着実に進化を続ける「人間的」検索エンジンBingが目指す価値とは?〜“検索”が再創造する、新しいWeb活用スタイルに迫る〜 着実に進化を続ける「人間的」検索エンジンBingが目指す価値とは?〜“検索”が再創造する、新しいWeb活用スタイルに迫る〜
着実に進化を続ける「人間的」検索エンジンBingが目指す価値とは?〜“検索”が再創造する、新しいWeb活用スタイルに迫る〜

グローバル展開のBing、日本では独自の最適化を

日本マイクロソフト株式会社の佐下橋 恵氏

Bingは2009年6月にまず米国でスタートした。その当初、単なる検索エンジンではない「意思決定エンジン(Decision Engine)」という呼称が採用されたことからわかるように、Bingは独自の理念のもとで各種サービスが開発されていると佐下橋氏は説明する。

「従来の検索エンジンは、運営会社が独自開発した検索アルゴリズムをもとに、関連度の高いものから順番に結果を表示するというのが普通でした。ですがBingでは、(アルゴリズムの都合に合わせるのではなく)検索するユーザーに関連した情報、あくまでもユーザー自身が興味ある情報へ素早く、少ないクリック数でたどり着けることを目的にしています」(佐下橋氏)

この目的を実現するためのより具体的な手法として挙げられているのが、“ビジュアル・タスク・ソーシャル”という3つの要素。必要な情報を直感的に探せる美しく見やすい画面で、タスクを速やかに進められるようなツールや構造化されたわかりやすい情報を提供し、さらにFacebookなどのソーシャルな要素を検索に反映させることで、個人個人に最適化された検索結果を届ける―――。これがグローバルサービスとしてのBing最大の狙いだ。

しかし、国や言語が異なれば、検索へのニーズは異なる。検索サービスを実際に提供するためのビジネス環境にも差異がある。佐下橋氏も「例えば米国版のBingでは、現地の事業者と連携してレストランの検索サービスを提供していますが、米国以外では当然この機能が役立ちません。(米国版Bingをそのまま提供するだけでは)日本のお客様に100%の価値をお届けすることはできません」と、具体例を挙げて解説する。

そこでBing日本語版を手がける日本マイクロソフトは、ある決断をした。数カ月間に渡り、「統計学的な見地からでも十分な規模」(佐下橋氏)というのべ5000人規模のユーザーリサーチを敢行。その結果をもとに、前述の“ビジュアル・タスク・ソーシャル”の3要素を踏襲しつつも、日本市場の現状を踏まえた、より具体的なキーコンセプト3種を考え出した。その1つめが「マイクロソフト製品との統合」だ。

日本マイクロソフトの代表製品といえばWindowsが真っ先に思い浮かぶ。だが日本市場、特に一般家庭向けのPC製品においては、Microsoft Office製品のプリインストール率が極めて高い。Office製品にBingの機能を統合することで、一般家庭のユーザーでもより簡単にBingが利用できるというわけだ。

佐下橋氏は「日本では、家庭でPCをご利用になるお客様のじつに90%がOfficeを導入しているというデータが出ています。全世界と比較してもここまで高い利用率を誇る市場はありません」と語り、Office製品とBingの連携はまさに日本市場の特徴に適したものだと説明する。

Microsoft Office製品とBingの連携機能の1つ「リサーチペイン」。Altキーを押しながら調べたい単語をクリックするだけで、Officeアプリ内で直接Bing検索の結果が表示される

ユーザーリサーチの結果でも、Office製品統合の評判は上々という。「Wordなどで文章を執筆中、気になる言葉をその都度ネット検索するのは意外と手間ですし、それまで考えていたことや作業が中断されるので、効率も悪くなりがちです。しかしAltキーとクリックの組み合わせで(ブラウザーを立ち上げることなく)直接Office上でBing検索する機能は、思考を中断させない効果もあって特に評価が高かった機能です」(佐下橋氏)

このほかにも、Webメール「Windows Live Hotmail」のユーザーインターフェイス上から直接Bing検索で添付用クリップアートを検索できる機能も、マイクロソフト製品との統合の例だ。「使ってみていただければ、利便性を十分に実感いただける機能だと思います。しかし、これらの機能の存在自体、まだまだ知られていません」と佐下橋氏は語り、知名度の向上がBingの大きな課題だとしている。

Facebookと相性バツグン?! その理由とは

Bingの日本市場最適化キーワード、その2つめは「ソーシャルネットワーク」だ。国内のPCユーザーは約6500万人とされているが、その約半数が何らかのソーシャルネットワークに参加しているという。

