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「家族」「人生」を考えさせられる,
2013/7/24
レビュー対象商品: 東京家族 Blu-ray (Blu-ray)
「東京物語」と本作の違いは、「東京物語」では小津監督の突き放した演出で、両親に対して冷淡な描かれ方をした長男・長女ですが、本作では、確かに自分勝手で好き勝手は言いますがどこか暖かい人間味が感じられます。
最大の違いは、本作では戦死していた次男を登場させてたこと。この次男と父親の関係は、山田監督の「息子」を連想させますし、また『出来の悪い一家の厄介者』と言う点で、やっぱり寅さんや「おとうと」の鶴瓶を思い起こさせます。父親と折り合いの悪かった末っ子が、1番の親思いであったというのは、リア王の時代からの定番ですからね(笑)。
「東北大震災」を絡めたエピソードは、語ろうとするテーマの補強ではなく、単なる蛇足のような印象さえ受けてしまうきらいが無きにしも非ず。だが、その「正直さ」が本作の魅力であることも事実です。
変わらないものはいいものだという考え方がありますが、本作はまさにそのひとつ。おそらく50年後に本作を観ても、あるいは更なるリメイクしてみても、変わらず良いと感じるに違いない。夫婦・親子・兄弟。家族間の言葉にできない微妙な距離感、機微が、絶妙なバランスで描かれている。
家族の本質とは、増えてゆくもの=未来へのつながりであり、それが今を生き、いつか去らねばならない人間の心に安心をもたらす....。というようなことを、を誰だったか高名な人が言っていましたが、まさにそのとおり。そして、いつになっても家族からは新しい発見と感動を得ることがある。それは、長年付き添った者の死の時でさえ、そうである。それを知る大人の観客たちは、西村雅彦演じる長男が、新しい家族になる次男の婚約者(蒼井優)に「君はここにいていいんだ」と叫ぶシーンが、その象徴であることを知りつつ涙を誘われてしまうのだ(苦笑)。
超名作のリメイクへの出演で、色んな意味でのプレッシャーもあったと思いますが、すべての出演者たちが素晴らしい演技をしています。
特に、長女を演じる中嶋朋子が予想外に素晴らしかった。温かい心と打算的な考えが、いとも自然に同居していて、その人間臭さが可愛らしくさえ感じられる。オリジナルの杉村春子に劣らない滋子でした。
次男役の妻夫木聡。等身大の普通の青年を実にさらりと演じてきた彼が、山下敦弘監督の「マイ・バック・ページ」で、監督の言う『極上の普通』で究まったかと思いきや、本作でさらに深まった感があります。相手役者に相対するとき、ほんのわずかな表情や動きや声や話し方のニュアンスに、彼の表現する「普通」の凄さを感じます。
橋爪功、吉行和子は、指摘するまでもなくそれぞれに味わいのあるしみじみとした演技が、ほんとうに心地よかった。 蒼井優は「部外者」であった彼女が、相手方の両親に認められるまでの軌跡。それを湿っぽくならずに、むしろ未来を切り開いていく存在として、軽やかに描いていくところに好感が持てる。まさに儲け役ですが、彼女が新たな「家族」として加わってから、物語が俄然感動的になってくる(久石譲の音楽もいい)のと相まって、作中のセリフにあるように『あんたは、いい人だ』と言われるのが実に良く似合う。
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