半年以上の延期を繰り返し、ようやく発売された『小説仮面ライダークウガ』


特撮語りで散々語ったように、「仮面ライダークウガ」は僕にとって平成ライダーで一番、いや今まで見たすべての特撮作品の中で一番と言い切れるくらいに好きな作品で、この小説も非常に楽しみにしていました。

そして実際に読んでみて……、期待以上の感動でした!!
どれくらい感動したかというと、最初バスでの移動の時間に読み始めたんですが、数ページ読んだだけで涙腺が緩んでしまい、「これはマズい!」と家に帰るまで一旦読むのをやめたくらい(激何

なので、いつもはなるべくネタバレを避けて感想を書いてますが、今回に限っては読んだときのありのままの思いを綴りたいので、ネタバレ全開で行こうと思います!
まだ読んでいない方の参考にはならないかもしれませんが、TV版のクウガを楽しめた方なら必見の一冊です!!

※以下ネタバレ注意!!

というわけで感想。
……の前に、実際に僕が本作を読んだときの行動や感情の変化を時系列で追ってみます(誰得
さっさと小説の感想に移れという方は飛ばしてくださって構いません(((

冒頭で「最初の数ページを読んだだけで涙腺が緩んだ」と書きましたが、これはかなり予想外の出来事でして(w、TV版のクウガのときも大好きな作品ではあるものの、泣くまで行ったことはなかったんですよ。なので僕もここまで感受性豊かな人間になってしまったのかと驚きでした(何

まあその涙腺が緩んだ箇所というのが、最初のTV版第1話の回想のシーンだったんで、たぶん懐かしさのせいなのかなと。つまりは思い出補正でしょうな、と。
それとは別に、少し読んだところ、本作はTV版の完全なる後日談で、かなりがっつりTV版のストーリーに触れる内容であるということがわかりました。TV版も当時録画して何度も見返したものですが、思い返してみると、49話分通して見たのは8年前くらいが最後。部分的に見返したのもディケイドのときが最後。というわけで、もうかれこれ4年以上まったく見てなかったんですね。

これは半端な気持ちで読んではいけない!……と予感したので、バスの中で涙腺崩壊の危険を察知し、帰宅してからは、まず再開する前にTVシリーズを軽くおさらいすることにしましたw(当時録画したVHSをダビングしたDVDなのでかなり画質悪し。そろそろDVD-BOXを買うときか。
とりあえずまずは1話から。まあ何度も見返した作品なので大筋は把握しています。遺跡でベルトが発掘されて、グロンギが現れて、五代がベルトを装着して初変身……、あれ、またしても涙腺が……(((

いやそこ別に泣くところじゃないでしょうw とわかってはいるのですが、なぜか涙が止まらない。今まで何度も見てきてこんなのは初めてでした。なんだこれ。
まあ考えてみると、子供の頃に見たときは、ヒーロー番組なんだからヒーローが変身して戦うのは当たり前という認識が強かったんだと思います。そりゃそうだ。しかしそこから時は流れて、今や自分も当時の五代と同世代になってしまいました。しかも五代はヒーローになるために特別な訓練を積んできたわけでもない一般人。そして何よりみんなの笑顔を大切に考えている男でありながら、笑顔と対極の行為である暴力を以てでしか、目の前の脅威から人々の笑顔を守ることができない。それでもなお、これは自分がやらなければならないことだと覚悟し、一切の弱音を見せることなく、ボロボロになりながらも立ち向かっていく……

そんな彼の覚悟と、その後に待ち受ける運命の過酷さに、僕は涙してしまったのでしょう。
以前見たときにはあまり気付かなかったのですが、この1話の時点で、五代が襲われる一般人を見て胸を痛める様子、そして怪人へ拳を振るうことへのためらいがはっきりと描かれているんですね。これこそがこの「仮面ライダークウガ」が最終回まで、そしてこの小説へと貫徹されているテーマであり、この作品の完成度がより一層強固なものとなっている所以のひとつだと思います。

年を取ってから見返してみると、より一層その作品の素晴らしさに気付くことができる。
以前の記事やコメントでも何度か書いてますが、これこそが良質な子供向け作品の成せる業なのではないかと思ってます。

いや正直、特撮語り記事なんかを書いているときは、「クウガ最高って言ってるけど、多分これかなり思い出補正入ってるよなあ……、今見返したらちょっとがっかりしたりするんじゃないかな」なんて不安もあったんですが、今回実際に見返してみて、それは杞憂に終わりました。だって当時より面白いんだもの。まあそれも思い出補正だと言われればそれまでですがw

最初はパイロット(1,2話)とラスト(47~49話)だけ見返せば充分かなと思ってたんですが、そんなこんなで再び作品にのめり込んでしまい、気が付いたら15話分くらい見終わってました(((
あのまま時間が許せば一気に全話見てしまっていたかもしれません。危ない危ない。この記事ももっと早く書き上げる予定だったんですが、遅くなったのはそのせいです(((


