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「モルフォリノ人工核酸」はデュシェンヌ型筋ジストロフィーに有効 - NCNP

マイナビニュース マイナビニュース:記事一覧 2013年8月5日(月)9時19分配信

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国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は7月29日、「デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)」の治験に使用されている「モルフォリノ人工核酸」が、再生初期の筋線維に非常に高率に取り込まれることを明らかにし、その機序に基づき、筋再生が非常に活発な「メロシン欠損型先天性筋ジストロフィーマウス」を対象に、モルフォリノ人工核酸を用いた「エクソン・スキップ治療」を応用することに成功したと発表した。

成果は、NCNP 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部の青木吉嗣 研究員(現・オックスフォード大)、同・永田哲也室長、同・武田伸一部長らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、英国時間7月23日付けで「Human Molecular Genetics」オンライン版に掲載された。

DMDは、出生男児3500人の内に1人の割合で発症する最も頻度の高い重篤な遺伝性筋疾患であり、「ジストロフィン遺伝子」の変異により、筋線維の膜を保護する「ジストロフィン・タンパク質」が失われることで発症する。一方、メロシン欠損型先天性筋ジストロフィーは、「非福山型先天性筋ジストロフィー」の10~50%を占める重篤な遺伝性筋疾患であり、「LAMA2遺伝子」の変異により、筋線維の膜の外側を覆う基底膜を構成する「メロシン(ラミニンα2鎖)タンパク質」が失われることで発症する。

そしてエクソン・スキップ治療とは、従来の遺伝子治療とは異なり、モルフォリノ人工核酸などの短い合成核酸を用いて、遺伝子の転写産物(メッセンジャーRNA前駆体)の変異部分あるいは隣接した領域を人為的にスキップさせて(スプライシングの調整)、アミノ酸読み取り枠のずれを修正する治療法だ。

これにより正常と比べると、タンパク質構造の一部が短縮するものの、機能を保ったタンパク質が発現回復し、筋機能の改善が期待できる。モルフォリノ人工核酸は正常な細胞には、ほとんど取り込まれないものの、ジストロフィン欠損の細胞には取り込まれる特性を持つ。ジストロフィン欠損によって生じた筋線維膜の脆弱性のために、人工核酸が比較的入り易くなったと考えられているが、その取り込み機序は不明だ。

現在、モルフォリノ人工核酸を用いた「エクソン51スキップ」の国際共同治験が進行中だが、治療用量の設定が難しく、一方ジストロフィンを欠損していないDMD以外の筋疾患にモルフォリノ人工核酸を用いた治療を応用することが困難との課題があったのである。

そこで研究チームは、筋再生が活発な4~5週齢の「筋ジストロフィー(mdx52)マウス」にモルフォリノ人工核酸を投与した場合に、骨格筋におけるジストロフィン発現レベルが最も高かったことから、再生初期段階にある筋線維はモルフォリノ人工核酸をより高率に取り込む可能性があると考えたという。

そこで、mdx52マウスあるいは野生型マウスを対象に、モルフォリノ人工核酸を経静脈全身投与し、2週間後に後肢の骨格筋を採取し、「逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)」が行われた。その結果、mdx52マウスでは用量依存的にエクソン51スキップが誘導されたが、野生型マウスではエクソン51スキップが誘導されないことが判明したのである(画像1)。この結果は、ジストロフィン欠損筋は、正常筋と比べてモルフォリノ人工核酸を取り込み易いことを示唆している。

次に「ブロモデオキシウリジン(BrdU)」を経口で与えたmdx52マウス(5および32週齢)にモルフォリノ人工核酸を投与し、2週間後に後肢の骨格筋を採取し、「免疫組織化学染色」が行われた。BrdUは細胞分裂の際に「チミジンンアナログ」としてDNAに取り込まれるため、モルフォリノ人工核酸を投与した時に細胞分裂した再生筋線維を標識することが可能だ。その結果、モルフォリノ人工核酸は大径のBrdU陰性の成熟筋線維と比べて、小径でBrdU陽性の再生初期の筋線維に高い効率で取り込まれることがわかった(画像2)。

