特集ワイド:飯島参与訪朝、破格の待遇 幼なじみ音楽家、故金総書記のお気に入り
毎日新聞 2013年05月29日 東京夕刊
この考えが変わっていないなら、飯島氏は朝鮮総連本部ビル競売問題などに踏み込んで言及したともみられる。事実、会談したナンバー2の金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長が飯島氏に語りかけている。「……以前より努力を傾けていたことをよく承知しており、高く評価していることを申し上げます」。ただ今回の訪朝にリ氏のパイプがダイレクトに使われた形跡はない。先の在日朝鮮人は言う。「平壌は飯島氏の人脈を把握していますよ。雑談で金総書記お気に入りのリ氏の話題が出るだけで大きなインパクトがある。もちろん金正恩(キムジョンウン)第1書記もないがしろにできませんから」
平壌での会談の全容はまだ見えない。取りざたされている日朝首脳会談について安倍首相は「しっかりと結論が出る、ある程度の展望があるということでなければ、そもそも行うべきではない」と、すぐには実現しないとの見通しを示している。紆余(うよ)曲折も予想されるが、かの国は金第1書記の決断ですべて動く。帰国後、飯島氏は記者団に「そのうちわかる」と述べ、こう言い放った。「老いた68歳の血の叫びはもう終わりました」
くだんのリ氏が新潟港から帰国船に乗ったのは、吉永小百合さん主演の映画「キューポラのある街」が公開された翌年のことだった。信州は伊那谷の地で日本人と在日朝鮮人、2人の少年に映画のシーンのような感動の別れがあったかどうか。いずれにせよ、あれから半世紀、幼なじみが国交なき独裁国のトップに愛され、自身はその隣国と向き合うトップの側近に−−。飯島氏は万感を胸に平壌国際空港に降り立ったに違いない。
飯島訪朝を突破口に拉致問題が解決し、日朝国交正常化がなれば、いつの日か、同窓会に「星山君」が現れるかもしれない。国境を超えた友情が金第1書記の心をもゆさぶり、氷が解けることを願わずにいられない。
リ氏の件などについて飯島氏にインタビューしたかったが「時期も時期なので、お断りする」とのことだった。
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