私が会った飯野賢治という人
テーマ:忍之日記
2013年02月23日(土)
▼私が会った飯野賢治という人
発売中■BOOK:「息子へ。 / 飯野賢治」
既に各方面でさんざん取り上げられているのでご存知のことと思うが
「Dの食卓」など、90年代にゲームクリエーターとして活躍した
飯野賢治氏がお亡くなりになった。享年42歳。
クリエーターの方が亡くなってこれほどショックを受けたのは今敏監督以来。
当BLOGでも昨年9月に軽い近況と著書「息子へ」を紹介したばかりで
わずか半年ほどでこんなことになろうとは夢にも思っていなかった。
近しい方からの追悼記事はWebのあちこちで読むことができるので
私は「ほんの少しだけ知っている人」という距離から飯野氏を振り返ってみたい。
発売中■PS:「Dの食卓 COMPLETE GRAPHICS PlayStation the Best」
多くの方にとって飯野氏と言えば、巨漢に長髪のイメージだろう。
プレイステーションとセガサターンが激しいシェア争いをしていた頃に
PSからSSへの電撃移籍を発表し、当時のゲーマーを随分と驚かせたものだった。
3DOも持っていた私からすると、真っ先にハード戦争から脱落した3DOを
牽引していたのが飯野氏率いるワープであったため
世間から忘れられてゆくことに一抹の寂しさを感じたりもしたのだが
3DOで生まれた「Dの食卓」を手土産にして、飯野氏はゲーム業界だけなく
文筆、音楽、テレビまで八面六臂の勢いで活躍の場を拡げていった。
今でこそクリエーターがメディアに登場するのは当たり前になったが
当時はまだまだ裏方であり、クリエーターへのインタビュー記事が
誌面のトップを飾ることなどほとんど無かったように記憶している。
それまでのクリエーターには無い過激な発言や奇抜なプロモーション展開
(数十万の限定版を販売し、購入者の元へ飯野氏が直接届けるなど)が耳目を集め
飯野氏は一躍ゲーム業界の寵児となった。
同時に、その歯に衣着せぬ発言は度々物議を醸し、
特に「ゲーム批評」誌上で連載された「エビスからの手紙」は
多くのゲーマーが抱いていた疑問や不満を代弁するかのような内容で大きな話題となった。
しかし、ゲームクリエーターとしては「エネミー・ゼロ」をピークにして下降線を辿り
続く「リアルサウンド 風のリグレット」「Dの食卓2(D2)」も苦戦。
飯野氏の評判も「声だけは大きいが、出してきた作品は・・・」へと変わっていった。
私が飯野氏にお会いしたのもちょうどこの頃。
確か「リアルサウンド」の発売前(1997年頃)ではなかったか。
矢野顕子のファンだという話で意気投合し、その後も時候の挨拶程度ではあるが
メールでやり取りをさせていただいた。
私がお会いした飯野氏は、メディアに登場する時の印象とは全く異なり
温厚で物静かな、時折少年のように屈託なく笑う、とても純粋な方だった。
ゲームの話をするつもりが、アッコちゃんのアルバムでどれが好きかという話に
終始してしまったのは、今でも楽しい想い出だ。
その日をきっかけに、睨みつけるような表情でメディアに登場する飯野氏を見るにつけ
これはご自身の作品と会社(ワープ)の認知度を上げるための
創られたヒール役なのだろう、と思うようになった。
そして、(ゲーム業界の)第一線を退いてからの飯野氏の活動を追っていくごとに
その予想は確信へと変わっていった。
配信中■iTMS:「newtonica / Kenji Eno」
配信中■iTMS:「きみとぼくと立体。/ Kenji Eno」
配信中■iOS:「newtonica 2」
配信中■iOS:「newtonica 2 resort」
配信中■iOS:「newtonica」
*iOSで発表された「newtonica」シリーズが現在無料で提供中。
ゲームも、ピアノも、奥さんも、お子さんも、好きなものを真っ直ぐに愛して
最後の最後に少しだけ世間を騒がせて42年の人生に幕を下ろした飯野氏。
知名度からしても、手掛けた作品の販売本数からしても
彼を上回る功績を持つクリエーターはゴマンと存在するだろう。
しかし、ネット上の反響の大きさと、その大半が早過ぎる死を悼んでいることを見て
彼がゲーム業界に与えた影響は、もしかすると彼が思っている以上に
大きかったのではないか、と思った。
有り難くもなんともないご高説をグダグダ垂れ流すクリエーターが増えれば増えるほど
そのカウンターとして、飯野氏の破天荒な人柄と、素人目にも分かり易い
劇場型のメディア露出に、当時のゲーマーは得体の知れない期待感を持っていたのだ。
正直に言います。
