2013年06月01日

長野市の情報公開について ~全文~

2012/8/29(水)に長野県庁で行った「県民主権をすすめる会(代表:茅野實 元八十二銀行頭取)」と「長野まちづくりを考える市民の会」による長野市の情報公開に関する記者会見のまとめです。

1. それまでの経緯

市民意見結果:
市民意見

上の表をご覧下さい(クリックすると大きな画像で別画面で表示されます)。
当初、平成21年4月15日から同6月30日に募集された市民意見では、建替えに賛成が多数を占めていました。このデータをもとに、平成21年6月11日の長野市議会定例会において市長は、「第一庁舎及び市民会館ともに8割を超える方から建て替えに賛成とのご意見をいただいております。」と発言しています(※実際の数字は8割を超えていません)。また、広報紙でも「意見募集では7割以上が賛成意見(要望)で、市民会館を望む市民の期待は大きいと判断しています。」と記載されており、当初は「建て替えに賛成意見が多数であること」を建て替えの根拠にしていました。

しかしその後、平成22年1月7日から同3月17日に募集された市民意見の結果を長野市は公表せず、同8月6日から10月15日に募集された市民意見では、「建設に反対」が1位になりました。この2回分の市民意見を情報公開請求して検証したところ、結果が公表されなかった平成22年1月7日から3月17日の市民意見では、第一庁舎・市民会館ともに反対が過半数を超えており、平成22年8月6日から10月15日の市民意見でも、市が「その他」として集計した中に反対意見が多く含まれており、集計し直すと「建設に反対」は市の発表よりも約20%多かったことが分かりました。そして今では、過去には公開されていた市民意見を情報公開請求しても、袋とじで中身が見えない状態で“公開”(つまり実質非公開)されます。実際に公開になった平成22年1月7日から3月17日の市民意見や平成22年8月6日から10月15日の市民意見ですら、再度請求しても公開されません(後述)。

一方で、市民意見だけでなく、市役所内部での計画の過程についても情報公開請求をしていきました。会議の開催状況をまとめたところ、下表のようになりました(2つに分かれてしまっていて申し訳ありません)。
議事録①

議事録②

平成22年1月4日まではしっかりと議事録が作成されていました。また、部長会議だけでなく、政策会議というものも行なわれていました。しかし、平成22年1月4日以降は、議事録が作成されず、録音テープも取られず、出席者の誰一人メモも取らない、という状態になりました。また、政策会議も開催されなくなり、政策会議と同じメンバーで構成する「打ち合わせ」が開かれるようになりました。この「打ち合わせ」は、公式な政策会議と違い、あくまで打ち合わせだからそもそも議事録を取る必要がないというのが市の理屈です。さらに、平成23年5月以降は(住民投票運動が行なわれていた間でさえも)会議も打ち合わせもありません。

長野市の方針が変わった平成22年1月4日は何の日かと言うと、例の黒塗りの部長会議の議事録の情報公開請求をした日です。この日を境に、議事録を作成しない、録音もしない、出席者にメモも取らせない、さらには会議そのものを開催しない、というように、行政経営が劣化してきました

これが今まで長野市が行ってきたことです。


2. 長野市の言い分 vs 国の見解
「県民主権をすすめる会」と「長野まちづくりを考える市民の会」は、以前は公開されていた市民意見の情報公開請求に対し、袋とじで中身が見えない状態で“公開”(つまり実質非公開)するという市の決定に対して不服申立をしましたが、情報公開審査会で棄却されました。

公開しない理由として、市も情報公開審査会も、長野市情報公開条例第7条(2)に触れています。

第7条 実施機関は、公開請求があったときは、公開請求に係る行政情報に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、公開請求者に対し、当該行政情報を公開しなければならない。

(2) 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む)又は特定の個人を識別することはできないが、公開することにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。(以下省略)


市の担当者は、筆跡や内容から意見提出者が特定される可能性があるから公開できないと言っています。
また、審査会の答申によれば、市に寄せられた市民意見は、「意見提出者自身の考え方、思想、信条などを表現したものもあることから、それだけでは特定の個人を識別することはできないまでも、(中略)本人の同意を得ずに公開することにより個人の権利利益を害するおそれがある」そうです。また、「意見提出者の身近な者や利害関係人であれば、意見や提案の内容から、氏名、住所などの個人を識別できる情報を部分的に除いたとしても、特定の個人を推測できる可能性があり、結果として意見提出者の権利利益を害するおそれが生じる」とのことです。

