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【社説】

生活保護の削減 自立支援も忘れるな

 二百十五万人が受給する生活保護費の引き下げが八月から始まった。受給者はさらに切り詰めた生活を求められる。保護費を抑えるには、自立支援に本腰をいれて受給者を減らすしかない。

 「これ以上、何を節約すればいいのかわかりません。働きたくても、仕事がないのです」

 四人で暮らす母子家庭の母親は将来への不安でいっぱいだ。幼い子どもを育てながら働くことが困難で生活保護を受給せざるを得なかった。生活費の節約に努めてきたが、保護費の削減で途方に暮れる。

 物価の下落に合わせることを理由に、保護費のうち食費や光熱水費に充てる生活扶助の基準額が八月から、段階的に減額される。

 多人数世帯ほど影響が大きく、特に子育て世帯への影響が心配だ。四人家族だと八月から最大で月七千円、二年後には月二万円が減る。円安で電気代や食料品の値上がりが続く。消費税増税も迫る。

 これでは生活費の切り詰めに追われてしまう。経済状況から現役世代の受給者が増えているが、交通費や食費を節約するため外出を控えれば社会参加の機会が減る。就職活動にも支障がでかねない。

 基準額の減額は保護世帯以外の低所得世帯にも影響が出る。

 子どもの学用品などを支援する就学援助や保育料の免除など多くの支援制度が生活扶助の基準額を目安に対象者を決める。減額でこうした対象が狭まり、支援を受けられない人が増える懸念がある。

 子どもたちの就学機会が限定されると、将来安定した仕事に就けず困窮したままになる「貧困の連鎖」を断ち切れなくなる。

 保護費を減らすには働ける現役世代の受給者を減らすことだ。それには職業訓練を受け就労し、短期間で保護から抜け出せる制度に変える必要がある。

 成長産業を育て雇用を増やしたり、生活の安定のために非正規の正社員化を進めるなど雇用対策も政府の責任だ。

 受給者増加の背景にある貧困対策こそ必要だが、保護に至る前の困窮者の就労支援を手厚くし自立を支える生活困窮者自立支援法案は、先の国会で廃案となった。政府は支援法案の成立を早く実現し困窮者の自立支援に取り組むことが喫緊の課題である。

 保護費の不正受給は許されないが、制度は困窮者の最後のよりどころである。政府は、受給者の生活を保障しつつ自立につながるよう努力をすべきだ。

 

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