個人的に大ファンの作家・東田直樹さん。重度の自閉症ながらも、これまで15冊の書籍を執筆するなど、精力的に創作活動に励んでいます。
自閉症者の記憶のあり方
現在発売中の「ビッグイシュー」220号に掲載されている、東田直樹さんのコラムが大変興味深いのでメモがてらご紹介。自閉症者の記憶のあり方について。
自閉症というと、コミュニケーションがうまくとれないことや、社会性のない行動ばかりが問題視されますが、僕は自閉症者の生きづらさの原因は、その特有の記憶にあるのではないか思っています。
(中略)それまで(10歳くらいの時)、みんなより遅れているのは、知能が低い背だと思っていました。発達検査を受けても、僕はほとんどの課題に答えられなかったし、医師からも知的障害があると診断されていたからです。
(中略)しかし、学年が上がってからも、僕が勉強を大変だと感じることはありませんでした。自分の意思を人に伝えるのは苦手でしたが、学校でいろいろなことを学び知識が増えていくのは楽しかったです。
その一方で、成績がいい悪いにかかわらず、どの子も過去の出来事をよく覚えているのに驚きました。以前経験した場面が、まるでトランプの七並べをしているみたいにわかるのです。それに比べて僕の記憶は、いつまでも当てられない神経衰弱ゲームのようでした。
著書や講演などを拝見すると分かりますが、東田さんは驚異的に頭脳明晰です。振る舞いはいわゆる自閉症のそれで、奇声を発することもあれば、突然走り出すこともあります。
理解が浅いぼくのような人間は「あぁ、知的障害があるんだな」と盲目的に思い込んでしまいますが、必ずしもそうではないわけです。
東田さんは「普通の人は自分の脳で自分をコントロールできると思っているが、僕は自分の身体をコントロールできない」と語っています。うーん、深い…。
自閉症者と健常者の相違点は「記憶」にもあることが、彼の文章からはわかります。「神経衰弱ゲームのような」という認知の仕方はぼくらには体験のしようがありませんが、著書「風になる」のなかで書かれていたカレンダーの認知の話は、少し理解につながるかもしれません。
僕がカレンダーを理解できるようになったのも、「1週間は7日で、月火水木金土日の順番に過ぎていく」「カレンダーの四角の中に数字が書いてあるが、四角には意味はない」「今日という日の日付は学校の黒板に書いてある日で、カレンダーを見てもわかるようになっている」など、知ることができたあとです。
つまり、ぼくらが普通に認知できるカレンダーも、東田さんにとっては理解するのが困難だということです。ぼくらは経験的にカレンダーの意味を知っていますが、東田さんにおいては、そうした経験を自然に蓄積し、なめらかな理解へと繋げることが難しい、と表現できそうです。
記憶の仕方、認知の仕方が違うって、すさまじい話だと思います。そういう人が観る世界って、どういうあり方で広がっているのでしょう。不謹慎と怒られるかもしれませんが、純粋にワクワクしてしまいます。
東田さんは「自然の中に自分が溶け込むような感覚」をお持ちだそうです。自分がバラバラになって、風や空と一体化する感覚。これが至福の瞬間である、とイベント中に語っていました。うーん、ぼくにはわからない感覚です…彼の作品からは、たしかにそんな原初的な感覚を読みとることができます。
というわけで、彼の観る世界、彼の語る言葉は、ぜひ多くの方に知ってもらいたいです。書籍はもちろんですが、講演を聞くと涙が出ますよ、マジで。
ビッグイシュー本誌に加えて、cakesでも連載が始まっているので、関心がある方はこちらもぜひ。