記者の目:ネット選挙解禁=石戸諭(大阪社会部)
毎日新聞 2013年07月30日 00時04分(最終更新 07月30日 09時45分)
インターネットを使った選挙運動(ネット選挙)が解禁されて初めての参院選が終わった。毎日新聞は立命館大との共同研究に取り組み、「ネット選挙は日本の政治を変えるのか」を探った。だれもが情報の発信元と受け手のどちらにもなれる双方向性がネットの最大の特性。政治と国民の距離を近づける効果を期待したが、今回は「自民党1強」で選挙戦自体が盛り上がりに欠けたこともあり、すれ違いばかりが目につく結果になった。今後、政党・政治家が有権者との対話ツールとしてネットを使いこなしていけるのかを注視したい。
ネット選挙の解禁に当たり、情報社会論を専門とする若手研究者、西田亮介・立命館大特別招聘(しょうへい)准教授(30)に共同研究を申し入れた。ネット選挙の影響を測るには、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディア上を飛び交う膨大な書き込み情報(ビッグデータ)を収集・分析する必要があり、情勢取材と世論調査を中心とした選挙報道の従来手法だけでは対応できないと考えたからだ。
◇世論とのズレ、立命館大と研究
共同研究の軸に据えたのは「ネット世論はリアルな世論なのか」と「ネット選挙によって政治と有権者の距離は近づくのか」の二つの視点だ。
まず第1の視点から「ネット世論は偏りやすい」との仮説を立てた。昨年12月の衆院選では、ネット上にあふれた「脱原発」「反原発」の声が選挙結果にあまり反映されなかった。ツイッター利用者の投稿(ツイート)から参院選の争点になりそうな政策テーマの関連語を集めたら、「原発」や「憲法」など賛否の分かれるテーマに関心が集まる傾向が鮮明に表れた。
一方、通常の電話による世論調査でも参院選で重視する政策を質問し、社会保障や景気対策など生活に関係する政策が上位に来ることを確認した。ツイッター上では特定の利用者の間で関心の高いテーマの情報が転送(リツイート)機能によって急速に拡散し、ネット世論と一般世論のズレが広がりやすいとの分析結果を記事にまとめた。
その記事に対しネット上では、毎日新聞が脱原発世論を潰そうとしているかのように誤解した書き込みもみられたが、そんな意図などあるはずもない。共同研究ではさらに第2の視点から政党・候補者側の発信内容を分析し、ネット利用者の発信とかみ合っていないことを突き止めた。