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特集社説2013年08月03日(土)

降圧剤データ操作 全容解明と再発防止に努めよ

 医薬に対する患者の信頼を根底から覆す事態といわねばならない。許し難い裏切り行為だ。
 東京慈恵医大がノバルティスファーマ社の降圧剤ディオバンの臨床研究で、血圧値データの人為的操作があったことを認めた。京都府立医大に続くデータごまかしの発覚である。
 慈恵医大はデータ解析を担当したノ社元社員の操作関与の疑いを指摘した。一方、ノ社は元社員の関与を否定している。データ操作の実行者の特定や動機など真相の徹底解明と責任追及を強く求めたい。と同時に、再発防止に努めなければならない。
 研究責任者の客員教授は世界的に権威のある英医学誌に発表した論文の撤回を表明した。科学的根拠のない論文に二束三文の値打ちもなく当然だ。それどころか、日本の臨床研究への国際的な信頼を損なわせた責任は極めて重い。
 研究はディオバンが他の薬より狭心症や脳卒中などに効果があるかを調べた。その結果、有効性が高いとした。
 教授の講座には、判明済みだけでノ社から8400万円の寄付があったという。資金提供は論文に記載されてはいたが、研究の中立性を担保しているとはいえまい。
 ノ社元社員が参加した京都府立医大の臨床研究でも、データ操作や1億円超の寄付が明らかになっている。
 ノ社は第三者調査の結論として、元社員による意図的なデータ改ざんの事実は断定できなかったとしたが、にわかには信じがたい。元社員はデータ解析のほか、論文執筆などにも関わった。なのにノ社の所属を伏せていたのだ。
 大学や民間会社の任意の調査には限界があり、もどかしい限り。大学は刑事告発に踏み切り、強制捜査による全容解明を図るべきだ。
 問題の背景には、産学のなれ合い構造が見てとれよう。製薬企業は医学者の研究資金難につけ込み、薬の販売促進につながる研究結果を得ようとする実態がある。現に、ノ社は臨床研究成果を医療現場に宣伝し、ディオバンを年商1000億円以上の人気薬品にしている。根は深いのだ。
 日本医学会は、利益相反委員会が産学連携にかかる指針改定に乗り出す。研究成果が信頼されるには、資金の出所や金額など情報開示による透明性の確保が不可欠。厳正な新ルールづくりを求めたい。それを医学会、研究者に十分浸透させることも必要だ。
 政府は成長戦略として創薬や医療技術の開発促進の旗を振る。不正防止の仕組みが不十分のままなら、国民の理解は得られまい。厚労省が設置する検討会の再発防止論議が急がれる。臨床研究は患者の命に関わる。一刻の猶予もないと肝に銘じたい。

   
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