地方対馬厳原港まつり アリラン抜きでも「百点満点!」 長崎2013.8.5 02:05

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対馬厳原港まつり アリラン抜きでも「百点満点!」 長崎

2013.8.5 02:05

 ■韓国人観光客 むしろ増加 主催者「田舎祭りでいいじゃない」

 対馬(長崎県対馬市)から盗まれた仏像が韓国で回収されながら返還されない問題を受け、島最大のイベント「厳原(いづはら)港まつり対馬アリラン祭」が「対馬厳原港まつり」に名称変更されて3、4両日に開かれた。恒例の朝鮮通信使行列も中止されたが、多くの参加者は「百点満点」と大満足。地道に日韓交流を続けてきた誠意は韓国側に踏みにじられたが、対馬の人々の島興しへの思いはどこまでも熱い。(田中一世)

                   ◇

 「朝鮮通信使行列がないならないでいいじゃないですか。対馬市民が楽しめる『普通の田舎祭り』を精いっぱいやった。元々韓国を称える祭りじゃないんだからそれで十分です。商工会の若い人たちが頑張ってくれたおかげで参加者もみんな楽しんでくれているし、市民のお祭りとして百点満点ですよ!」

 祭りを主催する対馬厳原港まつり振興会の山本博己会長(51)は4日、参加者の笑顔を特設舞台裏から眺めながら満足そうな表情で語った。

 この祭りは昭和39年に旧厳原町の地域祭りとして始まった。55年には朝鮮半島との交流拠点だった対馬の歴史をアピールするため、李氏朝鮮の外交使節団「朝鮮通信使」の再現パレードを目玉企画として導入。63年には朝鮮民謡の名前である「アリラン」を祭りの名称に加えた。

 近年、行列は400人規模にまで膨らみ、韓国から招いた舞踊団や高校生も参加した。慰安婦問題など歴史認識をめぐり日韓関係がギスギスしても続けられた。韓国人観光客が島の経済を潤していることもあり「政治問題と民間交流は別だ」と考えたからだ。

 だが、昨年10月に盗まれた観音寺の「観世音菩薩坐像」が今年1月に韓国で見つかりながら、韓国の大田地裁が2月、韓国仏教界の「仏像は倭寇に略奪された」との訴えを受け、返還差し止めの仮処分を出したことにより、島民の対韓感情は急激に悪化した。

 こんな屁理屈がまかり通るならば「対馬の文化財はすべて韓国のものだ」と言いだしかねない。そもそも韓国では2008(平成20)年に国会に対馬返還要求決議案が提出されるなど「対馬は韓国領であり日本に不法占領された」などの暴論がまかり通っている。

 穏やかな島民たちも堪忍袋の緒が切れた。仏像返還を求める署名は約1万7000人。対馬市の人口(3万3721人、6月末)の半数を超えた。

 対馬市の財部能成市長は6月28日に韓国文化財庁を訪問した際にこの署名を提出。8月2日には作元義文市議会議長とともに東京の駐日韓国大使館を訪れ、金元辰公使に早期返還を求める要望書を手渡した。

 振興会の動きはさらに早かった。5月には、祭りの名称から「アリラン」を削除し、朝鮮通信使行列の中止を決定した。

 そもそもアリランの名称については、かねて削除を求める声が強かった。朝鮮通信使行列で韓国人の正使、副使役を乗せた神輿を対馬市民が担ぐ演出が、韓国側に「対馬が韓国を称えている」と都合良く曲解されたこともある。振興会には毎年、「なぜ韓国の祭りをやるのか」と抗議の電話が相次いでいたという。

 今年の名称変更については一切抗議の電話はない。山本氏はこう語る。

 「もし行列を強行していたら逆風は相当強かっただろうね。対馬市民の祭りとしてどういう形で続けていくべきなのか。仏像問題はそれをじっくり考え直すきっかけになった」

                 × × ×

 実際、朝鮮通信使行列の中止の影響はそれほど大きくなかった。祭りの参加者は昨年の2万9千人には及ばないが、祭りのために帰省した家族連れも大勢おり、2万人前後は参加したという。

 これは振興会が、祭りを盛り上げるために、さまざまな趣向を凝らしたことも大きい。

 4日には、地元よさこいグループが、対馬の漁師や文化を歌った「つしまそびき唄」に合わせたオリジナルの踊りを披露した。振興会では、ゆくゆくは島唄と踊りを島中に広め、祭りの目玉に育てていく考えだ。

 他にも、法被姿の親子連れ千数百人が神輿をひきながら市中心部をパレード。消防団対抗綱引き大会やカラオケ大会など市民参加型の演目を増やしたことも好評だった。4日夜の嘉門達夫ライブショーや3千発の納涼花火大会も行われ、参加者は興奮冷めやらぬ様子だった。

 無職の原田和清さん(69)は「1年で一番島がにぎやかになる日だから、みんな楽しみにしている。通信使行列がなくても色んなイベントがあって楽しいよ。それに通信使行列をやっても日本中から悪く言われるだけさ」。会社員の男性(34)は「子供神輿には娘が出たし、他の家族とも交流できて楽しかった。朝鮮通信使行列の中止は、市の関係者らは残念だろうけど私らにはあまり関係ない。こういう市民祭りは今後も続いてほしい」と語った。

                 × × × 

 ただ、過疎化・高齢化が進む対馬にとって、韓国人観光客は大切な「お客さま」でもある。

 だが、歴史認識をめぐる日韓関係の悪化や仏像問題で韓国人観光客が減ったかといえばそうでもない。韓国・釜山から高速船で最短1時間10分。往復船賃と1泊宿泊料を合わせても1万円かからないことが人気の理由とみられ、円安効果もあって観光客はむしろ増えているという。

 それだけに祭りの名称変更に異議を唱える観光業者はほとんどいない。ホテル従業員の男性(73)はこう語った。

 「韓国人観光客は祭りに関係なく来てくれるので、この夏もおかげさまで連日予約でいっぱい。俺から見ても朝鮮通信使行列の意義がよくわかんなかったから、ただの夏祭りで十分よかったと思うよ」

 朝鮮通信使行列の再開については対馬市と振興会、釜山文化財団で話し合いが進められている。対馬市担当者は「釜山文化財団は行列をやりたいでしょうね。韓国との文化交流は重要なので来年再開する方向で準備は進めますが…」と説明するが、山本氏は「韓国側が仏像問題でどれだけ誠意をもって対応をするか次第だ」と語る。

 仏像を盗まれた観音寺の田中節孝・前住職(66)は行列再開にあくまで反対していく考えだ。実は25年前、アリランの名を祭りにつけることを発案したのは田中氏だった。それだけに裏切られたとの思いはぬぐえない。田中氏はこう断じた。

 「国家間で仲が悪くても地域レベルの交流で距離は縮まるはずだという私たちの考えが甘かった。『仏像は韓国から盗まれた』というのは対馬が泥棒扱いされているわけでしょ。失礼にもほどがある。問題が解決しないのに行列を再開したら住民はみんなしらけますよ。祭りは絶対に盛り上がらないでしょうね」

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