WEB特集
ネット依存取材から見えたこと
8月3日 10時00分
厚生労働省の研究班が50万人を超えると推計した、中高生の「インターネット依存」。子どもたちが利用する現場を歩いてみると、バーチャルでの「つながり」に軸足が移り、現実の生活に悪影響が出ているという実態が見えてきました。厚生労働省を取材している米原記者が解説します。
ある男性の告白
「リアルの知り合いよりもネット上での知り合いとの付き合いが大事になってしまった」
これは、ネット依存と診断された20歳の男性が語ったことばです。男性は高校生だったとき、友達が相次いで転校し、寂しさを紛らわせるために始めたのがオンラインゲームでした。
ゲームで自分の理想像となるキャラクターを作り、ゲーム内で友達を作るようになりました。一緒にチームを結成し、協力して敵を倒してその充実感を元にチャットでおしゃべりしたり、スカイプで会話をしたりしていました。
学校とは違ってわずらわしさの少ないオンラインゲームの世界にのめり込むようになり、学校には行かなくなりました。
心配した母親がパソコンを処分すると、今度は母親の財布からお金を抜き取り、ネットカフェに寝泊まりするように。ゲームをするためではなく、ゲーム内の友達に会いに行っていたのです。
男性は今、医師の指導を受けながら、オンラインゲームの時間を減らしています。
しかし、親がアカウントを削除するように言っても、それは出来ないと言い、理由について「ゲームで作ったキャラクターは自分自身であり、そこには友達もいるから」と話しています。
調査から見えたもの
厚生労働省の研究班が行った今回の調査は、ギャンブル依存のスクリーニングテストを元に8項目の質問を行い、このうち5つに当てはまる人を依存状態にあると判定しました。
1・インターネットに夢中になっていると感じているか?
2・満足得るためにネットを使う時間を長くしていかねばならないと感じているか?
3・ネット使用を制限したり、時間を減らしたり完全にやめようとして失敗したことがたびたびあったか?
4・ネットの使用時間を短くしたり完全に辞めようとして、落ち着かなかったり不機嫌や落ち込み、イライラなどを感じるか?
5・使い始めに意図したよりも長い時間オンラインの状態でいるか?
6・ネットのために大切な人間関係、学校のことや部活動のことを台無しにしたり、危うくするようなことがあったか?
7・ネットへの熱中のしすぎを隠すために、家族、先生やそのほかの人たちに嘘をついたことがあるか?
8・問題から逃げるため、または絶望的な気持ち、罪悪感、不安、落ち込みと言った嫌な気持ちから逃げるために、ネットを使うか?
その結果、「ネット依存」になっている中学生と高校生は8.1%、
全国で合わせて51万8000人に上ると推計されました。
(中学生は6%、高校生は9.4%)
(男子生徒は6.4%、女子生徒は9.9%)
調査を行った久里浜医療センターの樋口院長は、おととしからネット依存の専門外来を開いています。2年間で訪れた患者の半数近くは中高生で、初診の予約は2ヶ月以上先まで埋まっているということです。患者の多くは、冒頭で紹介したようなオンラインゲームの子どもが多いということですが、最近はスマートホンを使ったメッセージのやりとりや、動画の視聴がやめられない子どもも増えているということです。
学校現場で何が
中高生たちに何が起きているのでしょうか?私は神奈川県内の進学校の生徒たちに聞いてみることにしました。
ほとんどの生徒がスマートホンの無料アプリを使って、クラスや部活動、それに仲のよい友達同士でメッセージのやりとりをしているということです。このアプリはグループごとに作ることが出来て、ある2年の女子生徒は、「クラス」「部活動」「部活動の同じ学年」「仲のよい友達」など30のグループに入っているということでした。
おしゃべりのような感覚でメッセージのやりとりが続くことも多く、なかなかやめられないということで、3年の女子生徒は「メッセージを読んだのに返事を書き込まないわけにもいかないし、読んでおかないと話について行けなくなることもある。気づいたら深夜2時ごろまでやっていることも多い」と話していました。
使用時間が増えて、勉強時間や睡眠時間が減るのは問題ですが現実の人間関係に根ざしたネット上の会話なら、オンラインゲームのような病的な依存には絶対ならないだろう、そんな私の固定観念が崩れたのが、複数の女子高生のことばです。
「ネットでは普通にいつも話してるけど、実際に廊下で会うと、何を話したらいいか分からないときがある」
何が必要なのか?
今回、ネット依存と判定された51万8千人の中で、どの程度、診療を受けなければならないほど深刻な生徒がいるかは研究班も「分からない」としています。
ただ、樋口医師を始め、私が取材した専門家が口をそろえて指摘したのは、「さまざまな経験を積んで大人になっていく成長の時期に、ネット依存が長期間になればなるほど、回復させるのは困難になる」ということです。
今、国内には、ネット依存の診断基準もなければ実際に相談を受けたり、診療をしたりする機関もほとんどありません。
冒頭に紹介した男性の母親は、どれだけ現実に引き戻そうとしてもネットの世界から戻らない我が子を前に、「親子で心中することも頭をよぎった」と話していました。
子どもたちをネット依存にさせないよう、使い方についてのルール作りや教育をすること、それに、依存を早期に見つけ、相談や診療を行っていく体制作りを早急に進める必要があると思います。