佐下橋氏は「いろいろな市場レポートの内容を踏まえると、mixiは2000万人、Twitterは1000万人、Facebookでも350万人ほどの利用者がいるとみられます。これだけの利用者がいる以上、対応を進めることは日本でも至極当たり前の方向性ではないでしょうか」と語り、時代の流れでもあると指摘する。

BingではTwitterのツイートを検索できる機能こそ提供しているが、数あるソーシャルネットワークの中でも、特にFacebookへ注力する姿勢を示している。もともと米MicrosoftはFacebook運営会社の未上場株式を保有するほど深い繋がりを持つ。米国発で、なおかつ国際市場で存在感のある2社が協調することもまた、自然の成り行きと言えるだろう。

日本版BingでもFacebook対応は進めているが、やはり米国版は機能面で非常に先行している。例えば、Bing米国版のWebサイトでは、Facebookアカウントとの接続(ログイン)ができる。この状態のBing検索結果画面では、Facebookで「いいね!」(英語表記だと「Like!」)を付けた人の数などが併記される。

Bing英語版で「microsoft support」と検索してみたところ。Facebook関連の情報が統合されている

Bing日本語版でも同じキーワードを検索。細部がかなり異なる

さらには、検索結果の各項目(サイト)ごとに、Facebookでフレンド登録した相手がすでに「いいね!」を付けたかが表示される。佐下橋氏は「例えば、焼き肉屋さんをネットで検索するとします。評判は高いけど自分自身が行ったことのない店が検索結果に並ぶでしょうが、その中に、友達が『いいね!』を付けたお店があるとどうでしょうか」と、その効果を指摘。検索アルゴリズムによって機械的に整理されたリストの中に、現実の友達の「いいね!」が加わることで、安心感や信頼感が醸成されるという点が、ソーシャルネットワークと検索の融合による大きなメリットだと強調する。

このほか、Facebookに登録した公開プロフィール情報との連携も米国版では行われている。「Tokyo」「New York」などの都市名で検索すると、Facebookの友人の中からその地に住んでいる人をリストアップしてくれる。旅行や出張で現地に訪れる前に、その友人と直接メッセージを交換して新鮮な情報を得るといったことすら期待できる。単純なネット検索だけでは決して得られないバリューと言えるだろう。

これらの機能は、残念ながら日本版Bingでは未実装。提供するかも含めて現段階では未定というが、日本でも少しずつFacebook利用者が増えている現状を踏まえれば、今後の導入に期待したいところだ。

Bing英語版で「Tokyo」と都市名で検索してみると、その地域に住んでいるFacebook上の知人の名前が表示される

余談ながらFacebookの言語設定を「英語」にすると、Facebook内でBing検索が直接行える

ただ、現状でも、日本ユーザーがこれらの機能を体験することは可能だ。Bingのトップページ右上の「日本」と表示された部分をクリックし、「米国 - 英語」へと変更してみよう。ユーザーインターフェイスこそ英語表記になるが、検索自体は日本語でも行える。元の設定にも簡単に戻せる。

テレビ番組関連の検索機能を徹底重視

「番組表」と検索するだけで、現在放送中の番組をリストアップ。番組表専門サイトや放送局公式サイトへ遷移する前に、おおよその内容を確認できてしまう

日本市場最適化キーワードの3つめが「テレビ番組情報との連携」だ。インターネットをクロールしてテレビ番組情報を集めるだけでなく、テレビ番組表や番組解説記事を専門に制作する株式会社日刊編集センターと正式に契約を締結し、信頼性ある高品質な情報をBingに直接統合している点が最大の特徴だ。「番組表」と検索するだけで検索結果画面に放送中番組のリストが地上波/BS含めて表示されたり、連続ドラマの作品名検索によってこれまでのあらすじを読み返す機能などが実装されている。

これらの機能自体は完全に日本独自のもの。導入のきっかけも、2010年7月のBing日本版正式スタート以降の利用者動向を分析する中で、テレビ番組の名称や、その出演者の名前などが検索される数が非常に多いという実情があったからだった。

佐下橋氏はその導入効果について「今年2月に提供を開始したところ、右肩上がりでテレビ番組関連の検索クエリーが増えました」「テレビ局の方から『番組公式サイトへのアクセスが増えた』というレポートもいくつか頂戴しています」と明かす。非常に評判も良く、さらなる展開を検討中という。

より親しみやすい、“人間的検索エンジン”を目指して

検索に人間的要素を加えていきたい、と語る佐下橋氏

日本マイクロソフトでは、この「マイクロソフト製品との統合・ソーシャルネットワーク・テレビ番組情報との連携」の3つを柱に、利用者増を狙っていく。この成果がどのようなものになるかがハッキリとした数値で判明するのはまだ先の話となりそうで、日本マイクロソフト自身もBingの日本国内シェアなどは今のところ公開していない。

