2013-08-04 減税政策についての再整理
減税政策についての再整理
前回のエントリーで減税日本の政策Q&Aについて取り上げたところ「都合の良いQ&Aを取り上げているだけではないのか」というメールをいただいた。「自分に都合の良いQ&Aだけを取り上げたつもりはない。というか、私にとって都合の悪いような記事はありませんから。<NEW>として掲載されたものだけを取り上げました」と回答をしたら「<NEW>の中で取り上げられていないものがある」と指摘された。
見てみると確かに<NEW>の項目が3項目に増えている。・・・・というか、これを書いている今も改変されているな。
政策Q&A | 減税日本
8月4日版となっている。
広沢さん、こういうやり方はアンフェアですよ。
こういった場合は、何を更新したのか更新履歴を明示すべきでしょう。
2011年2月13日版の「魚拓」(キャッシュ)だけを表示して8月4日版とされた場合、途中での改変部分について議論ができなくなる。
特に、今掲載した「Q.三割自治といっても、名古屋市は自主財源比率が高く、三割自治とは言えないのでは。<NEW>」については、当ブログの指摘を受けて追加したものではないのか?
このQに対する回答のように、「三割自治論の根拠が確かでない」( 参照 )と認めるのであれば、その前の文章。
「現在は三割自治と言われるほど地方自治体の自主財源は限定されています」という表現自体がオーバートークであることを認めるのか認めないのか?
ちなみに私が前回のエントリーで扱った減税日本Q&Aについてはこちらにキャッシュが残っている。
政策Q&A | 減税日本
新規に追加されたQ&Aについても気になる部分があるので疑問を提示しておこう。
その前に、当ブログの減税政策に関するエントリー
”[減税政策]記事一覧”
について、若干ガイドを作成しておきましょう。
先ず「河村流減税政策」について、整理と再定義をしておきます。
現名古屋市長:河村たかし氏は「市民税の内、10%の減税を行う」と主張されています。市民税は課税対象所得の内、6%となりますので、たとえば消費税率を5%から8%に上げることを「3%の増税」と表現するのであれば、6%の市民税課税比率を5.4%に下げる減税は「0.6%減税」と表現すべきです。
しかし当初から「10%減税」という言葉が独り歩きし、振りまかれたこの言葉が過大に市民に受け止められ、市民の中には「名古屋市は所得税を10%削減するのか」と受け止めている人もいます。
市民税は課税対象所得の6%であり、減税幅はその10%の0.6%です。
河村氏はこの減税によっておおよそ二つの目的が達成されると主張します。
1.減税をすることによって課税対象者の可処分所得が増え、市中経済が活性化される。
2.市民税減税は市の支出を削減して賄う。0.6%減税としておおよそ200億円、現在の0.3%減税ではおおよそ100億円の市の歳出を減税に振り向ける。
つまり、これだけの歳出削減を行わなければならないのであり、減税は行政改革に資する。
その他にも、減税分を寄付してもらうことにより市民が自主的に作り上げる公共を形成するという主張もありましたが、機軸となる寄付制度についても、特に名古屋市やこの減税と協調して行われている制度の実態がないために評価のしようがありません。
この減税論については懐疑的な意見も多かったのですが、市当局より、三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「名古屋市マクロ計量モデルに基づくシミュレーション分析」なども提示されて結果として実施され、さらに現在は実施幅を0.6%(10%)から0.3%(5%)に縮小して実施されている。
名古屋市:市民税10%減税に伴う経済的影響等について(試算結果)(暮らしの情報)
この政策について、当ブログは様々な角度から検討を加えてきた。
まず、2011年10月に河村市長を支持する市民から減税を求める請願が提出されている。この文章を見ると減税政策について、河村氏が支持者にどのような説明をしているかを伺うことができる。また、その主張を支持者がどのように受け止めているか理解できる。
”市民税10%減税の実現を求める請願、徹底検証 (2011-10-14)”
追記:こういった見返しは必要ですね。
この文章で扱った「市民税10%減税検討プロジェクトチーム」についての記載がなくなっている。 ( 参照 )
広沢さん、河村市長は5%は一時的な措置であくまで10%減税を目指すと言っていた筈ですよね。このプロジェクトチームの解散はいったいどういうことなんですか?
