自営業のクォンさん(54)は6月末、約200万ウォン(約18万円)という高価な健康診断プログラムで全身のがんを発見できるという陽電子放出断層撮影(PET-CT検査)を受け、その日のうちに狭心症検診で心臓の冠状動脈のコンピューター断層撮影(CT)も行った。今年3月には車の接触事故で脊椎(せきつい)のCTも撮っている。クォンさんが今年受けた放射線被ばく量はざっと計算して40ミリシーベルト(mSv)。 mSvとは放射線被ばくが人体に与える影響を評価した放射線量の数値だ。国際放射線防護委員会は年間放射線被ばく量として1mSv以下を推奨している。クォンさんはすでにその40倍を超えているのだ。
■医療放射線の過度な被ばくに鈍感
CTやX線など医療放射線機器による被ばくは、チェルノブイリや福島原子力発電所の事故のように多量の放射性物質が漏れて人体に長期間残り、がんを引き起こす現象とは異なる。放射線は体を通過するだけだ。しかし、それでも被ばくの程度が強く回数が多ければ、遺伝子が損傷を受けたり変化を起こしたりして、後にがん発生のリスクが高まる。喫煙量が多く、喫煙期間が長いほど肺がんの発症率が高くなるのと同じだ。それでも韓国ではこうしたことに対する警戒心が低く、医療放射線被ばくが過度になるケースがあると指摘の声が上がっている。
CTは放射線被ばく量が高い代表的な医療機器だ。韓国では2011年に411万人がCT検査を受けたが、そのうち8万8000人が1カ月以内に同じ部位を再撮影したという(健康保険審査評価院発表)。また、1人が平均1.4回CTを撮影し、一度に複数の部位を撮るという。CT検査は年々増加しており、年に600万件を超えた。こうした中で病院が収入を増やすためにCT検査を頻繁に実施したり、別の病院で再撮影を勧めることも多い。
乳房に放射線を照射して乳がんを見つける乳房撮影は、特に症状がなければ40歳以降からがんの早期発見を目的として推奨されている。しかし、20-30代の若い女性に対して乳房撮影法が多く行われ、乳がんの発症リスクを高めているケースがある。国立がんセンターのイ・ウンスク乳がんセンター長は「母親や姉妹に乳がん罹患(りかん)者がいるなら放射線被ばくにさらに弱い。しかし、医療陣はあまり深く考えずに症状のない女性にも乳房撮影を行う傾向がある」と話す。