医薬品研究などの論文にデータ操作や捏造(ねつぞう)の不正が相次ぎ発覚した。公的研究費の架空請求事件で、東大教授も逮捕された。科学者の不祥事は社会の信頼を揺るがす。学術研究への裏切りでもある。
日本の医薬品研究の信用を失墜させる重大事態といえよう。製薬会社ノバルティスファーマが販売する降圧剤をめぐる論文で、「データが人為的に操作された」と東京慈恵医大が発表した。
既に京都府立医大でも、「データ操作で、臨床研究の結論に誤りがあった可能性が高い」と発表している。ノ社側は「意図的な捏造や改ざんをした事実はない」と不正への関与を否定しているが、二つの大学の調査委員会の指弾は極めて重大である。
二〇〇四年から始まった降圧剤研究は、血圧を下げる効果のほかに「脳卒中や狭心症のリスクを半減させる」という結論を導き出していた。根拠となるデータが操作されれば、結論が変わりうるのは当然だ。「論文撤回」に発展した前代未聞の事態は、科学の名に値しない。服用した人は憤っているだろう。悪質だ。
慈恵医大では、ノ社の元社員が問題となったデータの統計解析をしていたと認定した。
元社員は公立大学の非常勤講師でもあったが、利害関係者が研究に加われば、自社に有利な結果を導く恐れがある。本来、許されることではないはずだ。論文の基礎となる解析作業を、元社員に丸投げしていた研究者側にも責任はあろう。
この降圧剤は販売額が年間一千億円を超えている。ノ社から府立医大側にも慈恵医大側にも多額の奨学寄付金が提供されていた事実もある。臨床研究のデータは患者の身体、生命と密接にかかわる。徹底的な真相解明が早急になされるべきである。
東大分子細胞生物学研究所の元教授らが発表した論文四十三本についても、「意図的な改ざんと捏造があった」と、同大に指摘された。東京地検に東大教授が詐欺容疑で逮捕される事件もあった。架空発注で研究費約二千二百万円を詐取した疑いだ。
研究者の不正は蔓延(まんえん)しているようだ。文部科学省の調査では、科学研究費補助金などの不正使用は、四十六機関で計約三億六千百万円にのぼっている。公金だけに見逃せない事態だ。企業が絡んだ科学研究の在り方も再考すべきだろう。癒着がないか、厳格なチェックが欠かせない。
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