ウオッチング・メディア

濃縮ウランの街からヒロシマを訪ねた女性

街の誇りと罪悪感の葛藤に悩み、苦しむ

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 かつて3.11以前は福島の人たちもずっと判で押したように同じことを言っていた。

 「原発は日本のエネルギー自立を支えている」

 「原発は地元に雇用をもたらした。活性化し豊かにした」

 それもすべて県庁や政府、電力会社が用意したスローガンそのままの文言だった。

 福島にしろアメリカにしろ、そうした「建前」は自分の故郷への郷土愛と分かちがたく結びついている点は同じだった。

 「自分たちの故郷は、国の政策を支えている」

 誰もが、自分の故郷を愛している。誇りに思いたい。オークリッジもフクシマも、それは同じだ。それはごく自然な感情に思える。
誰かがそんな痛切な気持ちを利用した。そして、スローガンを信じたフクシマの人々は苦々しく裏切られ、故郷を失った。

 2カ月のアメリカ取材で、そうした「建前」の向こうにある「本当の気持ち」がなかなか聞こえてこないのがもどかしかった。

反対側の視点を学ぶために太平洋を渡った

 オークリッジで取材中、私を案内してくれた研究所専属ヒストリアンであるレイ・スミスがDVDやパンフレットなど一抱えもある資料をくれた。ホテルに戻ってから、その中に“Historically Speaking”(歴史から考えよう)という書籍が交じっていることに気づいた。核技術に関係がなさそうだったので、オークリッジを去るドタバタで詳しく内容を聞く余裕がなかった。

 ページを繰ると、見慣れた広島の原爆ドームや平和記念公園、宮島の写真が目に飛び込んできた。

 その前で、豊かな金髪の若い女性がやわらかに微笑んでいた。それは、オークリッジで生まれ育ったエミリー・ミッチェルという大学生だった。

 彼女は広島を訪問することを思い立ち、2008年に実際に旅をして帰ってきた。その心の軌跡を綴った日記だった。

 しかも、ただの個人的な記録ではなかった。その日記はスミスの解説をつけて地元新聞「オークリッジャー」に連載され、大きな議論を呼んだ。

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