕事のパートナーとして」というお話が出ましたが、お仕事は元旦那さんと一緒に続けられるということですか?次はその辺りのお話を伺わせてください。
智美: はい、どうぞ。
秀峰: あ、その前にまず、漫画家は続けていかれるのですよね?
智 美: そうです。繰り返しになりますが、離婚しようと思った時に「漫画家を辞めるかどうか?」は考えましたよ。才能はないし、売れてないし、続けたいし続けること自体はできるけど、「続けていいのだろうか?」というのは疑問でした。まだ独立して事務所を構えるほど仕事が安定していないというのもあって、 「生活を考えたら転職して確実に収入を得られる仕事を探した方がいいのかな?」と悩みました。幸い元夫は漫画家を続けることには協力的で、今まで通り、 ネームを見せて意見を交わし合ったり、仕事場や仕事をできる環境は提供すると提案してくれたので、将来的に独立を目指しつつ、サポートは受け入れようと思いました。
秀峰: 元旦那さんとしては「佐藤智美」という漫画家の才能を信じているし、離婚でそれが左右されることがあってはならないと考えたのでしょうかね。
とは言え、離婚の原因を作った元旦那さんのサポートを受け入れることは嫌じゃありませんでしたか?
智美: うーん…、仕事だけじゃないと言うか、子供の親として関係をプッツリと切ることはできないので、夫婦関係は壊れましたが、要するに残った関係をどうしていくかということだと思うんです。すべて拒絶することもないのかなぁと。これでやってみようと思いました。
関係の一部はなくなるけど、全部をなくす必要はないのかもしれません。子供の父親は元夫しかいないですから。いろんな人にいろいろな意見を言われましたけど、元夫はその辺は理解がある人で慰謝料や養育費の支払いには応じていますし、生活や仕事の環境作りにも協力的です。それがないと今話してきた選択はできなかったと思います。
秀峰: 慰謝料に養育費ですか…。リアルですね…。では、離婚してもなるべく今のままの環境でお仕事と生活を続けられるということで、気持ちに矛盾はないということでよろしいでしょうか?
智美: そんな所です。

■子供にどう伝えたか?
秀峰: もう一つ伺いたいのですが、お子さんにはいつどのような形でこの件をお話しされたのですか?デリケートな部分かとは思いますが…。
智美: うーん…、彼は立派でしたね。学校の春休み前に話しました。いきなり話しても両親の離婚が受け入れられないのではないかと心配があったので、元夫が不在の時に「もしかしたら離婚するかもしれない」ということをそれとなく伝えていました。子供からは「喧嘩したの?」 「自分が悪いことしたの?」「仲直りできないの?」と質問があり、とても気にしていました。その1週間後に家族3人で夕食後に話しました。
秀峰: そうでしたね。伝えた時はどのような様子でしたか?
智美: 子供は家族会議に向けて準備をしていました。「このままでは納得できない」ということで、離婚すべきかどうかは自分が判断すると言って、取り調べ調書のような資料を作っていました。氏名や年齢を記入する欄などがあり、必要事項を記入すると離婚の原因を質問し、元夫がそれに答えました。
秀峰: そうでした。僕は 「お父さんは、お前とお母さんを大切に思っているにもかかわらず、2人を裏切り、お母さんではない女の人との間に子供を作ってしまいました」と話しました。息子はそれほど動揺した様子もなく「何で?」と聞き返し、僕は「いけないことだと分かっていたけど、裏切ってしまった」と答えました。息子はもう一度 「何で?」と聞き、「心が弱かったからだと思います」と答えると、また「何で?」と答えました。心が弱い理由を説明すると、また「何で?」と返され、そん なやり取りが続いた後で、僕がこう答えました。
「相手の女の人を好きだと思う気持ちや、その場の楽しい気持ちに流されてしまったり、それをしてしまったらどうなるのか、人の気持ちを考えられない弱い心があり、お母さんとお前を裏切ってしまう事になると分かっていながら、赤ちゃんを作ってしまいました。お父さんのしたことはとても悪いことです。だけど、これから産まれてくる赤ちゃんは何も悪くありません。お前のことを誰よりも愛しているのに、本当にごめんなさい」
もう少し何か言いたかったけど、上手く話せませんでした。
その後、息子も僕も声を上げて泣きました。
智美さんも泣いていました。
智美: 子供は自分が離婚を引き止めるつもりだったみたいですよ。でも、引き止めなかった理由を後で聞いたら「あ、これは無理だ」と思ったんだそうです。子供は用意した紙に離婚の理由などを書き終わると、最後に別紙に私と元夫の署名を求めました。
それは子供の手作りの離婚証明書でした。
署名すると、最後に封書を手渡されました。
あらかじめ手紙を用意していたんですね。
こちらです。
佐藤秀峰(以下 秀峰): 本日はどうぞよろしくお願いいたします。
佐藤智美(以下 智美): よろしくお願いします。
秀峰: まずは離婚されたということで、お話を伺ってもよろしいでしょうか?あまり立ち入ったことをお聞きするのも心苦しいのですが…。
智美: いえいえ、どうぞ(笑)。
秀峰: では、まずは離婚の原因からお話いただけるでしょうか?もちろんお話しできる範囲でかまいません。文章は必ず掲載前にご確認いただきますので、言い過ぎたところや言い足りなかった部分は後から修正もできます。ざっくばらんにお話いただければありがたいです。
智美: 了解です。そうですね、離婚の原因は簡単にいうと配偶者の不貞行為です。
私ではない女性を妊娠させてしまったとのことで、元夫から突然告白されました。
秀峰: え…!?…あー…、それは…大変ですね…。シャレにならな いと言うか、何と申し上げて良いのやら…。
智美: ええ。浮気だったら…と言ったらアレでですけど、完全にアウトですよね。私はそんな相手がいることも知らず、まったくゼロの状態だったので驚きましたよ。
秀峰: 初耳ですか?
