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あぶくま抄(8月1日)

 相馬野馬追に来た多くの観光客が、行き帰りの飯舘村で田畑の荒れた悲しい景色を目にしただろう。津波の跡が残る海まで足を運んだ人もいたかもしれない。日常が戻りつつある一方で、いまだに癒えない傷がある。被災地以外の人が目にしてくれたことに意味がある。
 「鹿島の今を、目で見て肌で感じてほしい」と南相馬市の鹿島商工会青年部が企画した復興モニターツアーには県外からも含め約20人が参加した。野馬追を楽しみ、被災地も視察した。「想像していたより被害が大きかったと分かった」「またこうしたツアーがあれば来たい」などの感想が寄せられた。
 「ダークツーリズム」という言葉が関心を集めつつある。災害被災地や戦争跡地といった、人間にとってつらい「死」や「災害」を学びの対象として訪ねる。沖縄の戦跡や広島の原爆ドームを見に行くと言われれば分かるが、傷口がまだふさがらない本県にとっては「被災地を見せ物にするのか」と、違和感もあるはずだ。
 観光という言葉に甘えた無分別な行動も予想できる。それでも忘れられ、なかったことにされてはたまらない。人類の歴史として伝えていくための準備はしていた方がいい。

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