しかし、そもそも、ノバルティスの社員であることを伏せて大阪市立大学非常勤講師の肩書きでデータの解析を担当した元従業員の行為は明らかな利益相反として断罪されるべきものだ。退職しているとはいえ、この元従業員に京都府大の調査に直ちに協力させなかったことも、常識のある企業の対応とは思えない。生温い調査を公表した大学の自浄能力にも疑問符を付けざるを得ないだろう。
加えて、東京慈恵会医科大学、千葉大学などの臨床研究でも、同種の疑惑が指摘されている。このため、全体としての調査もなお不十分で徹底的な解明と責任の追及が必要とされている。
日本のジェネリック薬品はなぜ高価なのか
この騒ぎで構造問題として浮かび上がってきたのが、米国などと違い、日本の健康保険制度が製薬メーカーによる新薬の自由な価格設定を認めず、薬価を低めに抑えている問題だ。
その結果、製薬会社は、薬の単価を上げて採算を向上させるとか、逆に単価を下げて数で稼ぐといったように、自由な投資回収戦略を展開できない。この状況が、今回のような「データ操作」を含む歪んだ競争を助長したのではないかと疑われているのである。
そもそも、厚生労働省が新薬の薬価を低めに誘導すれば、同省は製薬会社の経営の健全性を守るため、特許が切れた後も新薬の値崩れを防ぐ必要に迫られる。そして、本来ならば薬価の引き下げの切り札になるはずのジェネリック薬品の薬価の高め誘導を招くことになる。結果として、本末転倒の事態を引き起こしているというわけだ。
矛盾の象徴は、売り上げが急落するはずの特許切れの新薬の販売状況だ。東京大学医科学研究所の上昌広特任教授によると、特許が切れてジェネリック医薬品と競合する状態になった新薬の売上高が全体に占める割合は、米国(2009年に13%、以下同じ)、ドイツ(16%)、英国(18%)に対し、日本(44%)が突出している。
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