「いや、それが全てではありません。まさにこの辺りに大きな刑務所があったのです。日本は最も凶悪な犯罪者たちをここに閉じ込めました。鉄道も観光のためというよりは資源略奪や大陸侵略の手段でした」
先月27日、江原道鉄原の非武装地帯(DMZ)近くにあった旧鉄原労働党舎の前。若いアーティストたちの作品を展示する「リアルDMZプロジェクト」観賞ツアーで、ある専門家が日本による植民地時代の観光ブームや金剛山交通の要地だった鉄原の開発について説明した時だった。ある外国人男性が前に出て異議を唱えたのだ。彼は三国時代からの韓半島(朝鮮半島)の歴史をよどむことなく英語で説明した。「鉄原DMZ地域は臨津江を境に高句麗と新羅が対峙(たいじ)し、弓裔(クンイェ、?-918年)が泰封国を建てた所。南北が分断される前後、二つに分けられた鉄原の記憶が宿る場所です」
韓国で暮らして13年になるドイツ人アーティスト、アルフレッド・ハルトさん(63)。前衛的なジャズミュージシャンで、オブジェ・映像アーティストでもある。
■「アートは現実を新たに見詰める窓」
先月31日、ソウル市鍾路区のアート善載センターでハルトさんに再会した。「鉄原での姿が印象的だった」と話すと、彼はこう言った。「外国人が大勢いるのに、日本の侵略の本質について取り上げなければ大きな過ちを犯すことになると思いました。黙っていられないでしょ?」。
1階ラウンジの一角にあるオブジェ作品「ダグアウト(Dugout)-不確実性の島」が彼の「リアルDMZプロジェクト」参加作だ。パラシュートで作られたテントの下の偽装幕が最前線の臨時幕舎のように垂れ下がり、ハルトさんがDMZ一帯を歩き回って撮影した45分間の映像・写真スライド・北朝鮮向けのビラ・1000年前の陶器の破片などが置かれている。ハルトさんはアーティストを一種の「現実治療士」だと言った。「分断の苦悩(anxiety)に人々が圧倒されないよう、新たな芸術的な経験を通じて日常のバランスを取ろうとする気持ちでこの作品を作った」と説明する。ハルトさんはアーティストとしてだけでなく、ジャズバンドのメンバーとしても世界中を回って公演を行っている。
■日本のミュージシャンと「独島論争」
きっかけはサックスに施されていた螺鈿(らでん)の装飾だった。韓国の伝統工芸の美しさに目覚めて韓国人の妻(画家イ・スンジュさん)と2001年からソウルで暮らし始め、韓国社会・歴史に深く関わり始めた。本を読んだり、歴史の舞台となった土地に足を運んだりして身に付けた韓国史に関する知識は驚くほどだ。明成皇后(閔妃、ミンビ)暗殺事件、日本の満州侵略と韓半島収奪、神風特攻隊、明成皇后暗殺犯が日本の敗戦後も処罰されずに生きていたことまで精通するようになった。
2006年に東京で日本人ミュージシャンと歴史論争を繰り広げた時のことを語ってくれた。「朝鮮に鉄道を敷き、経済発展させたのは全て日本による植民地支配のおかげだというんです。ヒトラーがアウトバーンを建設したからナチスは良い政権だといえるでしょうか。『日本はそのように韓半島を奪ってもまださらに奪おうとするものがある。独島(日本名:竹島)にまで手を出そうというのか』と怒鳴りました。今でも顔は合わせません」
ハルトさんは「妻と地方を旅している時に小さな寺を見つけると、まるでおとぎ話の中に入ったような気持ちになります。韓国と韓国人の魂には『調和(harmony)』があります。その魂との一致をよく感じるところを見ると、私の前世はおそらく韓国人だったのでしょう」と笑った。