ここまでが読み始めるまでの準備段階。
以下が実際に読み終えての感想です(なんて長い前置き)。


……ここまで完璧な後日談を書いてくれるとは……!!
このシリーズで後日談形式というと、『ブレイド』『オーズ』の一部がそうでしたが、『ブレイド』の方はあまりにも未来でしたし、『オーズ』の方は逆にTV本編が比較的最近であまり時間が経っていないので、どちらも非常に面白い作品ではあったものの、あまり懐かしいという感じはしませんでした。
ところが今回の『クウガ』はTV版からの歳月と作中の設定が"13年後"とぴったりリンク(厳密にはTV版終了からはまだ12年半ですが)。自分が「TVクウガ」が終わってから過ごしてきたのと同じ歳月を、登場人物たちも歩んでいた。なんかもうこれだけで滅茶苦茶嬉しかったですね。



しかもメインキャラもサブキャラも、結構な数のキャラがきちんとフォローされていて、著者の荒川稔久さんのクウガ愛がひしひしと伝わってきました。どのキャラも特に違和感はなく、ああ、彼らもちゃんと13年という歳月を生きていたんだなあ、と。しみじみ。

「TVクウガ」メイン脚本と『小説クウガ』著者はどちらも荒川さんですが、TV版の方は高寺プロデューサーのオーダーや修正もかなりガッツリ入っていたそうなので(「響鬼」のときは脚本のきだつよしさんは高寺Pの清書係みたいなものだったと述懐しているほど)、高寺P不在の本作で果たしてどこまでクウガのテイストが再現されるのか、という不安もありましたが、これはもう完璧すぎるくらいですね。

おやっさんや杉田刑事は相変わらずだし、桜子さんの准教授就任やみのりの出産は素直に良かったなあと笑みがこぼれ……。
一条さんと椿の過去のエピソードも面白い。夏目実加ちゃんが刑事になって、しかもこんなに出番が多くなったのは意外でしたが、彼女の過去を思うとなるほど納得。なるべくしてなったという感じがします。
キャラクター以外にも、場面転換や移動のシーンになるたびに、逐一地名が細かく書かれるのも実にクウガらしい趣向でした。いちいちあのテロップが目に浮かびますw

名古屋ネタや中日ドラゴンズネタ、アイドルネタが多いのはやっぱり荒川さんならではですねw
アイドルネタに関しては、序盤からいきなりオリジナルのアイドル(伽部凛)の解説が長々と入って、「おいおい荒川さん自重しないなw」と困惑しましたが、それが最終的には本作の超重要キャラになり、更にはアイドルという設定も、グロンギが人間の生態を理解し、人間社会に溶け込んでいることを表現する設定として上手く機能していたので驚きでした。
アイドルを単に自分好みの要素としてだけでなく、きちんと必然性を持たせて物語に組み込むとは……、荒川さん恐るべし(笑)

それにしても伽部凛のCDの「ご命令券」って、もちろん現実のアイドルの握手券が元ネタなんでしょうけど、実加に思いっ切り批判させていた辺り、荒川さんもこういう商法には反対なんでしょうかw



「RIN伽部=リント・ギベ=人間は死ね」のグロンギ語ネタも驚かされました(いくらクウガ好きでも、さすがにグロンギ語解読まではやってなかったんでw)。
クウガはTV版からして恐ろしいほど設定が作り込まれていましたが、本作も9進法という細かいネタまで拾ってきていますし、新たに未確認生命体に関する法律やその改正の経緯なんかも盛り込まれていて、とにかく作り込みが半端じゃないw そりゃあこれだけいろんなネタを盛り込めば、発売が遅れたりもしますわな……

他にもグロンギの殺しのゲームの法則も、TV版さながらで、一条さんたちがその法則を探っていく流れも「ああこれこれ、こういう雰囲気だったなあ」と懐かしくなったり。
というかTV版よりかなり凝ってましたね。この点に関してもきちんと理由づけがなされていて、「愚かなリントに幻滅したから、より人間に愚かさを思い知らせる形で殺戮する」というのはなるほどと納得すると同時に、背筋がゾクっとしました。
一般に特撮作品でもバトルもの全般でも、「敵が強くなる」というと、特訓したり何らかに強大な力を手に入れたり、新たな敵が現れたりというパターンがほとんどですが、そういう「力としての強くなる」ではなく、現代のグロンギはより人間を理解し、その上でより残虐な殺し方ができるように人間社会に潜入するという方法を学んでいた。組織としての規模は確実に13年前より下ですが、それでも13年前より遥かに大規模な殺戮が可能な策略が水面下で進行していた……。
こういうのって単純に強い力を持った悪役より、ずっと恐ろしい存在だと思います。「カブト」のワームにちょっと近い感じもしますね。

