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中盤から俄然面白くなる,
2013/7/28
レビュー対象商品: ゼロ・ダーク・サーティ コレクターズ・エディション [Blu-ray] (Blu-ray)
アルカイダの人間関係を調べ直したマヤは、アブ・アフメドという謎の人物が、ビン・ラディン直属の連絡員だと目星を付けるものの、上層部は単なる憶測だとなかなか取り合ってくれない。
一方、別の人脈からビン・ラディンを追っていた同僚のジェシカ(ジェニファー・イーリー)のチームが、二重スパイの罠にハメられて爆殺される事件(2010年の米軍基地内での自爆攻撃)が起きてしまいます。この、仲間の死という過酷な現実を見せつけられた時、マヤの中で何かか壊れる....。
正直、淡々描写が続き中弛みしかけ、あくびが出そうになったこのドキュメンタリー的物語は、ここから怒涛のラストまで突っ走ります。彼女はそれまで以上にビン・ラディンに執着し、彼を見つけ出し、殺すという目標に、しばしば組織の上層部とぶつかり合いながらも取り憑かれた様に突き進んで行きます。
カメラは徹底的にマヤら現場の視点に寄り添い、それ以外の要素、例えばアルカイダ側の動きなどは全く描写せず、そのため観客も登場人物以上の情報を得ることが出来ない。言わば観客一人ひとりが、CIAチームの一員となった様な感覚となり、それがジリジリとした緊張感と危機感を煽る。
敵側から見た描写が一切無いので、一体ターゲットがどこにいるのか、いつ撃ってくるのかまったく予測出来ない。暗闇の中で本当に戦闘に参加しているかの様な臨場感は、まったくもってドキュメンタリーのよう。
世界一有名なテロリストの追跡と殺害という、極めて政治的題材を扱いながら、本作には政治性は皆無と言っていいでしょう。イデオロギーはもちろん、登場人物それぞれの主義・思想も全く描かれません。
ラスト、超ハードなドラマの果てに、米国へと帰る輸送機の機中で、彼女が一人静かに流す涙の意味は何か。グッと胸を締め付けられる余韻と共に、その解釈はまた議論を呼びそうですね。
本作におけるビン・ラディンは、生きているのか死んでいるのか、そもそも彼が本当にテロの指揮を執っているのかも不明で、実体を持った脅威というよりも、むしろ死と破壊の象徴という存在なのだ。誰もがビン・ラディンによって振り回され、その影響から逃れられず、マヤもまた彼を追いながら、同時に人生を支配されている....。
だから、長年追い続けたビン・ラディンが、呆気なく射殺された瞬間、マヤはそれまでの人生を賭けた目標を失ってしまったのだと、私は受けとめました。
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