現在、ノバルティスはスイス本社でも内部調査を進めており、「スイス本社の強い意向なのかもしれないが、ノバルティスは真相究明と業界の信頼回復のために元社員には何が何でも協力させるべきだった」という声が製薬業界内からも上がる。
京都府立医科大学も、担当教授が辞任してしまったことなどを理由に、今回の調査結果を「最終報告書」と位置づけており、白黒つかない曖昧なままでの決着だ。医学界全体が“及び腰”であり、無責任体質という印象を与えてしまっている。
日本の臨床研究の根幹揺るがす
ある大学病院の院長は「ディオバン論文問題は、医学界に対する国民の信用、医師と製薬会社の間にある信頼関係、そして日本の臨床研究の根幹を揺るがしている」と憤る。
今回の論文は、医師主導の臨床研究と呼ばれるもの。新薬の販売後、さらに薬の有効性を証明するというものだ。
ディオバンは、血圧を下げるだけでなく、脳卒中や心筋梗塞などリスクが減るという効果に優れる画期的な新薬として、豊富な国内外での科学的データをウリとして販売を伸ばしてきた。
ディオバンの2012年日本国内の売上高は1000億円を超えている。当初の販売予想が400億~700億円程度だったことなどもあり、「300億~400億円程度が5大学の臨床研究の論文効果で、上乗せされている」(業界筋)とみられている。
ある内科医は「確かにディオバンは海外では有名な新薬だった。だが、海外データは投与量が320ミリグラムとあまりに多く、日本人向けにはあまり参考にはならないと感じた」「ところが、5大学の臨床研究の論文では、4分の1の80ミリグラムでも十分に効果があるという結果が出ていた。日本でディオバンが一気に普及するのに役だったのは間違いないでしょう」と説明する。
製薬会社は医師主導の臨床研究のデータを販売促進で活用し、マーケティング戦略として成功させる。その一方で、医師は、有名な新薬に関して世界的な論文を発表するという名誉が得られる――。
本来、こうした医師と製薬会社の関係は、正式な手順を経ていれば、問題ではないはずだ。
ただし、ディオバンの場合、単なる利益相反の問題から、“データ改ざん”という致命的な問題にまで進展してしまった。それだけに、問題は根深い。