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- "茶のしずく石鹸"を使用したことにより発症する小麦アレルギーについてのFAQ(一般の方向け)
- "茶のしずく石鹸"を使用したことにより発症する小麦アレルギーについて疾患概念と診断の目安(医療従事者向け)
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- どうして、小麦成分が入っている石鹸を使って、小麦の食物アレルギーになるのですか?発症のメカニズムについて詳しく教えてください。
- 皮膚および眼や鼻の粘膜は、人間にとって体の内側と外側の境界にあたりますので、細菌やウイルスなどの外敵から、身を守るのに必要な免疫機能が発達しています。ですから、これらの臓器はもともと色々な外的物質に対してアレルギー反応を起こしやすい臓器だということができます。私たちがアレルギーの元になりやすい成分(これをアレルゲンと呼びます)を含有する石鹸やシャンプー・その他の化粧品を使用すると、アレルゲンが皮膚、および眼や鼻の粘膜などに少量付着します。このような石鹸、シャンプーなどの化粧品はほぼ毎日使用するわけですので、ごく少量しかアレルゲンが付着しなかったとしても、繰り返し使っていると一部の人がそのアレルゲン成分にアレルギーになってしまうことが考えられます。
このような現象は、もともとアレルギー体質でない人にでも十分に起こりえます。例えばスギ花粉症の場合でも、今までアレルギーの無かったひとにでも突然発症することがあることは、皆さまもよくご存じであると思います。
2010年12月7日までに販売されていた「茶のしずく」石鹸には、加水分解コムギという小麦由来のタンパク質(製品の箱には“水解小麦末”と表記してありました)が重量比にして0.3%含有されていました。すべてのタンパク質は人間にとってアレルゲンになる可能性がありますが、その中でも小麦のタンパク質はアレルゲン性の強いもののひとつと考えられています。毎日のように洗顔して、この成分、“加水分解コムギ”が少しずつではありますが目の粘膜、鼻の粘膜、顔の皮膚に付着しからだに侵入し、からだがこの成分を危険なものと判断し、外に出さねばならないと判断したために、この石鹸を使ったひとの一部は、この含有成分“加水分解コムギ”に対してアレルギーになってしまいました。そして、小麦のアレルギーが眼や鼻の粘膜や顔面の皮膚で最初に成立したものであっても、一度小麦アレルギーになってしまうとアレルギー反応は全身で起こり得ます。結果的に一部の方は、小麦を食べた時にもアレルギー反応を起こすようになってしまいました。
石鹸やシャンプー・その他の化粧品成分に対するアレルギーで、それらを使用した後に、じんましんや皮膚炎になるという現象はこれまでもよくわかっていました。しかしながら、このような石鹸やシャンプー・その他の化粧品成分に対するアレルギーが食物アレルギーに関係するとはよく知られていませんでした。したがって、今回茶のしずく石鹸の中の加水分解コムギに対するアレルギーにより、小麦アレルギーを発症してしまったという現象は、これまで予想されていなかったと言ってもよいと思います。
- 加水分解コムギとは何ですか?
- 小麦のタンパク質を酵素や塩酸などを使って細かく分解した(加水分解)ものです。加水分解することによって水に溶けやすくなります。この成分は、その高い保湿性のために、多くの化粧品やシャンプー・石鹸などの製品に添加されています。
日本には、加水分解コムギを作っているメーカーが複数あり、メーカーによってその作り方が異なり、同じ加水分解コムギでもメーカーごとに製品が若干異なります。
- どんなアレルギー症状が起こりますか?
- 石鹸使用開始後数カ月から数年して、小麦の食物アレルギーを発症する患者さんが多いです。
典型的な症状の方は食物アレルギー症状が出てくる前に、まず、石鹸を使用した時に、眼のかゆみや皮膚のかゆみ・鼻炎症状が始まります。しかし、石鹸を使用した時の症状は必ずしも強いものではなく全く自覚の無い方も少なくありません。石鹸の使用を続けると、この石鹸使用時の症状は少しずつ悪くなっていきます。
小麦を食べた時のアレルギー症状は、患者さんによって様々ですが、眼のかゆみや眼の腫れ、顔のかゆみや顔の腫れ、鼻炎症状などの、石鹸を使用した時に出るものと同じような症状がでることが多いようです。アレルギー症状が軽い場合は、眼や鼻、顔の症状だけのこともありますが、症状が重篤な場合は、腹痛・下痢、血圧低下、ふらつき、呼吸困難などの様々な症状注)が出現します。
小麦を食べた時に必ず症状が起こるとは限りません。小麦を食べた後運動をしたときにのみ、食物アレルギーの症状が起こる患者さんも少なくありません。これを小麦依存性運動誘発アナフィラキシーと言います。
以上にご説明したことは、典型的な症状であり、必ずしもすべての患者さんがこの典型的な症状になるわけではありません。
注)このような重篤なアレルギー症状のことをアナフィラキシーといいます。
- このような石鹸を使っていなくても小麦アレルギーになる人はたくさんいると思います。茶のしずくを使って小麦アレルギーになってしまった人に関して、どうしてその加水分解コムギという成分が原因であるということが言えるのでしょうか?元々小麦アレルギーの体質があった人が、たまたま“茶のしずく石鹸”を使っていただけなのではないですか?