しかし、機能面で先行する米国では、調査会社によるレポートなどからBingの好調が明らかになっている。その原因について、佐下橋氏は「米国では、やはりFacebook連携機能が非常に受け入れられているように思います」と分析する。

米国におけるFacebookの人気ぶりは、聞けば聞くほど驚かされる。佐下橋氏は「水道やガスと並ぶ生活必需インフラとしてFacebookを捉える人も多く、米国人の大半はPCを立ち上げてまずFacebookを見るといいます」とまで説明。米Microsoftは、このFacebook内のプロフィール情報や「いいね!」の付与状況を検索に反映させるための許諾をFacebookから独占的に取得している。現状、他の検索エンジンはFacebookの情報を基本的に利用できないため、Bingにとってこのアドバンテージは実に大きいようだ。

Bingのトップページ画像は日替わり更新。ある日は、木に登るパンダの可愛らしい姿が写し出されていた。画面右下の矢印をクリックすれば過去のバックナンバー7日間分も見返ることができる

また、隠れた人気コンテンツが、Bingトップページで日替わり更新されている画像だ。世界各地の有名な観光、雄大な風景、記念日や当日スタートのイベントなどをモチーフにした美麗な写真が毎日楽しめる。画像内のある場所をクリックすると、ちょっとした豆知識を知ることもできる。米国やオーストラリアでは、トップページ用画像を募るコンテストも実施したという。

「掲載される画像は国によっても違います。例えば日本では、平泉と小笠原が世界遺産に登録されたことを記念して、両地の写真を載せました。7月2日のツール・ド・フランス開幕日や7月4日のアメリカ独立記念日ですとか、全世界的に同じ画像を使おうという日はあるのですが、それ以外の日に関しては各国で独自に選んでいます」(佐下橋氏)

検索エンジンは、もはや毎日欠かさずに使う生活必需品となった。それだけに、ユーザーにとって親しみやすいもの、身近なものだと感じてもらうことが重要になると佐下橋氏は語る。「検索と言えば、キーワードを入力し、結果のURLが並ぶのが普通です。皆それに慣れて不便を感じてはいないと思いますが、どこか機械的というか、無機質な側面がありました。インターネットやテクノロジーが進化していく中で、これからは、検索にもう少し人の意図や気持ちを理解する人間的な要素を加えられるのではないか、と考えています」

Bingのトップページ画像も、そんな“人間的検索”の実現に向けた小さな一歩だ。検索エンジンといえば、少しでも効率的に情報を得るためにツールではあるが、その一方で画像を見てホッと一息ついてもらいたいという思いがある。

Facebookとの統合も同様だ。「普段の生活で分からないことがあれば、まず家族や友人に聞くことで、物事の決断が早くなりますよね。Facebookとの統合は、検索にそういった概念を持ち込むのが大きな目的です。沢山の検索結果の中からどのリンクをクリックするか迷う時、『いいね!』の有無が、身近な人からのアドバイス代わりになるんです」(佐下橋氏)

検索の高機能化が進めば、複数回検索しなければ分からなかった内容が1回の検索で済むことにも繋がる。ひいては、PCの前に座っている時間を減らし、家族や友達との交流に使える時間も増える。Bingでは、サイト全体の利用者数やページビューだけを重視するのではなく、「タスクの遂行を早くする手伝い」(佐下橋氏)をすることで、顧客にさらなる価値を提供することが大きな目標となっているようだ。

また、Bing日本版では、その他にも細かな配慮を行っている。「米国版Bingでは、検索結果画面にこれまでの検索キーワード履歴が表示されています。便利な機能ではあるのですが、日本のお客様はプライバシーの意識が非常に高いため、少しでも快適にご利用いただけるよう、表示をオフにしています」(佐下橋氏)

Bingの便利さをスマートフォンでも

単なるテレビ番組表にとどまらないソーシャル連携を志向する「テレBing モバイル」がiOSアプリとして登場


軽快な動作と使いやすいインターフェースで番組表を閲覧できるほか、番組表からのTwitter/Facebook投稿やTwitter上のTV局ハッシュタグ閲覧にも対応


iPadにもユニバーサルで対応する「テレBing モバイル」。軽快な操作性でユーザーレビューでも高評価に

2011年のIT業界における最大の関心事といえば、スマートフォンであることはもはや疑いようがない。日本国内での普及は、もはや時間の問題といえる。Web上でサービスを提供する各社も次々とスマートフォン対応を進めており、Bingも例外ではない。