「エネミー・ゼロ」は難し過ぎて挫折しました。
「Dの食卓 2」もあまり好きではありません。
でも、型にはまらないあなたの作品に、私はいつもワクワクさせられていました。
ありがとうございました。
心よりご冥福をお祈りいたします。
飯野賢治企画監督作品「風のリグレット」の脚本(坂元裕二)
ゲーム史上初、絵のないアドベンチャーゲームとして話題を集めた
「リアルサウンド 風のリグレット」の脚本を、執筆者である坂元裕二氏本人が公開中。
坂元氏はフジテレビ主催のシナリオ大賞を受賞してデビューした脚本家で
90年代は「東京ラブストーリー」「二十歳の約束」など
全盛期の月9を支えたひとりとして活躍した。
コミカルなテイストと決め台詞が持ち味の作家であったが
松雪泰子と芦田愛菜が疑似の母娘を演じた名作ドラマ「Mother」で大きく方向転換し
少年犯罪の闇に迫った「それでも、生きてゆく」は各方面から絶賛された。
現在は瑛太・尾野真千子・真木よう子・綾野剛のアンサンブルが楽しい
「最高の離婚」が放送中。
「リアルサウンド」は音楽を鈴木慶一、主題歌を矢野顕子が手掛け
出演者も柏原崇、菅野美穂、篠原涼子らを起用していた。
SS版発売から数年後に発売されたiPodのホイール操作を触った時に
「この端末なら最高の組み合わせだったな」と思ったのを良く覚えている。
追悼・飯野賢治(遠藤雅伸公式blog「ゲームの神様」)
飯野氏のピュアな暴走少年ぶりが良くわかるエントリー。
「飯野賢治」という名の永遠のリグレット(琥珀色の戯言)
飯野氏の作品を楽しませていただいたユーザーとして共感する部分の多いエントリー。
追悼:飯野賢治 「きみとぼくと立体。」( blog珍品堂)
Wiiウェア「きみとぼくと立体」のレビュー。
最後に、飯野氏の「やんちゃ坊主」的なパブリックイメージを決定付けた
「エビスからの手紙 スクウェア篇」を掲載。
17年ほど前に購入した「ゲーム批評」を棚から引っ張り出してきた。
当時のスクウェアは、長年任天堂ハードに投入していた「FF」の最新作を
PSに投入すると宣言しただけでなく、既流通を無視したコンビニ流通の強硬立ち上げや
クリエーターの大量引き抜きなど、とにかくやること成すこと全てが派手だった。
現在は業界の情勢も随分と変わっているので、その点を念頭に置いて読んでいただければ。
エビスからの手紙 スクウェア様篇
どうもみなさん、おひさしぶりの飯野です。
この連載ももう5回目になるんですけど、前回は珍しく「褒め手紙」だったので
いろんな人から「パワー落ちたね」とか「もう怒るコト無くなったんじゃないの?」とか
言われまくりましたが、今回は違ーう!もう怒りまくっている!
もう高城どころじゃなーい!
なぜだれも語らん?ナゼだれも書かん?何故だれも怒らん?
そう、連載第1回目以来の久々のハイテンションでおくる
今回の手紙の宛先は、スクゥエア様です。
<スクウェア様、人の迷惑も考えましょう>
今回、スクウェア様にこの手紙で言いたいのは、
「あんた、クリエーター引っこ抜き過ぎだ!業界めちゃくちゃにするな!
迷惑している人や会社、そして業界全体のことも考えろ!」ということです。
もし<引っこ抜く>という言葉に問題あるなら撤回します。
ただ、何十人ものクリエーターを良い条件で、それが制作途中であっても、
ヘタすりゃチームごと自分の会社に連れてくる、それが僕には
<引っこ抜き>という言葉以外思いつきません。
僕が<引っこ抜かれそうになった人>から聞いた話を考えても、
その接触の仕方、その交渉内容は完全に引っこ抜きです。
確かにこの引っこ抜きというヤツは、今までにも業界のエゲツない企業によって
多少は行われていましたが、ここまで大々的にやったことは無かったように思えます。
また、制作途中のスタッフまで引っこ抜くこともそんなには無かったですし
チームごと引っこ抜くなんて滅多に無かったと思います。
それはナゼでしょうか?
<ゲーム業界がメチャクチャになってしまうから>ではないでしょうか?
「RPGばっかりじゃキツいから、格闘も創りたいよね、よし!のチーム引っこ抜け」
「あのチームのRPG結構絵、上手いよな、よし!カモーン」じゃあ
業界おかしくなると思いませんか?
せめて、制作途中のスタッフを引っこ抜くのはマズいと思いませんか?
少なくとも僕は、スクウェアからワープ(僕のやってる会社です)に来たいという
スタッフには、「今やってるヤツが終わったら来てね」と言っています。
(もちろん、スクウェア以外から来た人にもね)
だって、欲しいから取るじゃ、バカなドロボーと同じだと思いません?