市の担当者が「筆跡で個人が特定できる」と言った時は、一同驚きを隠せませんでした。「出来るわけないじゃないですか。しかもメールで送られてきたものに筆跡なんてないじゃないですか。」とこちらが言ったところ、「それでも内容や文面で分かるかもしれない。」と返ってきました。あとは、「40万人の長野市民1人1人の意見や表現方法を把握しているわけではないし、推測できたとしてもあくまで推測であって識別は出来ないですよね。」「でも親しい人なら分かるかもしれないので。」という感じで決して噛み合うことはありませんでした。審査会も長野市の主張を全面的に支持しており、「特定の個人を推測できる可能性」があると言っています。しかし、条例では「識別」となっており、「推測」ではありません。推測できる可能性と言うなら、そうでない証拠がないものは全て推測できる可能性があります。

また、国(人事院)の情報公開法(長野市の情報公開条例とは別個の法規ですが、趣旨はほとんど変わりません)に関する基準も、長野市・審査会の解釈とは異なっております。

人事院が定める基準では、「「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは、個人識別性のある部分を除いたとしても、公にすることにより、財産権その他個人の正当な権利利益を害するおそれがある情報をいう。例えば、カルテなど個人の人格と密接に関係するものとして保護すべき情報や、行政機関の審議のために提供した未発表の著作物や研究計画の情報など公表前に第三者がアイデアを利用すると情報提供者の権利利益を害するおそれがある情報がこれに該当する」と具体的なケースが明記されています。

また、長野市は公開(非公開)決定時には長野市情報公開条例第7条(6)を理由として挙げませんでしたが、審査会の答申では触れられています。

(6) 市又は国若しくは他の地方公共団体(以下この号において「国等」という。)が行う事務又は事業に関する情報であって、公開することにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるもの

これを根拠として、審査会は「意見公募制度により提出された意見や提案の原文がそのまま公開されることとなると、意見提出者は、意見や提案が原文のまま一般に公開されることを懸念し、意見公募制度を通じて意見の発信をためらう結果を招くおそれがあることも否定出来ない」と述べていますが、この点に関しても、国(人事院)の基準とは異なっています。

人事院が定める基準では具体的なものを列挙していますし、「「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」は、行政機関に広範な裁量権限を与える趣旨ではない。「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的に保護に値する蓋然性が要求されるものである」とも定められています。ここでも、長野市・審査会と国(人事院)では解釈が異なっております。

長野市と国とで運用基準が違うことを置いておいて、長野市の解釈通りであったとしても、市民意見の全てが袋とじにされる必要性は無いというのが、この情報公開に取り組んできた「県民主権をすすめる会」、「長野まちづくりを考える市民の会」の考え方です。筆跡や文面から特定の個人を識別どころか推測する意図も能力もありませんし、プライバシーに関わる部分や業務遂行に支障をきたす部分があるなら、そこを黒いマスキングテープで覆えば済む話です。実際、以前はそうやって公開されていたのですから。

長野市が何故突然、運用基準を変えたのか分かりませんが、その経緯に関して不手際がありましたし、情報公開審査会の運営に関しても問題がありました(これは長野市も認めています)。


3. 長野市の不手際
この不手際に関し、以前にもブログで触れたのですが、話の流れで改めて紹介します。

みどりのはがきが袋とじで公開(=非公開)になった昨年10月25日(決定は19日付)、居合わせた広報公聴課の職員に、何故今までと方針が変わったのか、いつ誰がそれを決めたのか訊ねたところ、庁内で方針の変更について話し合ったことはない旨の発言が返ってきました(一字一句正確ではありませんが)。

その後、平成23年11月17日に起案され、翌18日に決裁されたのが、「みどりのはがきと情報公開」という文書です。
みどりのはがきと情報公開表
みどりのはがきと情報公開裏
起案用紙


長野市はこれをもって基準の変更としているのですが、そうであるなら10月19日決定、10月25日公開(非公開)分には適用されないはずです。しかし実際には非公開にはなっているので、この部分に関しては完全に後付けです(ただし、この時は袋綴じから透けてマスキングしてあるのが見えましたので、最初は従前通りの処理をしようとして、後から袋とじにされたことが推測できます)。

