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うな丼の危機 明日の一杯のために(1)バブルの遺産、絶滅危惧種が500円

2013年8月2日

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「一の丑」だった7月22日、たくさんのうなぎが並べられたスーパーの売り場=東京都目黒区

「一の丑」だった7月22日、たくさんのうなぎが並べられたスーパーの売り場=東京都目黒区

 「絶滅危惧種」がずっと数百円で食べられている。

 「輸出が原則禁止され、日本に出回らないはずのウナギが大々的に宣伝され、格安で提供されている。誰がどう考えてもおかしい」

 ウナギの生態研究に携わる北里大学海洋生命科学部の吉永龍起講師は、あきれたように指摘する。

 国内に出回るウナギは、ニホンウナギとヨーロッパウナギの2種がほとんど。ニホンウナギは今年2月、環境省が「絶滅危惧IB類」に指定した。ヨーロッパウナギは国際自然保護連合(IUCN)が絶滅の危険性が最も高い「近絶滅種」に指定、2009年からは国際取引が規制されている。

 だが今年も大手牛丼チェーンのうな丼にはヨーロッパウナギが使われていた。吉永講師は毎年、土用の丑(うし)の日を前に飲食店やスーパーのうなぎをDNA鑑定し、種を特定している。「その牛丼チェーンに流通経路などを問い合わせたが、回答はない」

 流通するウナギは99%以上が養殖で、すべて天然のシラスウナギ(稚魚)を捕り、育てている。卵からの完全養殖は技術的に確立するも、商業化のめどは立っていない。

 「つまり養鰻(ようまん)業は、養殖ではなく漁業。捕りすぎれば絶滅する」。ウナギ研究の大家である日本大学の塚本勝巳教授は、「養殖なら絶滅はしない」と誤解されがちな現状に警鐘を鳴らす。

 ニホンウナギの稚魚の漁獲量は減少の一途をたどる。1963年は230トンあったが、昨年は4トンを切った。ここ4年は特に不漁が続き、一時1キロ300万円をつけた。稚魚1匹に換算すると、約500円。養殖や流通、加工のコストが加われば、「専門店の1人前数千円という金額は適正」と吉永講師。「1食500円で提供できるはずがない。安いのには必ず『裏』がある」と指摘する。

 うなぎの「ワンコイン化」が始まったのは、2000年ごろからだ。ヨーロッパウナギの養殖に成功した中国から大量輸入が始まり、「価格破壊が起こった」(吉永講師)。飲食チェーンは安さを競い、スーパーは日常的に陳列した。メディアは無批判に価格競争ばかりを取り上げた。いわば「うなぎバブル」だ。

 その裏でニホンウナギとヨーロッパウナギの漁獲量は減り続け、ヨーロッパウナギは5%以下にまで減少した。そして05年、中国産うなぎから残留基準値を超えた薬物が検出され、輸入量が激減した。

 「日本が中国産を一斉に敬遠した時には、ニホンウナギも捕れなくなっていた。それなのに『うなぎは安く食べられる』という消費文化だけが残った」。吉永講師は、それを「うなぎバブルの遺産」と呼ぶ。

 「ウナギはすでに看(み)取る段階」と危機的状況を説明する三重大生物資源学部の勝川俊雄准教授は言う。「持続性を欠いた漁獲、販売、消費の循環。このままではわれわれの子や孫はうなぎを食べられない。消費者を含め、関わるすべての人が資源の持続利用のためにできることを始めるべきだ」



日本の伝統食であるうなぎに資源枯渇の危機が迫る。10年後も20年後もおいしいうな丼が食べられるのか。3日は「二の丑」。実態を追い、打開策を考える。


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