社説:慰安婦像の設置 丁寧な説明今からでも

毎日新聞 2013年08月04日 02時30分

 米カリフォルニア州ロサンゼルス近郊のグレンデール市の公園に、韓国系団体の働きかけで、慰安婦を象徴する少女の像が設置された。全米約20カ所で設置を目指すという。極めて残念で、事態を深く憂慮する。

 日本政府は、民間の寄付金をもとに道義的補償をした「アジア女性基金」など、過去の取り組みを丁寧に説明し、「日本は謝罪や補償をしていない」という一方的主張が全米に広がるのを食い止める必要がある。

 像の脇には「平和の記念碑」という石板があり、こう記されている。「1932年から45年まで、20万人以上のアジア人とオランダ人の女性たちが、大日本帝国軍によって強制的に性奴隷にされた」「これらの罪について日本政府が歴史的な責任を受け入れるよう求める」

 事実関係に争いがあることが確定したように書かれ、日本が謝罪をしていないような印象を与えている。

 像が設置される背景には、韓国側が日本政府に対し、法的責任を認めて謝罪し、国家による補償をするよう求めている事情がある。

 65年の日韓国交正常化の際の日韓請求権協定は、韓国が対日請求権を放棄する代わりに、日本は総額8億ドル以上を供与し、両国の請求権問題が「完全かつ最終的に解決された」と確認している。しかし90年代に入って慰安婦問題が表面化し、韓国は慰安婦問題は請求権放棄の対象ではないと主張し出した。

 日本は「国家補償をする国際法上の義務はない」との立場を崩していない。だからといって、何もしてこなかったわけではない。93年の河野洋平官房長官談話では、慰安婦問題について旧日本軍の関与を認めて謝罪した。95年には「アジア女性基金」を設立し、韓国、フィリピン、台湾、オランダの計364人の元慰安婦に、償い金や医療福祉支援事業、首相のおわびの手紙を届けた。しかし、韓国では、日本政府が法的責任を回避しているとして、多くの元慰安婦が受け取りを拒否した。

 今回、米国で像が建てられたのは、日本政府が国際社会に、こうした河野談話やアジア女性基金などの説明を十分にしてこなかったという、外交発信の失敗も大きい。

 今からでも遅くはない。民間有識者らも巻き込んで、理解を得る取り組みを強化すべきだ。同時に韓国側にも冷静な対応を求めたい。

 アジア女性基金の償い事業で、歴代首相が署名したおわびの手紙にこうある。「我々は、過去の重みからも未来への責任からも逃げるわけにはいかない。わが国は、過去の歴史を直視し、正しく後世に伝える」

 この精神を大切にしたい。日韓関係をこれ以上、損ねてはならない。

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