長野市が審査会へ提供した資料一覧(下の文書)の最初に記載してある、「第一庁舎及び市民会館の建替えに関する市民意見等の情報公開について」の「3 「みどりのはがき」制度による意見」(2ページ目の上)に「広報広聴課の規定による」と記載されているので、審査会もこの「みどりのはがきと情報公開」を判断材料にしています。しかし、後に決めたことを、10月19日の決定の根拠とすることの理由を明示して欲しい旨を反論書には記載しましたが、審査会はこのことに一言も触れていません。
県民主権あて通知

第一庁舎及び市民会館の建替えに関する市民意見等の情報公開について
情報公開について1

情報公開について2


また、今年1月には、部分公開の決定があったので閲覧するために担当窓口へ出向いたところ、担当課の職員が示そうとした文書に対し情報公開担当の職員からクレームが入り、その場で袋とじにされるということもありました。上位職の決裁権者の決定をその場で職員が覆したということです。

実は情報公開審査会の運営にも不手際がありました。情報公開審査会の会長は、委員の中から互選されることになっています。現委員の任期開始(平成23年4月1日)後、最初の審査会は同12月21日に開催されました。その際に会長が互選されたことを長野市は認めています。しかしながら、その審査会の開催通知は、まだ選ばれていないはずの会長名で出されています。この不手際に関しては、長野市も「会長が互選される前の審査会は、市長が招集し、市長名で開催通知を作成する方法も考えられますので、今後の事務対応については、見当を要します。」と暗に非を認めています。もっとも、これが単なる事務的なミスならまだしも、仮に公文書偽造にあたるような経緯であったり、情報公開審査会というのは市のお抱え組織で第三者機関としての独立性が保たれていないのだとしたら、由々しき事態です。

ちなみにこの情報公開審査会ですが、今はプライバシーという理由で委員の役職・肩書きが公表されていませんが、前任者の名簿はしっかりと全て公になっています。おそらく市民意見を非公開にしたことに辻褄を合わせないといけなくなったのでしょうが、そもそも、外部の人間で構成する専門的な審査会・委員会のメンバーは、その重責を担うのに足る専門知識や経歴を持つ人物でなければならないので、むしろそれを市民に証明出来るよう、経歴はオープンにするべきだと私達は考えています。

情報公開審査会委員名簿(現在)
情報公開審査会委員名簿(現)

情報公開審査会委員名簿(旧)
情報公開審査会委員名簿(旧)

このように、公開基準の変更をきっかけとして、市の事務の様々な場面で不手際が発生してきました。1つ1つ細かいことをつつく意図は我々にはありません。大事なのは、情報公開以外の面にもひずみが出ているということです。

以上が、2012/8/29の記者会見で「県民主権をすすめる会」、「長野まちづくりを考える市民の会」のメンバーが報告した内容です。


4. まとめ
それでは最後に、記者会見の締めくくりに私が述べた見解をお伝えします。

7/3に県庁で記者会見をした後、私は県のとある役職者と会って、隠すと無理矢理でも理屈をつけないといけないから後でつじつまを合わせないといけなくなって色んなところで矛盾が出てくる、公開する方が住民にとって有益なだけじゃなくって職員にとっても楽になる、長野市なんかはまだその辺のことが理解できてないのかな、なんて話をしました。

今の長野市はまさにその通りの状態だと思います。最初は建て替えをしたい、公共事業をやりたい、という単純な考えだったのかもしれません。でも次第にその方向に反する事実や意見が出てきたから、隠してしまった。辻褄を合わせるために、会議では議事録もメモも取らない、録音もしない、挙句の果てにはそもそも会議を開催しない、市に寄せられた意見は全て非公開、だから情報公開審査会の委員の肩書きや経歴も非公開、後付の方針変更の理由も国の解釈と離れてしまっている、といった具合に、今や情報公開を超えて市の業務のあり方や事務にまで矛盾が生じてしまっています。劣化の連鎖です。こういう実態であるということをもっと多くの市民に伝えられるよう、これからも一生懸命取り組んでいくつもりです。

Posted by haradatakashinet at 00:06│Comments(0)TrackBack(0)長野市政 | 市民会館・市役所第一庁舎建て替え

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