相手の事も考えましょうよ。
例えばサッカーの世界でも<引っこ抜き自由>じゃ、チームワークが滅茶苦茶になって
その国のサッカー全体のレベルが下がってしまうから
その時には相手に多額のお金を払ったり、シーズン中は避けるようにするなど
なるべく問題がないようにしてるじゃないですか。
もちろんこの業界、常識が通用しないのはよく知っていますが
せめて同じ業界の人々に迷惑かけるのはやめましょうよ。
小さな会社じゃないんですから、どちかというと手本になるべき規模の会社なんですから。
<お金が一番なのは分かりますが・・・>
別に僕は、スクウェアに行く人を悪く言うつもりはありません。
何十人もかけて大作を作るなどという、歯車社員の作業仕事はとても素晴らしく
自分の個性が発揮できるやりがいのあるグレートな仕事だと思います。
そして、クリエイティブにはお金も必要ですから
お金をチラつかせられたら行ってしまう、その気持ちよく分かります。
お金が一番ですよね。
またこの業界は生き残りが激しいですから、誘われたら良い方へ行ってしまい
途中まで創ってきた作品や、後に残された仲間のことなんて
全く考えないという、その気持ち大事です。
きっと周りから尊敬されることでしょう。
そんな人々は全く悪くないのです。とても賢い人達です。
だから!だ・か・ら!あんたが考えて欲しいんです!スクウェア!!
<スッキリ&ハッキリしたナイスなビジネス!?>
しかし、なんで突然こんな事をしているのでしょうか?
任天堂オンリーをやめて(完全にやめたわけではないらしいですが、そこがまたニクいね)
ソニー大作戦をするのに、そんなに人数が必要なのでしょうか?
何かソニーと約束でもしたのですか?
ソフトの価格とCDという映像メディアを考えてソニーに行ったと
あちらこちらに書いてありますが、本当は違いますよね?
店頭公開した会社は売り上げや利益を守らなきゃならないので
いつ出るか分からないニューハード、N64の開発をするのは怖いんですよね。
スタッフを引っこ抜いた手前、セガではできないんですよね。
だからソニーなんですよね?違います?
製造コストや流通の事を考えたとき、一番話に乗ってくれそうだからソニーなんですよね?
バーチャ2のスタッフ入れておいて(?)
セガに「サターンやります」って言えないですよね。
NINTENDO64はタイトル数も絞られちゃうから、店頭公開企業には
いまさら無理なんですよね。だからソニーなんですよね?違いますか?
僕にはそういう理由しか考えられないんです。
でも、ソニーと組んだのはギャンブリングという意味では、度胸のある
スッキリ&ハッキリしたナイスなビジネスだと思います。
(これは架空の話ですが)別にクロノの格闘をやろうが、チョコボのゲームを出そうが
コンビニエンスと独自の流通をやろうが、制作途中の任天堂のゲームを急いで出そうが
もしそんなことがあっても、僕には全くどうでもいいことです。
(だが、プレイステーションでのスクウェアのCD製造の値段や流通の方法が違ったら
『みんな平等』と言っていたソニーを僕は許さない。仮に、買い取りのパーセンテージが
スクウェアだけ59%だったりしたらみんな怒ると思いますよ)
だけど、そのやり方に問題があると思うんです。
もし、それが目的で単純に引き抜いた(あ、すいませんね。大量に他の会社にいた社員を
入社させた、ですね)のであれば、スクウェアという会社は<最低>です。
前にもいいましたが、欲しいから取るではドロボーです。
食べたいから食べるでは子供です。
クリエーターという人間を材料的に見過ぎなのではないでしょうか?
歯車的に考え過ぎではないでしょうか?
頭の古~いオヤジの言うトコロの<ゲーム感覚>で行動していないでしょうか。
一応ゲーム業界を代表する企業の一つなんですから。
今回のこの事件を考えているうちに、週刊スピリッツ上で連載されている
「編集王」というマンガの「明治」という編集人のやっている事を思い出しました。
人を素材として扱い、お金を払って責任を負わせることによってクリエイターと呼び
そのクリエイター達が、ある流れの中で歯車的に作り出す、
そんな作品が人々の心を揺り動かすのでしょうか?
ファイナルファンタジーが受けた理由は、別の次元にあると思います。
また、今回取材する中で、いろんな雑誌の人に
「スクウェアの(悪い)記事を書くと、広告がストップされる、
(ゲーム画面などの)素材提供がなくなる」という話を聞きました。
僕は心から「いくらなんでも、そんなことはしないだろう」と思っています。
今やゲーム業界の顔であり、子供達の憧れの会社であり、社会的にも認められた
大企業なのですから、「そこまではしないよネ」と心から信じています。
いままで周りとマルくやってきたのこ会社は、任天堂オンリーをやめることから始まった
これらの行動によって、ゲーム業界に対し三角関係以上の
スクウェアな関係を作ってしまうように思えるのですが
果たして「そこまでするコトだったのかなぁ」と僕なんかは考えてしまいます。
また、「店頭公開するって、クォーターや半期や1年単位では考えられない
ゲーム業界にいる会社にとっては結構マイナス要素も強いよなぁ」と唸ってしまいました。
「フン、ドラクエ?もっと面白いの創ってヤルぜ!」と言っていた頃が
良かったのではないでしょうか?
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