物を作ってみてわかったこともあると伊藤氏は言う。「日本のメーカーはすごい」ということだ。試作品は、市販のものを組み合わせて作っている。「ウェブサービスなら、作りながら変更できるが、自転車を自動車にすることはできない。量産品をソニーのように小さくするのは大変」と打ち明ける。

　ウェブサービスであれば工夫は必要なものの、ネット環境があればコストをあまりかけずに利用者を増やすことができる。だが、ハードの場合は配布コストがかかり、簡単にはいかない。「（複数の試作品を連動させて）友達と一緒にサイクリングできると面白いという意見があっても、アプリと違ってマシンを配るのが難しい」。仮に人気が出て「フィットネスジムから100台とかいわれても納品する力もない」と次々に出るネガティブコメント。それでもハードに取り組む理由はどこにあるのか。

■自分が欲しいから作れるのは革命

　「俺が欲しいから作る、以上ですよ。世の中で１人だけが欲しくても作れてしまうのは革命だと思う」と伊藤氏。フィットネス自転車にした理由は、日頃の運動不足の解消のため。「送風機なんていらない、という意見もあるだろうけど欲しかったからつけた」と満足そう。

　「インターネットで閉じるのではなく、リアルをやってみたいと思った。センサーを使って、人のデータが分かる、行動とネットがつながると面白い」。

　ソーシャルメディアには、ユーザーが思っていることをそのまま書くとは限らない。だが、行動のデータが分かればさらに人の考えは解析できる。アンケートで嫌いと回答したサイトを長時間見ている人もいる。それをウェブの外に拡張できるのがメーカー革命と位置付けている。

■誰ももうかると思っていなかった

　キーバリューは6月に2つ目の製品となる「あんしん監視カメラ」を発表した。iPhoneやiPadを監視カメラにできる無料アプリで、動体検知機能に対応することで外出先からペットの様子を確認したり、大きな音が発生した際にアラームが鳴る機能を使い防犯カメラにしたりすることができる。

　伊藤氏は、インターネットやソーシャルメディアの可能性に早くから目をつけ事業化してきた。メーカー革命は、誰ももうからないと思っているところがインターネット黎明（れいめい）期と似ていると分析する。「みんなの就活日記は、やっている本人ももうかると思っていなかった。成功パターンとして重要なのは、もうからないうちからやっていることだ」

藤代裕之（ふじしろ・ひろゆき）
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」（http://d.hatena.ne.jp/gatonews/）を執筆、日本のアルファブロガーの１人として知られる。