智美: はい、まったく知りませんでした。確か、そうですね…。(カレンダーを確認する)今年2月2日です。土曜日の午後に聞かされました。
最初は「子供ができた。認知したい」という話でしたね。ちょうど私たちの子供(元ご夫婦の間にはお子さんがいらっしゃるそうです)が習い事で出かけている時間があって、元夫と二人きりの時に聞いたのですが、聞かされてから2時間くらいで離婚を決意しました。
自宅のすぐ近くに会社の事務所があるのですが、話の後、元夫は事務所に用事があって出かけなくてはいけなかったんです。
話自体はやはり2時間くらいしたのかな?
で、出かけている間に家の掃除をしながら考えました。離婚しようと思い、事務所に電話をかけ、受話器越しに元夫に「離婚しましょう」と伝えましたよ。
秀峰: 元ご主人は何とおっしゃっていましたか?
智美: 「えぇ〜〜〜〜!?」って言ってました。
秀峰: そうですか。そのくらいしかリアクションが取れなかったんでしょうね…。
離婚について、掃除をしながら考えたとおっしゃいましたが、具体的にはどのようなことを考えましたか?
智美: まず「認知したい」とのことですので、これについては子供の命を断つようなことがあってはいけませんし、認知すべきと思いました。これは聞いた瞬間に思いましたね。
元夫は漫画家という仕事柄、家を空けることも多かったのですが、それについては信頼していましたし、彼は子供が小さい頃から育児には協力的で、最近は子育てが幼児期より落ち着いてきたこともあって、漫画家として、同業者として理解したいとも思っていました。それなのに、裏でそういうことをしていたというのがショックですよ。
秀峰: 分かります。
智美: いえ、分かってないからそういうことをするんでしょうけど…。とにかく認知するということは決まっているので、そうなると夫婦を続けることに疑問を感じました。私も子供を産んだことがありますし、元夫がやらかしたことや時期は想像がつく訳です。あの忙しい時期に 「このクソ野郎がっ!」 と思いました(笑)。
あ、いえ「クソ野郎共がっっ!!」ですね。
秀峰: まずはショックを受けて、続いて相手に対する否定の気持ちが起こったと。
智美: はい。その次は「なぜ?」という疑問やモヤモヤした気持ちや黒い感情が沸き起こってきて、何て言うんですかね…?透明な水に黒いインクを一滴垂らしたような、黒いものが自分の中にじわじわと広がっていくのを感じました。
もしかしたら認知した上で夫婦を続けるという選択もあるのかもしれませんが、これから産まれてくる新しい子供との親子関係は一生切れるものではありませんよね?私と元夫は元々は他人同士で、私との関係は解除できるものです。だったら、私はその輪からは外に出ようかなと。元夫は私の知らない所 で勝手にもう一つ輪を作っていて、その輪に私を組み入れられるのはちょっと…。それこそ、夫婦を続けたら私の収入が認知した子の養育費にまわされる可能性だってあります。私は慰謝料を請求できる側です。元夫が「自分は未婚だ」と相手の女性を騙していたなら仕方ないけど、女性も元夫が妻帯者であることは知っていたわけですからね。
■2時間で離婚を決断した
秀峰: 非常に理路整然としているというか、それだけのことを掃除をしている2時間で考えたのですか?