- 確かに、小麦を食べて消化管から吸収された小麦でアレルギーになるこれまでの小麦アレルギーでも、子供の時に小麦アレルギーがなくて、大人になってから初めて小麦アレルギーになってしまう人もたくさんいます。こうようなタイプの小麦アレルギーでも、小麦を食べて運動した時のみにアレルギー症状が出る(運動誘発性のアレルギー)ことが多く見られます。これらの患者さんの症状としては、顔がかゆくなることもありますが、むしろ全身にブツブツと蕁麻疹がでることが多い傾向があります。
しかし、2009年頃から、20-60歳の女性に今までとは少し症状の異なる小麦アレルギーの患者さんが急に増えてきました。その方は、小麦を食べると瞼がはれる、顔がかゆくなるといった、これまでの小麦アレルギーの患者さんの多くとは少し違った症状をもっており、そのような患者さんは皆、この“茶のしずく石鹸”を使っていたのです。しかも、その石鹸の中に加水分解コムギという小麦由来の成分が含まれていました。
もしかすると、この石鹸のこの成分が、小麦アレルギーの原因かもしれないという仮説のもとに調べたところ、“茶のしずく石鹸”を使っている小麦アレルギー患者さんは、その加水分解コムギに強いアレルギー反応を持っていることが分かってきました。普通の小麦アレルギーの人はこの加水分解コムギにはアレルギー反応はないか、あってもその程度は大きくありません。加水分解コムギは、天然の小麦を人工的に加工したもので、天然の小麦にはない、人工的なアレルゲン性(加水分解したときにしか現れないアレルゲン性)をもっています。その後詳細に調べていきますと、この石鹸で小麦アレルギーになった患者さんは、天然に存在する小麦成分とこの人工的なアレルゲン性を示す部分の両方にアレルギーになっていることが分かりました。このような現象は普通の小麦アレルギーの方には見られませんでした。このような研究から、加水分解コムギに対するアレルギーを生じ、結果的に食事に含まれる天然の小麦に対してもアレルギーが引き起こされたことが証明されています。
- 小麦アレルギーになると一生治らないのですか?
- この病気は数年前から分かってきた新しい病気なので、5年後、10年後どうなるのかということに関してはまだ分かっていません。一般に、大人になってから発症する食物アレルギーは、治りにくいと考えられています。残念ながら、数年前までに発症した茶のしずく石鹸による小麦アレルギーの患者さんのうち、この石鹸の使用をやめて現在小麦アレルギーが良くなって自由に小麦を食べることができるようになった人はまだいません。ですから、少なくとも数年間は小麦アレルギーが続くと考えられます。加水分解コムギに対するアレルギーが、該当する石鹸の使用を中止することでどうなるかということについては、現在調査が進められています。
- “茶のしずく石鹸”を使っていた人の何人に一人ぐらいが小麦アレルギーになってしまうのですか?
- 小麦アレルギーになる方は、使用している方全体の一部です。しかし、調査データがありませんのでそれが10人に一人ぐらいなのか1000人に一人ぐらいなのかは、分かっていません。
- 加水分解コムギは“茶のしずく石鹸”以外にも入っています。他の加水分解コムギ含有製品は危険ではないのでしょうか?
