2013年7月30日(火)

中国 二代目農民工の実態

“世界の工場”として経済成長を遂げた中国。
その躍進を支えたのが、農村から都市部に出稼ぎにきた農民、いわゆる“農民工”でした。
改革開放から30年、その農民工も世代交代。
今、異変が起きています。
各地の工場で相次ぐデモや暴動。
豊かになる中国社会の影で、以前と変わらぬ苦しい生活に不満を募らせる、若い第2世代の農民工たち。
中国を揺るがしかねない“第2世代”農民工の、現状と課題に迫ります。


髙尾
「豊かな暮らしを手に入れようと懸命に働いてきた、中国の農民工。
目覚ましい経済発展の原動力の1つとなってきました。
しかし、その『第2世代』にあたる若い農民工たちは、今、経済発展の恩恵を受けられない現状に不満を強めています。」

鎌倉
「彼らは今、どのような状況に置かれているのか。
第2世代の農民工の1人を取材しました。」

中国農民工 不満抱える“第2世代”

広東省広州に暮らす、農民工の欧栄貴さんです。
両親もかつて、貧しい農村から広東省に農民工として出稼ぎに来ていました。
農村には仕事がないため、中学を卒業したら、出稼ぎにでるのが当たり前でした。
17歳の時、広東省に来て建設現場などで働きましたが、給料は低いままです。


少しでもいい条件の仕事を探して、これまで10以上の職を転々としてきました。
広東省にきて12年。
結局、希望の仕事は見つからず、今は無職です。

欧栄貴さん
「ほとんど同じで、どの仕事もいまいちです。」

この日、配達員の仕事があると聞いて、ある会社を訪ねました。

欧栄貴さん
「こんにちは、配達員は募集していますか?」

従業員
「社長はいないわよ。」

欧栄貴さん
「募集の看板を見たのですが…。」

結局、採用されませんでした。

欧栄貴さん
「配達員は、ほかの仕事よりも高収入と聞いていたのですが。」

経済成長が続く中国では、富裕層はますます豊かになり、高級ブランドの服を着たり、高級車を乗り回したりするなど、贅を尽くした暮らしを送っています。







一方、大半の農民工は、経済発展の恩恵を十分には受けていません。
大きな壁となっているのが戸籍の問題です。
農村出身の農民工の戸籍は都市出身者の戸籍とは区別され、都市に出てきても就職などで様々な制約を受けるのです。



欧さんは、ひと月の家賃が250人民元、日本円で4,000円のアパートに友人と暮らしています。
働いていた時に蓄えたわずかな貯金で食いつないでいます。
ふるさとへの仕送りも出来なくなりました。



しかし出費を切り詰め、パソコンとスマートフォンをなんとか買いそろえました。
苦しい生活の中で、唯一の楽しみであるインターネットを使うためです。
ネットでつながった仲間達に、自分の不満をぶつけます。



欧栄貴さん
「農民工は社会から見捨てられた存在だ。
私たちは社会に価値のあることをしてきた。
でも、それが認められず不公平だ。」

不満募らせる 第2世代農民工

鎌倉
「ゲストをご紹介します。
中国経済について、長年にわたって政治・社会など幅広い観点から分析を行われている、富士通総研経済研究所・主任研究員の柯隆(か・りゅう)さんです。
今、VTRにあったような第2世代の農民工、彼のような若者が今、まさに若い人たちの象徴というか、われわれが知っているような親の世代の農民工と、どう変わってきてるんでしょう?」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「1980年代、初めて中国の農民が、とりわけ沿海部の都市部へ出稼ぎに来たわけですが、親の世代の農民工というのは、自分の農村での生活と比べれば、都市部での生活が、たとえ仕事がどんなに苦しくても現金収入があるから、それなりに満足を得たわけです。
しかしながら今の第2世代の農民工というのは、農村での生活ではなくて都市部の、いわゆる先住民の人たちの子どもと比較してるわけですから、ポルシェに乗ってる子どもたちを見てると、やっぱり不満は募るわけですね。」

“都市戸籍”がない農民工

鎌倉
「私たちから見ると、はっきり言って中国の都市部の若者と彼、見分けがつかないというか、持ってる物もスマートフォンだったりインターネットだったり、ほとんど変わらないようにも見えるんですよね。」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「VTRにもありました通り、戸籍管理制度という高いハードル、いわゆる『万里の長城』みたいな、なかなか簡単には乗り越えられないものがありまして、それによって彼らの心の中ではやはりコンプレックスを感じるわけですね。
見た目では、着てる洋服は都市部の子どもも似たような感じですけど、しかしながら心のコンプレックスが非常に強いわけだし、それから都市部の子どもと同じスタートラインにいってないというところもありまして、だから私は、彼らの心の病というのは相当深刻な問題だと思いますね。」

