プロの本棚:詩人・金時鐘さん 日本、自分 奥底に目を凝らし
毎日新聞 2013年08月02日 大阪朝刊
小野さんが詩人ということも知らず、本の中の「故郷」という文字に引かれ何気なく読んだ一書に打ちのめされました。「叙情」という詠嘆の情感でしか受け止められなかった感性のありどころが、実は人間の思惟(しい)の底を形作るものを教えてくれたのです。言い換えれば、詩は人間の意識の奥、存在理由にすら関わっているもの、ということです。
私を身ぐるみとらえていた日本語や日本的な叙情と切れてこそつながる、ということの覚悟が定まりました。粗末な仙花紙のページを今でも慈しむようにめくります。
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「プロの本棚」は次回、9月6日掲載です
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■人物略歴
◇キム・シジョン
今秋、自らの初期詩集『猪飼野(いかいの)詩集』が岩波現代文庫に収められる予定。また、戦中に日本に留学し、27歳の若さで獄死した朝鮮人詩人、尹東柱(ユン・ドンジュ=1917〜45)の詩を編集、訳出した文庫『尹東柱詩集 空と風と星と詩』(岩波文庫)を昨秋刊行。他の詩集に、『地平線』『新潟』『原野の詩』(小熊秀雄賞特別賞)『失くした季節』(高見順賞)。訳詩集に『再訳 朝鮮詩集』、評論に『「在日」のはざまで』(毎日出版文化賞)など。