5%減税実施で公約実現なのですか?
また、河村氏は自らの減税政策が「正しい経済理論」であると主張する。しかし、経済学的に「誰が言っている、どのような理論に準拠しているか」ということは明かさない。*1
また、国会や霞ヶ関の役人、さらにその周辺にいる学者は、河村氏に言わせれば「増税大魔王」と切り捨てられ、陰謀論的に発言を否定する場合が見受けられる。しかしリチャード・クー氏については信頼を表明し、名古屋市会においても「クー氏の著書を参考にしてくれ」と述べている。
その言葉通りリチャード・クー氏の著書を読んで、クー氏が減税政策についてどのように考えているか調べてみた。それがこの一連のエントリーとなる。
”リチャード・クーさんの本を読んでみた(前編) (2011-10-30)”
”リチャード・クーさんの本を読んでみた(中編) (2011-10-31)”
”リチャード・クーさんの本を読んでみた(後編) (2011-11-01)”
さらに公共経済学の観点から、減税政策について検討してみた。
”「正しい経済学」が導く減税の意味(前編) (2011-12-19)”
”「正しい経済学」が導く減税の意味(後編) (2011-12-20)”
以上のような検討から疑問点を3点に絞ってみた。
”減税に対する単純で明白な3つの質問 (2011-11-24)”
この内「減税の財源は行政改革で賄われる」という問題について、再度掘り下げてみた。
”204億円の幻想 (2011-12-03)”
やがて河村市長が減税率について「ブレ」て7%、5%案が出てくる。この7%案の際に減税日本ナゴヤから「提案理由説明」がなされ、その内容が酷すぎるので取り上げた。
”名古屋市政に残る迷演説 (2012-04-18)”
以上のように検討してみると、河村氏の減税政策の目的である2点は、
1.減税をすることによって課税対象者の可処分所得が増え、市中経済が活性化される。ということはなく、歳出を削減して減税を行っても乗数効果の上から市中経済は縮小に向かう。さらにこれはリチャード・クー氏も自著で主張されている。
2.市民税減税は市の支出を削減して賄う。減税は行政改革に資する。という主張も甚だ疑わしい。また、今期以降、連続して減税を実施するとすると、毎年名古屋市は100億円ずつ歳出削減を続けることになるのか?という疑問がわく。
そもそも今年についても、市有地の売却などの財産の切り売りが見られる。さらに緑政土木局や住宅都市局などの施設改修要請が止まっている。民間であれば減価償却によって改修がなされるが、自治体には減価償却という仕組みはない。自主的に適切な施設改修を行わなければ危険であるのは明らかなのに予算がつかない。
名古屋市の現在の財政は異常で危険な状態に達している。
名古屋市:名古屋市の財政(平成24年版)概要版(市政情報)
この概要の最後に「経常収支比率」の推移が掲載されている。
経常収支比率とは歳入に対する歳出がどの程度「決定されているか」を示す値で、100%である場合、歳出は予めすべて決まってしまっていることを表す。当然の事ながら、不意の災害や事故のために、予算には一定規模の余裕が必要である。また、この比率が高いということは柔軟な財政運営が行えないということであり、政策的な支出を行うことができない。つまり、新たな町興しをしようとしたり、教育行政を手厚くしたり、新たな医療課題が発生しても、それらに柔軟に対応することができなくなっているということを表す。
名古屋市においては河村市政になってから、この値は一本調子で伸びている。今では遂に99.8%にまで達している。ここまで財政を硬直化させたのは河村市長の責任だろう。
8月4日に加えられた減税日本政策Q&Aについて。
8月5日分エントリーとして掲載します。