髙尾
「その農民工の人たちが農村部から都市部に移ってきて、都市部の人たちと同じように暮らせない理由として戸籍制度があるということですね。
これは中国独自のものかと思うんですが、説明して頂けますか?」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「例えば私は日本に来る前に、都市の戸籍を持ってました。
都市部の戸籍を持っていると、例えば病院に行っても、いわゆる国民健康保険のような保険がありまして、一応診てもらえます。
しかし戸籍がなければ、農民の子どもは病院に行った場合、事前にデポジット、お金を払わないと診てもらえない。
あるいは、普通の都市部の子どもが通う学校に行っても、受け付けてくれないというようなことがありまして、ある種の差別を受けていました。」

鎌倉
「生活する上でも非常に不便なわけですよね。
実際、都市で働いているにもかかわらず、さまざまなサービスが受けられないと。」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「そうですね、その戸籍の違いによって、都市部の子どもと農民工の子ども、やはり受けられる権利というのが全然違うものですから。
いわゆる国内の『移民』、それがゆえに戸籍がもらえない。
それで差別される。」

なぜ残る 中国の戸籍制度

鎌倉
「農村戸籍から、農村が抜け出す方法というのはあるんですか?」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「かつて農民たちが、たとえば若者が軍隊に入る。
復員軍人として、優先的に都市部に残れるという仕組みがありました。
それから、一生懸命勉強して大学に入って、都市部の企業に就職できれば戸籍が与えられる。
ただ、今申し上げた2つの方法は、いずれも簡単ではないんですね。
それから解放された後に、みずから事業を興してお金を稼いで、それで戸籍を買うことも実は一部においてはありましたが、これも簡単ではない。」

髙尾
「似たような制度がソビエト時代にもあって、それは流動性をなくすため、農村の人が都会に行けないようにするというのが目的だったと思うんですが、今の中国になぜまだ残っているんでしょうか?」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「中国はですね、1950年代に初めて戸籍管理制度が導入されたわけです。
あの時に毛沢東が『農業をもって工業を支える』と、すなわち農業からお金をもらって、それで工業に補助金として与えるわけですが、この制度がいったん導入されるとなかなか撤廃できない。
実は30年前に鄧小平が改革・開放政策を進めた時に、戸籍管理制度を撤廃すればよかったんですが、できなかったんですね。
なぜかというと、撤廃すると一斉に農民が都市部へ押しかけるわけですから、大パニックに陥るだろうと。
今も李克強首相が都市間政策を進めようとしているんですが、そこも戸籍管理制度をどう緩和するかという難題にぶつかってます。」

鎌倉
「完全撤廃というのは、今すぐには到底できないと?
緩和するということでしかない?」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「完全撤廃というのは私はあり得ないと思います。
やはり農民の生活レベルと都市部の生活レベル、あまりにも違うわけですから、少しずつ緩和するというのも簡単ではない。
どう線引きするかによって、混乱するかパニックに陥るかなんですね。」

どう解決する 第2世代農民工“問題”

鎌倉
「この第2世代の農民工たちの状況、どう解決していけばいいですか?」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「これは非常に難しい問題ではあるんですけども、私は中国の社会を見ると確実に高齢化していますから、中国にとって彼らが貴重な人的資源ですから、うまく生かさなきゃいけない。
うまく生かすためには、やはり彼らにきちんと都市戸籍を与えなければならないので、今回の都市化政策なんかで、彼らを優先的に都市の住民として受け入れて、それから差別をなくさなきゃいけない。
そして中国社会は、いわゆるカウンセリングのような、心の病を治していくようなファンクションは持ってませんから、そこも政府はきちんと手当てしていく。
最後に、やはり彼らが中付加価値、高付加価値の産業へシフトするためには職業訓練を受ける必要がありまして、じゃあ誰がそのコストを払うか、私はやはり政府しかないと思いますね。」

髙尾
「そういう意味では産業のミスマッチを埋められるかどうかというのは、彼らにかかっているわけですね。」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「そうですね、産業のミスマッチもそうですし、それから都市部の子どもたちとの溝が、埋まらなければ中国の社会が非常に安定しづらいと思いますね。」

鎌倉
「中国といえば『格差』も待ったなしの課題だと言われましたが、第2世代の農民工はどうするのかというのは、イコールで考えていいのでしょうか?」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「私はこれから中国社会、安定するかというのはこの第2世代農民工がきちんと定住して安定した生活を送れるかどうかっていうのが1つの鍵を握ると思いますね。」

髙尾
「それだけ重要な存在、注目していかなくてはいけない存在ということでしょうか。」

富士通総研 経済研究所 柯隆主任研究員
「そうですね、そうなります。」

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