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【転載歓迎】「JAPANデビュー第2回」全内容-Part.5

そして再び、美濃部の天皇機関説が問題にされます。今度の舞台は、帝国議会です。

★天皇機関説事件 1935年(昭和10)

1935年、昭和10年2月、貴族院本会議で、元陸軍中将の議員、菊池武夫が美濃部を批判する演説を行います:

「我が国で憲法上、統治の主体が国家にあるということを、断然公言するような学者、著者というものが、一体、司法上から許すべきものでございましょうか。これは緩慢なる謀反になり、明かなる反逆になるのです」

この三年前に、貴族院議員になっていた美濃部は、二時間に渡って弁明を行います:

「私の学説について批評されるのならば、拾い集めた断片的な片言隻句を捉えて、徒に惨侮中傷の言を放たれるのではなく、私の著書の全体を通読し、真の意味を理解して、しかる後に批評して頂きたい」

美濃部が攻撃された背景には、軍部批判がありました。
陸軍省が出した『国防の本義と其強化の提唱』。これを美濃部は、あまりに好戦的、と批判しました。世界を敵に回し、国が総力を挙げて軍備増強を続けることは、国家の自滅だと主張しました。これに激しく軍部が反発します。

美濃部の弁明演説から二ヶ月後、『憲法撮要』など、美濃部の著書三冊が発禁になります。美濃部批判が高まる中、政府は声明を発表し、天皇機関説を排除する動きに出ます:

「天皇機関説を取り除く。機関説を唱えるは、国体の本義を誤るものなり」

9月、美濃部は遂に貴族院議員を辞職しました。この時、昭和天皇は侍従長の証言によれば、次のように語ったといわれています。

『西園寺公と政局』より:
「君主主権説は、むしろそれよりも国家主権の方がよいと思う。美濃部ほどの人が、一体何人日本におるか。ああいう学者を葬ることは、頗る惜しいもんだ」

議員辞職後も、美濃部には連日、日本各地から脅迫状が送りつけられました。右翼団体からだけでなく、一般の個人からのものも多数ありました。その手紙には、美濃部に自決を迫る言葉が書かれていました。貴族院議員辞職の翌年、1936年2月21日、美濃部は自宅に来た暴漢に銃で撃たれ、負傷しました。

その五日後、二・二六事件が起こります。陸軍の青年将校に率いられた兵士千四百人あまりが、天皇親政による国家改造を目指して決起しました。国体論の暴走は、政府要人を含む八人を殺害する事件にまで行き着いたのです。

評論家・立花隆:
「天皇機関説問題ってのは、もう、その、抽象的な議論ではなくて、その社会的な勢力のぶつかり、ぶつかり合いみたいな、そういう場面でして、もう、兎に角、理窟よりは、もう兎に角、こう、やる、みたいな感じで、その運動の中心になった、要するに、あのー、天皇機関説問題を社会的に、あの、大問題化して、えー、兎に角、その美濃部を徹底的にやっつける方向へ行ったのは、在郷軍人会ですから、ね。要するに軍部そのものなんです。でー、それがもう、要するに、そのもう、軍に連なるありとあらゆる勢力を糾合して、あの、要するに、その美濃部の天皇機関説を容認している政府はけしからん、という反政府運動に転化していくわけすね。あすこで、その要するに、反天皇機関説論者がいってる、ね、国体明徴を叫ぶ、あのロジックは、あの上杉憲法説そのものが、そのバックグランドにあるんです。だから、あのー、その、だから、あの、もう美濃部一人しか残っていなかったけれども、あれは、だから、死んだ、死んだ上杉が圧勝した、美濃部に圧勝した、というね、そういう事件だった、その延長の上に、今度は、二二六が起きて、その二二六の、そのテロルの恐怖の上で、今度は軍部が完全に日本の政治を乗っ取る、というね、その上で、今度は、あの日中戦争が始まりというね、戦争の時代そのものに、こう突入していくというね」

評論家・立花隆:
「そのもっと、大きな歴史の構図で見た、つまりその後の1945年の戦争の敗北に至る、そこの時代まで見据えた時に、あれが、あれが、その日本の戦争の時代の、あの始まり、ということがいえる訳で、えー、その日本の大敗北の始まりが、あすこだったということにいえる訳ですね。だから、そのー、美濃部、だから第二次で上杉が勝ったことそのものが、日本国全体にとっては、大敗北の始まりであったというね、そういう歴史的な位置付けが出来ると思いますね」

1941年、太平洋戦争が勃発。天皇の為に死ぬ、先鋭的な国体論が論じられるようになります。説いたのは、東京帝国大学で日本の中世史を研究していた文学部教授の平泉澄です。

