降圧剤データ:慈恵医大も操作認める 論文撤回へ
毎日新聞 2013年07月30日 21時48分(最終更新 07月30日 22時25分)
降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)に血圧を下げる以外の効果もあるとした臨床試験疑惑で、東京慈恵会医大の調査委員会(橋本和弘委員長)は30日記者会見し、「論文のデータが人為的に操作されており、論文の撤回(取り消し)を決めた」とする中間報告を発表した。販売元の製薬会社ノバルティスファーマの社員(5月に退職)が統計解析を行っていたと認定したうえで、「元社員がデータ操作をしたと強く疑われる」と指摘した。ノ社は、慈恵医大と既にデータ操作が判明した京都府立医大の論文(既に撤回)を使って大々的に薬を宣伝してきたが、その科学的な根拠は事実上消滅した。
日本の医薬研究史上、類を見ない不祥事となった。橋本委員長は「論文から元社員の関与が伏せられ、データ操作もされ、信頼性を欠く。患者や研究者に迷惑をかけた」と陳謝した。
バルサルタンの臨床試験は、慈恵医大、府立医大、滋賀医大、千葉大、名古屋大の5大学が実施した。中でも慈恵医大と府立医大の論文は、試験の規模が大きい上、バルサルタンに種々の効果があると認める内容で、宣伝に使われた。
論文の責任者は望月正武教授(71)=2007年に退職。研究チームは、バルサルタンの発売後、慈恵医大病院とその関連病院などで臨床試験を実施した。高血圧患者約3000人を、バルサルタン服用の約1500人と別の降圧剤服用の約1500人とに分けて、経過を比較。「バルサルタンには他の降圧剤と比べ脳卒中を40%、狭心症を65%減らす効果があった」などと結論付け、07年に一流英医学誌ランセットで発表した。
調査委が調べると、論文に使われた解析用データの血圧値と、実際のカルテの記載とが異なるケースが多数見つかった。また、残っていた約3000人分のデータを再解析したところ、患者群の血圧の変化が論文と異なり、「論文は人為的に操作された」と認定した。
その結果、論文が脳卒中や狭心症などの予防に効果があるとした結論については、「論文に欠陥があり、正しかったかは判断できない」と指摘した。
研究に参加した医師らは「元社員がデータ解析をした。自分たちはデータ解析の知識も能力もなく、解析をしたことはない」などと口をそろえており、元社員による不正を推測した。一方、元社員は調査委に対して「思い当たらない。自分は関係していない」と関与を否定しているという。