- 加水分解コムギは、その作り方もメーカーによって若干異なり、さらに製品によって使用濃度や使用方法も異なります。今回“茶のしずく石鹸”では小麦アレルギーの患者さんが多発してしまいましたが、その他の加水分解コムギ含有製品で小麦アレルギーが複数人発症したという報告はまだありません。したがって、加水分解コムギを含むその他の製品までもが危険であると断定することはできません。ただ、同じようなことが他の製品でも起こってしまう可能性も否定はできません。当面、”茶のしずく石鹸”を使用していて小麦アレルギーであることが診断された人については、その他の加水分解コムギ含有製品の使用についても控えて頂くようお勧めします。
現在のところ、たくさんの患者さんの発生が報告されているのは、“茶のしずく石鹸”でのみです。その理由を私たちは以下のように推測しています。まず一つ目の理由としては、加水分解コムギの含有濃度が他の製品に比べ比較的高かったということ。次に、洗顔石鹸という使用用途で使用したために、皮膚と違って簡単に洗い流せない眼や鼻の粘膜に石鹸が付着し、長期にアレルゲンにさらされやすくなったこと、さらに、眼や鼻の粘膜は比較的アレルゲンが吸収されやすいこと。また、石鹸は界面活性剤がおもな成分ですから皮膚のバリア機能を多少なりとも破壊し、アレルゲンが吸収されやすくなる可能性。さらに、この石鹸に含有されていた加水分解コムギは分子量の大きいタンパク質も多く含んでいたこともアレルゲン性の増加に関与していた可能性も挙げられるかもしれません。しかし、これらはまだまだ推測でありまして、“茶のしずく石鹸”のみで小麦アレルギーの患者さんが発生している理由はまだはっきりと分かっているわけではありません。
- 現在の“茶のしずく石鹸”には、加水分解シルク液が入っていますが、これは安全な成分なのでしょうか?
- 現在までのところ、このシルクの成分でアレルギーを発症したという報告はありません。しかし、この加水分解シルクに限らず、どんな成分に対しても一部の人はアレルギーになってしまう可能性があります。アレルギーの患者さんが一人発生してしまったからといって、すぐに“その製品に問題がある”“その製品が危険である”と結論づけることはできません。逆に、現時点で一人も患者さんの報告がなされていないからと言っても、加水分解シルクが石鹸に使用された例は未だ少なく、これからも絶対に安全であるとも言えません。
- 加水分解コムギを含んでいる製品は、“茶のしずく石鹸”以外にもたくさんあります。どうして“茶のしずく石鹸”だけが自主回収になったのでしょうか?
- まず、製品の自主回収は、基本的にはメーカーの判断で行うことです。全国で67人の患者が報告されていますが、この数は氷山の一角で、報告に上がらないような方が少なくとも10倍以上は存在すると推測しています。おそらく、5月20日に自主回収の報道が流れて初めて、ご自身がこの石鹸のせいで小麦アレルギーになったことを知った小麦アレルギーの患者さんもたくさんいらしたと思います。結果的に患者さんがたくさん出てしまったことは間違いありませんので、私たちも自主回収は適切と考えています。
- 運動誘発性のアレルギーとは何ですか?
- 運動誘発性のアレルギーとは、食物アレルギーの反応が、食事の後に運動することによってより強く症状が出てしまう、もしくは食事の後に運動した時にのみアレルギー症状が出てしまうことをいいます。
小麦の場合を例にとってもう少し詳しく説明させて頂きますと、小麦アレルギーは、小麦の中のタンパク質が原因(アレルゲン)になります。一般的に、口から摂取した食物のタンパク質は、食べた後胃や腸の消化酵素で、ペプチドやアミノ酸といった細かい物質にまで十分に分解されてから吸収されます。ですので、食物タンパク質は、そのままの形で直接体の中には吸収されません。
しかし、小麦を食べたあとに運動をすると消化が不十分なままの小麦タンパク質が体に吸入されやすくなります。そのため、そのような小麦成分に対するアレルギーを持つ人が小麦を食べた後に運動すると、アレルギー症状を起こしやすくなると考えられます。
ただし、小麦アレルギーの強い人は、コムギ製品を食べただけで運動をしなくてもアレルギー症状が起こります。また、そういう方が小麦を食べたあと運動すると、運動しない時に比べてもっと強いアレルギー反応を起こすようになります。
- わたしも、“茶のしずく石鹸”を使用したことにより、小麦アレルギーになってしまっていないか心配です。自分が今小麦アレルギーになっているかどうか、どうすれば調べることができますか?
- 本当に小麦アレルギーになっているかどうかをはっきりさせるために、食物アレルギーを専門に診療している医療機関に受診して、医師の診察をうけることをお勧めいたします。血液検査、皮膚アレルギー検査などで小麦アレルギーになっているかどうか調べることができます。
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