炊き出しのおにぎりで空腹を癒やす。季節外れの大雪が降る中、給水と買い出しの列に長時間、黙って並ぶ。一度に買える食品は限られた。家族が分け合いながら、残すことなく大切に食べたものだ。
東日本大震災の被災地はしばらくの間、食うや飲まずの辛抱を強いられた。
が、以前の日常を取り戻すにつれて、窮状を忘れてしまいがちだ。まだ食べられる食品を無駄にしていないだろうか。
「食品ロス」が問題視されて久しい。分かっていながら抜本的な改善が進んでおらず、震災の経験を持ち出すまでもなく、放ってはおけない。「もったいない」の気持ちを具体化する取り組みを急ぐ必要がある。
小売業者や食品メーカー大手などが加工食品の納品期限を緩和する試みを8月に始める。流通段階の商習慣を改め、食品ロスを減らすのが狙いという。
加工食品の流通には、「3分の1ルール」と呼ばれる商習慣がある。
製造日から「賞味期限」までの期間を3等分し、最初の3分の1を小売店への納品期限にしている。最後の3分の1を切ると、メーカーに返品したり、店頭から撤去したり。売れ残った商品は廃棄されることが多く、食品ロスの要因になっている。
今回の試みでは、納品期限を賞味期限までの2分の1に延ばす。従来より賞味期限が近づいた商品も店頭販売し、消費者の反応を検証しながら、ロスの削減対策を打ち出す考えだ。
常温と冷凍の保存の別を問わず、3分の1ルールを一律適用するメーカーもある。ロスを生む、こうした画一的な対応の見直しもポイントになるだろう。効果を高めるため、業界全体で認識を共有し、対策を広げることが肝心だ。
欧米の納品期限は、米国で賞味期限までの2分の1、英国は4分の3、フランスとイタリアは3分の2。日本でより厳しいルールが定着したのは、少しでも新しい商品を求めたがる消費者の鮮度志向を、メーカー側が強く意識したためだ。
国内で2010年度に排出された食品廃棄物は1874万トンで、このうち食品ロスは500万〜800万トンを占めると農水省は推計する。国内のコメ収穫量に匹敵する量だ。
食品ロスの半分ほどは一般家庭からの廃棄分とみられており、消費者側が意識を改めさえすれば、巨大な損失を減らせるのである。
消費者が表示を正しく理解していない面もある。賞味期限は「おいしく食べられる目安」であり、期限が切れてもすぐに食べられなくなるわけではない。「期限が過ぎたら食べない方がいい」と定める生鮮食品の「消費期限」との違いを認識することが第一歩だ。
日本の食料自給率はカロリーベースで39%(11年度)と先進国中最低だ。海外から膨大な食料を輸入しながら、大量に廃棄する。この矛盾をいつまでも放置しておいてはならない。