このようにゲームのトリックやグロンギの思想面で凝ってはいるものの、一方でミステリーの側面で見るとやや盛り上げ方が弱いかなという気もしました。まあ本作はミステリーには分類されないんでしょうけど。
ただ伽部凛にせよ、郷原忠幸にせよ、最初から怪しい人物と決めてかかって、実際にそいつらが黒幕でしたって展開だったので、あまりにもそのまんますぎて拍子抜けというか……
実加が白のクウガだったというのも、ドームのスタンド崩壊のところで、「あ、これってもしかして」と気付いてしまいましたし(その直後に一条さんの夢でごまかすという小細工w)。まあ意表を突こうとするあまり、かえって強引な展開になるよりは良いんですけどね。そもそも荒川さんって良くも悪くも、あんまり裏表のある人物を書くのに向いていないのかなという感じもします。「TVクウガ」でもそういう何か重要な秘密を隠していた人物って特にいませんでしたし。



そして五代雄介の出番について。
これはまあ、こんなものかなと。元よりそんなにがっつり出てくるとは思ってませんでしたし。白のクウガが実加だと察した辺りから、ああこれはもしかしたら出てこないまま終わるかもしれないと覚悟したくらいだったので、ラストで出てきたのはむしろ驚きでした。

それより興味深かったのはTV版最終回辺りの展開の解釈ですね。五代が戦いが終わった後、すぐに冒険に出たのは、「戦いで失った笑顔を取り戻すため」というふうに一条さんが解釈していたと明言されています。TV版でもそういう解釈はできるようになってますが、あまりはっきりとは語られていませんでした。
僕は放送当時はそこまで深く考えてなかったんですが、こうして今思うとなるほどなあと……。五代はTVシリーズでは他人の前で苦悩や恐怖を吐露することは決してなく、超然とした態度を貫いていましたが、やはり五代とて完璧な人間ではなく、あれだけ壮絶な戦いの後には精神的な休息が必要だったんですね。そしてその傷は13年経った今でも癒えていない……。放送当時なら「五代はそんな弱い人間じゃないだろう」と思ったかもしれませんが、今ならわかる気がします。

あとは最終回ラストの、五代が外国の浜辺で子供たちと戯れるシーン。
あれは一応ロケ地としてはキューバですけど、作品の解釈としては最後の戦いで命を落とした五代が天国にいる様子とも読めるわけですよ。まあWikipediaの制作エピソードによると、本来はダグバとの戦いで五代が死ぬ展開も考えられていた中、高寺Pがその結末は残酷すぎるとしてあのラストになったそうですから、あれが天国とは考えにくいんですが。とはいえそういう解釈も可能ではあるので、本作ではこれをどう扱うのだろうと思っていたら……、まさかの一条さんの夢オチとはwww(97ページ辺り) ここは思わず「おいっ!」とツッコんでしまいました(笑)

とはいえ、最終回のラストもなかったことになり(w、依然として五代が行方不明であったり、白のクウガが目撃されたかと思ったらそれも五代じゃなかったりと、これはいよいよ生死不明のまま終わるんじゃないかとも思いましたが、ラストギリギリで登場。
ここはさすがにちょっと駆け足気味で、実加があの後どうなったのかも含めてもうちょっとじっくり見たかったですね。ただ、小説という媒体の性質上、最終決戦が近づくにつれて残りページが少ないことがわかるので、それを逆に利用してわざとラストを圧縮して「あ、これはこのまま五代出ないかも」と思わせるミスリードの目的もあったのかもしれませんw 実際、実加の正体も含めて、ラスト20ページで物語が大きく動きますしね。

そんな余計なサーヴィス精神いいから!という気もしますが(w、まあこれはこれでアリかなと。短いシーンの中にも、象徴的なやり取りがいくつも盛り込まれていましたし。
ラストの五代と一条さんの背中合わせの会話も実に感慨深い。「気付くのに時間がかかっちゃって、思い切るのにもかかっちゃったから」という五代の台詞は、まだ戦いの苦しみを吹っ切れていないという意味で、ある意味初めて他人に弱音を吐いたシーンでもあるんですよね。多分13年前の五代ならこういう台詞は言わなかったはず。なんというか、13年間の重みを感じます。
そしてそんな五代の思いが痛いほどわかるからこそ、一条さんの「俺はおまえの笑顔が見たい! ……おまえの笑顔を取り戻せるように、俺たちは生きる! だから……行くなっ!」という台詞に心を打たれます。そりゃあ、13年かかっても乗り越えられないほどの苦しみを背負った人間を、黙って送り出せるわけがないじゃないですか。
でも五代は去るしかないし、一条さんも見送ることしかできないんですよね。それでもふたりはサムズアップの絆で結ばれている。
ちょっとほろ苦くも、でも希望の残された、味わい深いエンディングでした。



いやー、本当に期待以上の素晴らしい作品でした。まさかここまでのものが読めるとは……。案の定、感想も今まで以上に長くなってしまいましたw
今回、TVシリーズを一部見返してから読みましたが、実際に読むとまた全部通して見たくなりますね。きっとまた新しい発見があるはず。
そして本作に関しても、実加のその後や、実は生きていたバラのタトゥの女の件など、未消化な部分がいくつかあるので、できればこれの更なる後日談も読んでみたいです(笑)

自分の中では思い出補正という感情にはなるべく客観視しなければと意識しているんですけど、それでもなお見返してみて昔以上に面白いと言えるくらい、確かな魅力を持った作品だと思います。仮面ライダークウガ」、やっぱり最高だ!!