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政治
【正論】日本人に生まれて、まあよかった 比較文化史家、東京大学名誉教授・平川祐弘
日韓併合に疑義を呈した石黒忠悳や上田敏のような政治的叡智(えいち)は示していない。正直に「余は幸にして日本人に生れたと云ふ自覚を得た」「余は支那人や朝鮮人に生れなくつて、まあ善かつたと思つた」と書いている。「まあ」に問題はあろうが、ともかくも日本帝国一員として発展を賀したのだ。
新発見を報じた産経新聞はそんな漱石の結論も載せたが、朝日新聞には肝心のその感想がない。さては漱石発言を差別的と感じて隠蔽(いんぺい)したかと疑ったら、後の同紙文芸時評に「余は支那人や朝鮮人に生れなくつて、まあ善かつたと思つた」を引き、「この当代きっての知識人さえもがこうした無邪気な愛国者として振る舞っていたのか、といううそ寒い感慨」に囚(とら)われたと松浦寿輝氏が書いている。私は東アジアの中で日本に生まれた幸福を感じているから、漱石の自覚はまあそんなもので、「うそ寒いは嘘だろう」と内心思った。
≪中国批判抑制要求に「ノー」≫
何でそんなことを言うかといえば、私は1974年、『西欧の衝撃と日本』を書いて編集者ともめた。当時は日中国交回復で一大友好ブームとなった。すると歴史書の内容の書き換えを求められたのである。「現時点ではソ連の批判は宜(よろ)しいですが、中国については批判めいたことはお控え願えませんか」。私はきっぱり断って原文のまま出版した。そして前書きに「二十世紀の後半、東アジアの諸国の中で日本のように言論の自由が認められている国に生を享けたことは、例外的な幸福である」と書き足した。日本人に生まれて、まあよかったという意味である。
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