『國史の眼目』より:
「日本の国体は、萬国に冠絶せる国体である。この国体は幾多の苦しみの中に、幾多の忠義の人々が、命を捨てて護り切ってきたものだ」

天皇への忠誠の極致は、天皇に命を捧げることにある。特攻隊員を生んだ思想にも、平泉の教えが色濃く影響しています。前線各地で玉砕戦となります。平泉は新聞に寄稿します。沖縄で激戦が続く最中の事でした:

「国民の一人ひとりが、己一個の生命を皇国の為に捧げる、という強い決心さえ持っていれば、最後の勝利は必ず我にある」

平泉の国体論は、本土決戦も辞さない一億玉砕の精神論へと突き進んでいったのです。

1945年、昭和20年8月、敗戦。
その翌年、11月3日、日本国憲法が公布されました。
第一條に、天皇は日本国の象徴であり、この地位は国民の総意に基づく、と定められました。

日本国憲法制定により、萬世一系の君主から、国民統合の象徴となった天皇。60年以上が過ぎ、現在の象徴天皇制は、NHKの世論調査によれば、国民のおよそ八割から支持されています。

評論家・立花隆:
「だから、あくまでも、昭和憲法も第一章は、天皇なんです、ね。それで、だから、その天皇條項の中に、天皇の在り方は国民の総意が決めるという、そういう風な、あの條項があるというね。今は、天皇を憲法で雁字搦めに縛って、あの、これ以外、何も出来ませんっていうね、これ以外の、これの幾つかが、所謂国事行為、ね。所謂国事行為で、まあ天皇がハンコ押すものが、これとこれみたいな、そういうのが憲法に決まっているじゃないですか、あれだけなんです。だけれども、あれは、また、その憲法の改正條項で、改正して、そこのその縛っているもの取られるのを、ちょこちょこと切れば、また、こう、こう、拡げることも出来るわけよ。だから、国民の総意ってのは、そういうことですよ、その時の国民が、天皇に何と何が出来て、何をやらせない、というね、その縛りは、その時々の時代の国民が決めるという、それが、あの、要するに昭和憲法の考える、国民の総意が天皇の権限の、あの、この、なんていうか、可能性の範囲を決めるというね、そういうことだということですよね」

京都大学・山室信一教授:
「あのー、天皇というものはですね、元々その、先程、井上毅や、それからまあ、その伊藤博文、色々それぞれの立場の人が違う、でも同時にまた、それぞれの人が、自分の政治理念をそこに仮託しながらですね、そして、それをまあ、利用してきたことは事実なわけですね。常にその、天皇というものが、その振る舞いというものを使いながら、まあ、自分の、まあ、ある種の政治的目的を達成してきた、ということはもう、これはもう、疑いの無い事実なわけですから、そういう点で言いますとですね、そういうような可能性というのを、一方で無くしておくことは、必要なことでもあるわけですね。ですから、そういうような囚われないような、天皇制の在り方、あるいは天皇家の在り方っていうのも、必要だろうと思います。天皇を利用してですね、何かを決めるってことは、もう出来ないと思いますし、誰もしないと思いますけれども、そういうような形でない、天皇が、じゃあ、どういう存在理由、新たな存在理由を持っているのか、についてはですね、必ずしも実は合意が出来ているわけでもないわけですね」

東京大学・御厨貴教授:
「で、問題はだからやっぱり、僕は、天皇條項だと思っていて、この天皇條項が、やっぱり、その、如何に非政治的に書かれていても、やっぱり政治的な意味を持つ場合があるし、そういう点でいうと、あすこをですね、やっぱり戦、戦前と同じように、神聖にして犯すべからず、あるいは、不磨の大典としておくのは、やっぱり危険であって、そこに一歩踏み込む勇気を持つことね。天皇っていうのは、だから、その主権在民の立場から、どう考えるかってことを、本格的にやってみること、これね、みんなね、大事だと思いながらね、絶対口を噤んで言わないんですよ、危ないと思うから、危ないし面倒臭いし、ね。だから、ここを考えないと、21世紀の日本の国家像とかいった時に、何で天皇の話が出て来ないってなるわけでしょ、そういう、やっぱり、やっぱり、天皇って、そういう意味では、国の臍ですから、この臍の問題を、つまり日本国憲法においても臍だと思うな、考えないと、もういけない時期に来ている、と僕は思います」

大日本帝国憲法が出来て120年。日本国憲法が出来て63年。天皇と国家の在り方を、どう決めていくのか、私達の未来への課題です。

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★エンドロール
NHKスペシャル シリーズJAPANデビュー
第2回 天皇と憲法

資料等協力(略)

タイトル映像:西郡 駿
語り:濱中博久、礒野佑子
声の出演:81プロデュース
撮影:地主浩二
編集:吉岡雅春
取材:市川 光
ディレクター:倉迫啓司
制作統括:林 新、河野伸洋、若宮敏彦
共同制作:NHKグローバルメディアサービス
制作著作:NHK
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文字起し:夕刻の備忘録
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Author:JIF-情報統括
すべての拉致被害者の
 生存と救出を祈って…

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