智美: モヤモヤするのも面倒くさいですし、自分が悪感情にさらされるのが嫌でしたね。夫の不倫と女性の妊娠と夫婦問題を同時に突きつけられて、しかも「意見を聞かせてほしい」って言うんです。「何それ!?私に決めさせるの!?」という感じですよ。
「あなたはどうしたいの?離婚したいの ?」と聞いても「あなたの意見を1番に尊重したい」って。
後で調べたら、法的には私がどうするかを決める権利が強いみたいで、それを元夫は知ってたんでしょうね。
その日まで私はそんなことを考えたこともなかったし、元夫と女性には心の準備があったのに…。
(佐藤秀峰氏の作品でもこんなシーンが。『新ブラックジャックによろしく」第2巻より)
秀峰: お気持ちが混乱されたことは容易に想像がつきます。でも、2時間で決断するというのは早すぎませんか?
混乱していた訳ですし、せめて1日考えてみるとか…。
智美: 極論から入ったほうが楽というか、離婚を考えたら気持ちが軽くなったんですよね。我慢して夫婦生活を続けるのは自分にとっても、子供にとっても良くないと思ったんですよ。母親は笑顔でがんばっていないと(笑)。
後、 話が変わりますけど、元夫のお姉さんのことも大きいですね。元夫のお姉さんは元々は結婚していて、実はその後、不倫して離婚したのですが、それを私も元夫も「いけないことだよ」と子供に教えてきました。「自分の父親ならOKだよ」とは言えません。子供の倫理観に悪影響を与えてはいけないですし、夫婦で居続けたらそのことで喧嘩もするでしょうし、自分が元夫を責める姿を見せたくなかったというのもあります。
■生活は?子供を誰が育てるか?
秀峰: 今、お子さんのお話が出ましたが、離婚をした場合、お子さんはどうしようと思われましたか?
智美: 子供は自分が育てようと思いました。それは決まっていました。でも…、そうなんですよね。離婚問題というのは親の問題であることが大きくて、この場合も離婚してスッキリしたいのは親である自分であって、子供がそれを望んでいるのかはその時点では分かっていませんでした。
「だから離婚はしない」とは思わなかったですけどね。元夫が間違った大人だとしたら、正しい倫理観を教えられるのは自分だけですよね。このまま一緒にいたら、私も間違ったことを受け入れる大人に なってしまうので、誰も正しいことを教えられる大人がいなくなってしまいます。子供のためにも離婚すべきだと考えました。
とは言っても、初めは自己満足の部分もあったと思います。元夫も私の気持ちに沿いたいと言ってたので、そうさせてもらおうと。
秀峰: ただ、離婚は大変だとは思いませんでしたか。今までの生活スタイルが一変してしまうことになりますよね?
智美: そうですね。「漫画家を続けていけるのだろうか?」とか「どこに住むか?」とか「子供をどこで育てるか?」とか、いろいろなことを思いました。いろいろ思いましたが、子供のことを一番に考えようとは最初からずっと思っていました。まず考えたのは実家に戻って、子供は転校というパターンですね。仕事的には ちょうど新作の準備を始めた時期でしたし、クラウドファンディング(*後ほど説明)も企画進行中でしたし、すぐに動くのは難しい反面、子供の春休みも迫っ ていて、転校のタイミング的には「今」という気持ちもあって…。
秀峰: 「今でしょ!」ってヤツですね。
智美:もう古いですよ、それ。で、一方では実家には介護の必要な祖母がいて、「同居は難しいのかな?」とか、「だとしたら実家の近くで物件を探して」とか、とにかくやらなければならない事が多過ぎてどこから手を付けたらいいかよく分からなくなってしまいました。
結論的には、今の自宅にとりあえず住んで、仕事は節目があると思うので、その都度、考えようと思いました。子供についてはもう「父親は死んだ」とか「外国に行った」では通じない年齢なので、「離婚」という親の決断を一方的に押し付けるのではなく、なるべく彼の意思を尊重しようと思いました。仲の良い夫婦だったと思うんです。子供に「何で自分がこんな目に遭わなきゃいけないんだ?」と思わせないようにしたいと思いました。
秀峰: この時点ではお子さんにはまだお話しされていなかったということになりますか?
智美: そうですね。まだ今後の方針がはっきりしていなかったですし、今の家に住み続けようと決断するまでには1,2週間かかりました。子供は転校は嫌がるだろうし、今、すごく友達を大事にしている時期なので、大好きな友達と引き離すのはかわいそう、寂しいだろうと。実家に近くに引っ越した方が私と2人暮らしよりは寂しくないのかな?という気持ちもありましたが、友達との関係を優先しました。今ある環境はなるべく変えずに、失うものは少なく、喪失感はなるべくないようにと考えました。
夫婦ではなくなるけど、子供の親であることには変わりありませんし、仕事上は良いパートナーとして関係を続け、親としても良好な関係でいたいと思いました。
■漫画家として
秀峰: 「仕事のパートナーとして」というお話が出ましたが、お仕事は元旦那さんと一緒に続けられるということですか?次はその辺りのお話を伺わせてください。
智美: はい、どうぞ。
秀峰: あ、その前にまず、漫画家は続けていかれるのですよね?
