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悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史
【第5回】 2013年8月6日
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吉田典史 [ジャーナリスト]

「ひどい女、この足で踏みつけてやりたい……」
女上司の拷問研修で職場を追われた模範社員の無念

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会社に見限られた職場は死んだよう
「拷問研修」で心を病んだ社員も

 高田さんらアウトバンド二十数人は、午前10時から午後5時頃までの間に、お客さんの自宅に電話を入れ、自社で扱う化粧品などを案内し、契約に漕ぎ着ける。

 オペレーターはその大半が契約社員で、期間は半年ごとが多い。3月末、定年(65歳)で3人が退職した。

 定年退職以外にも、2人が辞めた。1人は63歳の高田さんで、もう1人はいじめに近い「研修」を受け、うつ病になり、依願退職した。現在は心療内科に週1回、通っているという。会社は、この5人の代わりに新たな人を雇うことはしていない。

 高田さんは、依頼退職した女性を気遣う。「拷問のような研修を受けさせられたの。あれで、精神がおかしくなったのだと思う。5キロくらい痩せたみたい。当初は『がんになったのかな』と言っていた。診療内科に行くことは、抵抗感があったようだった」

 会社の社員数は正社員・非正社員を含め、60人ほど。親会社は正社員が約150人で、地方に工場も持つ。グループ会社は10社ほどで、全体としては業績がよく、必要に迫られたリストラは行っていない。

 2011年の秋頃から、高田さんが籍を置く部署は仕事が大幅に減った。不況の影響や、インターネットなどの化粧品販売が浸透し、顧客を奪われたことが背景にある。最近は、1日60軒くらい電話をしないと営業成績を維持できないほどに、顧客数が落ち込んでいた。リストは管理部門から与えられる。

 会社も、この部門にかつてのようには力を入れなくなった。人員や予算などは縮小傾向にあった。ここ1~2年、職場は活気をなくし、高田さんいわく「死んだような雰囲気だった」という。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年10月からフリー。主に経営分野で取材・執筆・編集を続ける。専門学校、NPO、経済団体、コンサルティング会社で文章指導の講師も務める。2011年3月11日の東日本大震災発生直後からこれまでに20数回、被災地に入り、「死者・行方不明者2万人」となった真相を明らかにしようと、精力的に関係者を取材した。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『非正社員から正社員になる!』(光文社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、東洋経済新報社などで執筆。

 


悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史

 企業で働くビジネスマンが喘いでいる。職場では競争原理が浸透し、リストラなどの「排除の論理」は一段と強くなる。そのプロセスでは、退職強要やいじめ、パワハラなどが横行する。最近のマスメディアの報道は、これら労働の現場を俯瞰で捉える傾向がある。

 たとえば、「解雇規制の緩和」がその一例と言える。事実関係で言えば、社員数が100以下の中小企業では、戦前から一貫して解雇やその前段階と言える退職強要などが乱発されているにもかかわらず、こうした課題がよく吟味されないまま、「今の日本には解雇規制の緩和が必要ではないか」という論調が一面で出ている。また、社員に低賃金での重労働を強いる「ブラック企業」の問題も、あたかも特定の企業で起きている問題であるかのように、型にはめられた批判がなされる。だが、バブル崩壊以降の不況や経営環境の激変の中で、そうした土壌は世の中のほとんどの企業に根付いていると言ってもいい。

 これまでのようにメディアが俯瞰でとらえる限り、労働現場の実態は見えない。会社は状況いかんでは事実上、社員を殺してしまうことさえある。また、そのことにほぼ全ての社員が頬かむりをし、見て見ぬふりをするのが現実だ。劣悪な労働現場には、社員を苦しめる「狂気」が存在するのだ。この連載では、理不尽な職場で心や肉体を破壊され、踏みにじられた人々の横顔を浮き彫りにし、彼らが再生していくプロセスにも言及する。転機を迎えた日本の職場が抱える問題点や、あるべき姿とは何か。読者諸氏には、一緒に考えてほしい。

「悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史」

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