米国防費削減、アジアへのリバランス政策に影響

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  • YUKA HAYASHI IN TOKYO AND PATRICK BARTA IN WASHINGTON

 米国防費の大幅削減が米軍のアジア地域での軍事活動に影響し始めている。北朝鮮による核の脅威が拡大し、中国が軍拡を進めるなかで、米国の同盟国の間ではアジアの安全保障への米国の関与が弱まるのではないかとの懸念が高まっている。

 米政府はアジアを重視する「リバランス(再均衡)」政策を堅持するとしているが、米軍高官によると、歳出の一律削減は既に在日米軍基地を含むアジア地域での活動に影響している。現在、歳出の削減の影響が及んでいるのは、パイロットの飛行時間や航空機・艦艇の整備、地域交流プログラムだという。

Reuters

デンプシー米統合参謀本部議長

 アジア地域での合同軍事演習はアジアの同盟国との軍事協力を強化する米政府の戦略の重要な柱の1つとされていたが、これも部分的に削減された。

 一部の軍事戦略の専門家によると、アジアの同盟国を防衛する米国の能力が少しでも疑問視されれば、アジア各国は自国の軍事力の増強に動くか、中国との協力を深めるほうが国益にかなうと判断しかねないという。

 アジアで多くの国が北朝鮮の核の脅威や中国の軍拡への対応として国防費を引き上げるなか、専門家や政策立案者はアジアの軍備強化に懸念を募らせている。軍備が強化されれば、アジア地域の核武装化が進む恐れがある。

 さらに、世界を支配する超大国としての米国の地位に疑念が生じれば、影響力の拡大を狙う中国につけいる隙を与えることになるとの指摘もある。

 オバマ政権高官は歳出の強制削減によって米国のアジアへの関与が弱まるとの懸念の鎮静化に努めている。ケリー国務長官も先月の訪日時にその旨の発言をしている。

 米国防総省報道官のキャシー・ウィルキンソン氏は「強制削減という予算の制約によって、国防総省がアジア太平洋地域で実施する活動の一部のペースや範囲が変更される可能性があるが、米国にとって同地域が優先度の高い地域であることは変わらない」と述べた。

 アジアの米国の同盟国は必ずしもその説明に十分納得しているわけではない。

 日本では、衆議院議員の伊佐進一氏が先月の安全保障委員会で、米国の歳出削減によるリバランスへの影響が「避けられない状況だ」 と述べた。

 また、安倍晋三首相は国会で、米国の予算削減の可能性とアジアに駐留する米軍への影響を考慮して、日本は自国を強化するためにできることをしなければならないと発言した。

 米軍は3月末にB2ステルス爆撃機のテスト飛行を行うなど朝鮮半島で軍事力を誇示した結果、この地域の懸念は和らいではいるものの、韓国や東南アジアの首脳や専門家も米国の歳出削減に懸念を表明している。

 懸念に拍車をかけている理由の1つは米政府高官の発言からは歳出削減がどれくらい深刻なものになるか分からず、矛盾する見解が示されていることがある。おそらくこれは、米軍幹部も削減対象をまだ決定していないためだ。歳出の強制削減措置に伴い、国防総省の今年度予算は410億ドル削減される。政府高官はさらに長期的な削減も検討している。

 先週日本を訪れたデンプシー米統合参謀本部議長は米軍横田基地で演説を行い、「少ない予算でいかに世界の大国でいられるかを私たちは考えねばならなくなる」と述べた。議長は「兵力構成が縮小されても、ほぼ同じ成果を上げる方法を見つけなければならなくなると思う」と述べ、歳出削減の影響について「ごたついている」と語った。

 デンプシー議長によると、今年度が半分過ぎた段階にあるにもかかわらず、強制削減が適用された新たな予算の80%が既に執行されており、状況は厳しいという。

 東南アジア研究所(シンガポール)の上級研究員イアン・ストーリー氏は「米国の厳し財政状況お財政問題のせいで(アジアへのリバランスという)プロジェクト自体が頓挫するのではないかとの懸念は常に存在していた」が、歳出削減によって懸念は増大していると指摘した。ストーリー氏は「米政府は公式見解として、歳出削減はアジアへのリバランスに影響しないとしているが、削減は一律に行われているため、そんなことはありえない」と述べた。

 ある国防総省高官はアジアは今後も世界の中でも優先的な扱いを受けると述べた。この高官によると、歳出削減が避けられないとしても、リバランスの主な政策は保護されるという。米国は既にこの1年間で軍事、非軍事の両面でアジアとの関係を強化しており、米海軍の艦艇のうちアジア太平洋地域に配置される艦艇の割合を2020年までに60%に引き上げるとしている(昨年の比率は約50%)。

 しかし、歳出削減の影響は既に出ている。空軍は4月にアラスカ州で予定していたアジア太平洋地域の米空軍部隊と同盟国の空軍による2週間の飛行演習を中止した。空軍によると、演習の目的は戦闘中の飛行や同盟国の空軍機との協力についてパイロットを教育することだという。

 一方、日本の横田基地では第374空輸航空団が3月にタイで行われた合同軍事演習「コープ・タイガー」への参加を中止した。同航空団の広報担当官のレイモンド・ジョフロイ氏によると、歳出削減によって、同航空団の2013年度(9月30日終了)の飛行プログラムは25%削減されており、活動と整備の両面に影響が出ている。

 日本では、米軍による地域交流プログラムが米軍基地への反感を緩和する上で欠かせないとみなされているが、こうしたプログラムも中止されている。例えば、米軍は今月初旬に予定されていた岩国基地の親善イベント「フレンドシップデー」を中止した。昨年、このイベントには28万人の日本の航空ファンが詰めかけた。地元との摩擦が絶えない沖縄では、嘉手納空軍基地で毎年、米独立記念日のイベントが開かれ、5万人の地元住民が参加しているが、今年は開催が見送られた。

 歳出削減を求める政治的圧力は引き続き増大している。オバマ大統領は先月初め、国防費について、今後10年で削減することを表明している4870億ドルに加え、さらに同期間に1500億ドルの削減を求める予算案を発表した。

 先月17日には、上院軍事委員会が日本、韓国、ドイツに駐留米軍基地のコスト上昇と問題のある歳出について、75ページにわたる報告書を公表した。恒久的な在外施設を維持するための歳出のうち、この3カ国にある基地への歳出が70%近くを占めている。

 さらに、横田基地では今年3月、気温が10度を下回るなか、3週間にわたって暖房の運転が停止された。

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