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21世紀版「小さな恋のメロディ」の誕生,
2013/7/24
レビュー対象商品: ムーンライズ・キングダム [Blu-ray] (Blu-ray)
可愛くて、毒があって、どこかヘンテコ。まさにそれが鬼才ウェス・アンダーソンの世界だ。これまで父と子の確執を繰り返しテーマとしてきたが、本作では、人形劇のような世界観で、少年少女の“ひと夏の冒険”を遊び心たっぷりに描いています。少年少女の純粋な『愛』を中心に、色んな形の『愛』を描いています。毒気は薄いが、ノスタルジックな優しさがあって、これまでの一部のコアなファン以外の一般客にも好感度は高いと思います。
でも、個性的過ぎるほどの登場人物、大人の所為で傷がついた子供たちの心、時々吐かれるちょっとキツめの毒、敢えてチープさを前面に出した映像。ウェス・アンダーソン印は健在です。
ウェス・アンダーソン監督と言えば、無駄(?)に豪華キャストがおなじみです(笑)。今回は子役が無名な分、大物ハリウッドスターやオスカー俳優が、冴えない大人をすっとぼけた味わいで演じているのが見所の一つでもあります。
間の抜けた表情のエドワード・ノートン、冷酷な福祉局員を怪演するティルダ・スウィントン。特に、アクション抜きのブルース・ウィルスの保安官は、いい味出していました。誰もが、これまで演じた役柄とはかけ離れた、不器用で愛おしい表情を披露してくれます。
変わり者のサムはボーイスカウトの仲間内でも浮いた存在。読書好きのスージーは、本の中のキャラクターの世界に没頭する孤独な少女。共に周りからは浮いた存在だが、2人の愛の逃避行は、個性的かつロマンチックで微笑ましい。両親を亡くし里親に出された寂しさや、母の不倫というショックが残酷な現実ならば、運命の相手と共に、海で遊び、夢を語り合って、初めてキスをすることもまた現実。とぼけたセリフや突飛な演出とは裏腹に、物語は意外なほど地に足が着いています。
ただ表面的なだけのお話ではなく、奥深さのあるちょっとずれたオフビートな展開も気持ちいい。砂浜のダンスからキスにいたるシーンは最高です。純粋なものを求める少年少女と、それに感化されていく大人たちの姿。
先読み不能な物語の中、孤独な警官や、頼りないボーイスカウトの隊長、サムを嫌っていた仲間までもが、意外な優しさと正義感を発揮しながら活躍する様子は、アンダーソンならではのマジカル・ワールドでした。
思えば「小さな恋のメロディ」も「リトル・ロマンス」も、欠点だらけの大人たちの運命を、子供たちのピュアな思いが変えていく、ちょっとファンタジックな物語でした。21世紀版「小さな恋のメロディ」の誕生ですね。
p.s. タイトルのムーンライズ・キングダムとは、サムとスージーがみつけた、手つかずの自然が残った美しい入り江のこと。
あと、釣り針で作ったコガネムシのイヤリングが超印象的でした。
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