さらに研究チームは、再生の小径線維への取り込みがジストロフィン欠損に依存するかどうか確かめるため、野生型マウスの後肢の骨格筋に蛇毒である「カルジオトキシン(CTX)」を局所投与して、同期的な筋再生を誘導。CTXを投与してから4日目に、モルフォリノ人工核酸を経静脈全身投与し、1時間後に後肢の骨格筋を採取し、「in situ hybridization法」により骨格筋におけるモルフォリノ人工核酸の局在が調べられた。その結果、ジストロフィン欠損筋と同様に、正常筋においてもモルフォリノ人工核酸は筋再生初期の筋線維に高い効率で取り込まれる明らかになったのである(画像3)。

これらの結果より、従来考えられていたジストロフィン欠損成熟筋線維に取り込まれるだけでなく、モルフォリノ人工核酸がジストロフィンの有無に関わらず、再生初期の筋線維に高率に取り込まれることが明らかになったのである。

最後に研究チームは、ジストロフィンが発現しており、なおかつ筋再生の活発な「メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー(dy3K)マウス」を対象に、モルフォリノ人工核酸を腹腔内全身投与。そして2週間後に後肢の骨格筋を採取したところ、RT-PCRによって標的としたエクソン4スキップが誘導されていることが確認されたというわけだ(画像4)。

この結果は、dy3Kマウスをモルフォリノ人工核酸により治療できる可能性を示したばかりか、筋再生が活発な筋ジストロフィーを対象に広くモルフォリノ人工核酸を用いた治療法を応用できる可能性を示唆している。

今回の研究の筆頭著者である青木吉嗣博士は、「モルフォリノは安全性が非常に高く、筋線維の核に届きさえすれば高い治療効果を期待できます。一方、モルフォリノは、筋線維への導入効率が非常に低く、十分な治療効果を得ることが困難でした。今回の研究では、モルフォリノは再生中の筋線維に高率に取り込まれることを明らかにしました。これにより、活発な筋再生を示すさまざまな筋ジストロフィ―に、モルフォリノ治療を応用する可能性を切り開いた点は画期的です」と述べている。

また、今回の研究の共同責任著者である永田哲也博士は、「従来考えられていたモルフォリノ人工核酸の取り込みがジストロフィン欠損のみに依存しないという画期的な研究成果です」とした。そして、今回の研究の責任著者である武田伸一博士は、「今回の研究は、マウスを用いて代表的なアンチセンス人工核酸であるモルフォリノが筋形質膜から取り込まれる機序に、筋肉の再生が大きな役割を果たすことを明らかにしました。今後、モルフォリノを用いた治療をデュシェンヌ型筋ジストロフィー以外の神経筋疾患に応用する研究が大いに進展することを期待します」とコメントしている。

今回の成果は、dy3Kマウスをモルフォリノ人工核酸により治療できる可能性を示したばかりか、筋再生が活発なDMD以外の筋ジストロフィーを対象に広くモルフォリノ人工核酸を用いた治療法を応用できる可能性が示された。今回の研究成果により、DMD以外でもモルフォリノ人工核酸を用いた筋ジストロフィーに対する新しい治療法開発が加速することが期待できるという。

また、モルフォリノ人工核酸は筋再生初期の過程で筋線維に高率に取り込まれることも解明された。今後は、筋肉の再生初期の段階に着目し、モルフォリノ人工核酸が筋線維への導入に関わる分子機序を明らかにすることが重要だという。その結果、モルフォリノ人工核酸の細胞への導入効率を飛躍的に高め、今回の治療法を筋ジストロフィーのみならず、難治性の神経筋疾患にも応用できる可能性があるとしている。


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