智 美: そうです。繰り返しになりますが、離婚しようと思った時に「漫画家を辞めるかどうか?」は考えましたよ。才能はないし、売れてないし、続けたいし続けること自体はできるけど、「続けていいのだろうか?」というのは疑問でした。まだ独立して事務所を構えるほど仕事が安定していないというのもあって、 「生活を考えたら転職して確実に収入を得られる仕事を探した方がいいのかな?」と悩みました。幸い元夫は漫画家を続けることには協力的で、今まで通り、 ネームを見せて意見を交わし合ったり、仕事場や仕事をできる環境は提供すると提案してくれたので、将来的に独立を目指しつつ、サポートは受け入れようと思いました。
秀峰: 元旦那さんとしては「佐藤智美」という漫画家の才能を信じているし、離婚でそれが左右されることがあってはならないと考えたのでしょうかね。
とは言え、離婚の原因を作った元旦那さんのサポートを受け入れることは嫌じゃありませんでしたか?
智美: うーん…、仕事だけじゃないと言うか、子供の親として関係をプッツリと切ることはできないので、夫婦関係は壊れましたが、要するに残った関係をどうしていくかということだと思うんです。すべて拒絶することもないのかなぁと。これでやってみようと思いました。
関係の一部はなくなるけど、全部をなくす必要はないのかもしれません。子供の父親は元夫しかいないですから。いろんな人にいろいろな意見を言われましたけど、元夫はその辺は理解がある人で慰謝料や養育費の支払いには応じていますし、生活や仕事の環境作りにも協力的です。それがないと今話してきた選択はできなかったと思います。
秀峰: 慰謝料に養育費ですか…。リアルですね…。では、離婚してもなるべく今のままの環境でお仕事と生活を続けられるということで、気持ちに矛盾はないということでよろしいでしょうか?
智美: そんな所です。
■子供にどう伝えたか?
秀峰: もう一つ伺いたいのですが、お子さんにはいつどのような形でこの件をお話しされたのですか?デリケートな部分かとは思いますが…。
智美: うーん…、彼は立派でしたね。学校の春休み前に話しました。いきなり話しても両親の離婚が受け入れられないのではないかと心配があったので、元夫が不在の時に「もしかしたら離婚するかもしれない」ということをそれとなく伝えていました。子供からは「喧嘩したの?」 「自分が悪いことしたの?」「仲直りできないの?」と質問があり、とても気にしていました。その1週間後に家族3人で夕食後に話しました。
秀峰: そうでしたね。伝えた時はどのような様子でしたか?
智美: 子供は家族会議に向けて準備をしていました。「このままでは納得できない」ということで、離婚すべきかどうかは自分が判断すると言って、取り調べ調書のような資料を作っていました。氏名や年齢を記入する欄などがあり、必要事項を記入すると離婚の原因を質問し、元夫がそれに答えました。
秀峰: そうでした。僕は 「お父さんは、お前とお母さんを大切に思っているにもかかわらず、2人を裏切り、お母さんではない女の人との間に子供を作ってしまいました」と話しました。息子はそれほど動揺した様子もなく「何で?」と聞き返し、僕は「いけないことだと分かっていたけど、裏切ってしまった」と答えました。息子はもう一度 「何で?」と聞き、「心が弱かったからだと思います」と答えると、また「何で?」と答えました。心が弱い理由を説明すると、また「何で?」と返され、そん なやり取りが続いた後で、僕がこう答えました。
「相手の女の人を好きだと思う気持ちや、その場の楽しい気持ちに流されてしまったり、それをしてしまったらどうなるのか、人の気持ちを考えられない弱い心があり、お母さんとお前を裏切ってしまう事になると分かっていながら、赤ちゃんを作ってしまいました。お父さんのしたことはとても悪いことです。だけど、これから産まれてくる赤ちゃんは何も悪くありません。お前のことを誰よりも愛しているのに、本当にごめんなさい」
もう少し何か言いたかったけど、上手く話せませんでした。
その後、息子も僕も声を上げて泣きました。
智美さんも泣いていました。
智美: 子供は自分が離婚を引き止めるつもりだったみたいですよ。でも、引き止めなかった理由を後で聞いたら「あ、これは無理だ」と思ったんだそうです。子供は用意した紙に離婚の理由などを書き終わると、最後に別紙に私と元夫の署名を求めました。
それは子供の手作りの離婚証明書でした。
署名すると、最後に封書を手渡されました。
あらかじめ手紙を用意していたんですね。
こちらです。
この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
入会して購読
この記事は過去記事の為、今入会しても読めません。ニコニコポイントでご購入下さい。