スイス製薬大手の日本法人、ノバルティスファーマの高血圧治療薬をめぐる疑惑が拡大している。薬の効果を調べるため国内の5大学で実施された臨床研究に社員(当時)が関与しデータが不正に操作された疑いがある。
日本の臨床研究の信頼を揺るがす事態だ。政府や学会は徹底した真相解明に取り組むべきだ。政府は健全な臨床研究ができる体制を整え、問題の再発防止と医薬研究の推進を両立させる必要がある。
問題の本質は2つ。まずデータ操作の疑惑だ。東京慈恵医大などの内部調査では、製薬会社の元社員が薬の効果が大きくみえるよう操作をした疑いが濃い。だれがやったにせよ、操作が事実なら日本の臨床研究のお粗末さを示す。
誤った論文が国際的な医学誌に載り世界の医療関係者が読んだ。日本の臨床研究への国際的な信頼が深く傷ついたのは間違いない。大学側も知らなかったではすまない。日本の医療関係者は疑惑を解明し説明する責任を負う。
第二に利益相反の問題だ。製薬会社の社員が自社製品を評価する臨床研究に関与するなど、もとより許されることではない。ノバルティス社の社内管理体制に問題があったのは明らかだ。経営陣の責任が厳しく問われている。
京都府立医大と慈恵医大では、臨床研究を担当した教授が多額の奨学寄付金をノバルティス社から得ていた。教授の裁量で使えるつかみ金だ。企業への資金依存が問題の温床になった疑いがある。
企業と大学の連携は日本の創薬能力を高めるため大切だ。健全な産学連携は推進する必要がある。問題は不透明な関係を育む使途があいまいな資金だ。研究契約に基づく透明性の高い資金にするよう改めるべきだ。
日本製薬工業協会は寄付金などの提供先を公開する「透明性ガイドライン」をつくったが、医療界からの申し入れで部分的な実施にとどまる。完全実施に移す時だ。
大規模な臨床研究には統計学やデータ管理の専門家などが不可欠だが、国内の大学医学部には少なく能力が不足する。それが製薬会社とのもたれ合いを生む構造的要因にもなっている。
政府は医療を成長戦略の柱の1つに数えるが、足元は危うさをはらむ。製薬会社と研究者や医師のもたれ合いを排し、透明で質が高い臨床研究に向けて体制を改める必要がある。
ノバルティスファーマ
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