製薬会社主導という実態
そもそも医師主導の臨床研究の多くは、限りなく“製薬会社主導”に近いのが実態だ。多くの大学病院では、どうしても資金力や人材面に限りがある。製薬会社の資金力や組織力に頼らざるを得ない。特にデータ解析の専門家は少なく、製薬会社から派遣されることは珍しくはないのだ。
一度でも疑い始めるとキリがない。白いものさえも黒ずんで見えてしまう。
現在では、他の製薬会社が関与する大規模臨床研究をはじめ、日本の臨床研究全体にも“疑惑の目”が向けられる事態に発展しつつあるのだ。
循環器系の医師の間では「うちの大学が関与した、あの薬の論文は大丈夫か」「あの大規模臨床研究のデータは不自然だ」という類いの話が飛び買う。医学系研究者の間でも、京都府立医科大学の論文を掲載した『ランセット』をはじめ、海外の有名医学論文誌が「しばらくは日本人医師の臨床研究の論文掲載を見送る方針らしい」という風評に懸念を感じ始めている。
医療現場でも「ディオバンはカルシウム拮抗剤などの既存薬に比べて、薬価も高額。もしかして、既存薬でも十分なのに、不必要な薬を患者さんに処方してしまったのではないか」(大学病院医師)と感じる医師は少なくない。
不必要な薬が多く処方されたとなれば、医療費の無駄遣いが行われたことになる。医療費削減に血眼になっている財務省でも「もう一度、疑わしい臨床研究は検証すべきではないのか」と疑念を抱く声が上がっている。
当面、医学界の注目は、東京慈恵医科大学や千葉大学など、残り4大学の内部調査の発表だ。これらは最終段階を迎えており、今秋までにも発表されそうだ。
ある大学の医師は絶対の匿名を条件に証言した。「うちの大学では、当初、大阪市立大学非常勤講師の人物が『ノバルティス社員だと気がつかなかった』と説明しているようですが、名刺の裏には、小さく社名が書かれており、メールアドレスのドメインなどによって、途中で気がついたそうです。当時の感覚では、現在ほど厳密ではなかったので、あまり問題視されなかったそうです。脇が甘かったのかもしれません」と語る。
しばらくの間、ディオバン論文問題の余波は、収まりそうな気配がない。日本の医学界が失った信用はあまりにも大きい。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)