「Bingとしては、スマートフォンに限らず、インターネットに接続できる非PC系機器、例えばタブレット端末のようなものも含めて、マルチデバイス対応戦略は積極的に進める予定です」と佐下橋氏も明言。米国ではその動きがいち早く現実化しており、アップルのiPad向けには検索アプリ「Bing for iPad」をリリースした。

そして、日本市場向けには独自のアプリが開発された。それが「テレBing モバイル」だ。名称が示すように、Bing日本版で推進されている「テレビ番組情報との連携」戦略を次のステージへ進めるための一手となるアプリで、完全な日本オリジナル製品。iPhone、iPad両方に対応し、8月1日のリリース以来、多くのユーザーにダウンロードされている。

「テレBing モバイル」を起動すると、まずテレビ番組表が表示される。そこから目的の番組を選択すると、コメントをハッシュタグ付きでツイートしたり、Facebook上でシェアすることができる。

佐下橋氏はこのアプリの狙いについて、「近年、ソーシャルネットワークが普及したことで、テレビを見ながら感想をTwitterへ投稿する方が増えるなど、視聴スタイルが大幅に変わってきています。この状況を踏まえて開発したのが『テレBing モバイル』です」と語る。

PC版Bingにおける2月のテレビ番組検索機能公開後、さまざまな利用者から集まった意見を元に、4月にまず開発スタート。それから社内でのベータテストなどを経て、機能や使い勝手を最終的に決め、今月リリースとなった。また佐下橋氏は「テレBingのリリース直後から、ダウンロードしてくださったお客様がTwitterやFacebook上でさまざまなフィードバックを共有してくださるので、開発チームは非常に貴重なご意見を日々拝見しています。今後は、Windows® Phone版など他機種版も検討していきたいです」と話し、iPhone版以外の展開にも含みを持たせている。

一方、マルチデバイス化とは別の展開としてもう1つ考えられているのが、より積極的なMicrosoft Office製品との統合だ。Officeシリーズの最新バーションでは「リボン」と呼ばれるタブ状のインターフェイスがあるが、このタブの1つのBing機能を付け加えられないか検討中という。

「例えば、このBingタブからインターネット検索して、プレゼン資料用のクリップアートを探せれば、ブラウザーを立ち上げる必要もなく、思考も中断されません。日本では本当に多くの方にOfficeをお使いいただいているので、ぜひ実現させたいと考えています」(佐下橋氏)

特設サイト「Discover Bing」で新しい体験を

Discover BingではBingの様々な機能を紹介しているので、いちどはチェックしたい

佐下橋氏はBingの魅力について「沢山の便利機能をご用意していますが、やはり使ってみなければわからない部分が多いと思います。『まずは一度使ってみていただきたい』というのを率直にお伝えしたいです。」と語る。Bing公式の特設サイト「Discover Bing」をこのほどリニューアルしたのも、その思いからだと説明する。

前述の大規模ユーザーリサーチでは、Bingの認知度が高いにもかかわらず、使っている人の割合が少ないという傾向も明らかになっている。この状況を解消するため「Discover Bing」ではより具体的なBing活用法を提案していく。

「まずはBingトップページの画像を見ていただくだけでもいいと思います。7日分のバックナンバーが保存されているので、それを見返していただくと意外な発見があるはずです」と佐下橋氏はアピール。その流れの中で、テレビ番組関連の検索を試してほしいとしている。

 

検索エンジンは毎日のように利用するサービスだけに、使い慣れたものをずっと使い続けるという人も少なくないだろう。一方、Webブラウザーに目を向けてみると、ここ数年で複数のベンダーから製品がリリースされ、開発スピードを競い合ったことにより、その性能は急速に向上した。1台のPCに3〜4種類のブラウザーをインストールしているユーザーの数は、2000年代初頭と比較して雲泥の差があるはずだ。

検索エンジンにもまったく同様のことが言えるだろう。使い比べることで初めて良い部分・悪い部分が見つかり、それを改善するためのフィードバックが生まれていく。各検索エンジンの得意分野を見つけ、上手く活用していくことが、ユーザー自身の作業効率化にも繋がるだろう。

そしてBingの得意分野は、本稿でも明らかなように「マイクロソフト製品との統合・ソーシャルネットワーク・テレビ番組情報との連携」に尽きる。特に「マイクロソフト製品との統合」の分野については、ローカルアプリ、あるいはWeb上のサービスからBingを利用できるため、普段ブラウザーにBingのURLを登録しなくても気軽に体験することが可能だ。

また「テレビ番組情報との連携」は、派手さこそないものの、着実に利便性を実感できる機能となっている。Facebookとの統合も含めて、今後も少しずつ機能強化されていくことだろう。なにはともあれ、まずは一度Bingに触れて、どんな体験ができるか自分自身で試してみてほしい。

(Reported by 森田秀一)

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