仙台朝市の鮮魚店で、マンボウの腸を買った。夏の味覚として珍重される身は水っぽく淡泊で、普段は酢みそで食べる。腸は初めてのため、どうやって調理するか戸惑った。
魚博士で知られた故末広恭雄さんが随筆に書いていた。塩水に漬け干ししてからチリチリとあぶって食べると絶品だという。長梅雨で外に干せないので塩焼きに。コリコリとして上品な味だった。
マンボウの名を一躍広めたのは、作家の故北杜夫さんの『どくとるマンボウ航海記』(1960年刊)だろう。漁業調査船に船医として乗り込んだ約半年の生活をユーモアたっぷりに描いている。
航海中に時折、珍客に出合った。マンボウもその一つ。「こいつはよく海面に浮かんで昼寝していて、少々突っついたぐらいでは平気でいるそうだ」
北さんが憧れて名乗ったのも、むべなるかな。ただ、ユーモラスな外見とは裏腹に種族維持の苦労を背負わされている。1匹が産む卵は3億個で数匹しか成魚にならないという。
そういえば、北さんも「そううつ病」に悩まされていたっけ。苦難はユーモアの生みの親なのか。(2013・8・1)