中央アルプス檜尾岳での韓国人グループの遭難は4人が死亡する惨事になった。韓国にはない3000メートル級の山岳に不慣れなことから、事故を招いた可能性が指摘されている。
信州の山の美しさを外国の登山者に知ってもらうのはうれしいことだ。山の特徴や安全対策について、外国語での発信を強化することを考えたい。
疑問点が幾つか浮かんでくる。第一は不慣れな外国で厳しいコースを取った理由である。
伊那谷の平地から中アの稜線(りょうせん)までは約2000メートルの標高差がある。登るのに最低でも7〜8時間はかかる。中アにはしかも山小屋や水場が少ない。北アなどと比べても難しい山域である。
第二は悪天候の中を出発した判断だ。今年の信州の山は、梅雨明け宣言が出た後も不順な天候が続いている。太平洋高気圧の張り出しが弱いためである。
遭難した日は雨だった。稜線に近いホテルの観測によると、朝9時の気温は11・4度。午後は風も強まった。体で感じる温度(体感温度)は0度近くにまで下がった可能性がある。山に慣れた人なら小屋にとどまるか、下山を決断するところだ。
第三は装備である。20人の多くは簡単な雨具しか持っていなかったという。登山用のしっかりした雨具だったら、ぬれと寒さをある程度まで防げたはずだ。
ここ数年、信州内外の山を訪れる外国人が増えている。槍ケ岳から穂高岳にかけての小屋では、日によっては外国人登山者は宿泊者の1割を占めるという。人気ルートでは外国語の道標や案内が当たり前になった。
韓国の最高峰は済州島のハルラ山(1950メートル)だ。夏でも雪渓が残り、高山の花が咲く日本の山は、韓国の登山者の間で人気が高まっているという。
半面、外国人登山者との意識のギャップに関係者が戸惑うことも少なくない。悪天でも行動する、体調を崩した仲間を救助隊に任せて山頂を目指す、といったケースが伝えられている。
今度の遭難でも、20人が数人ずつのグループに分かれ、それぞれの判断で下山したり次の山小屋を目指したりしたようだ。
安全に登ってもらうには正確な情報の提供が鍵になるだろう。登山者が山の様子を調べる第一の手段はインターネットである。英語や韓国語、中国語の登山ガイドをネットに載せれば、信州の山の売り物にもなる。