“裂き3年、串打ち3年、焼き一生”と表現される、うなぎの世界。金本が初めてうなぎを焼いたのは15歳の頃。以来、70年間この道を追求してきた。金本が焼くうなぎは、美味に加えて見た目にも“美しい”と称される。目指すのは、透明感を備えた黄金色。そのためには、表面を焦がしてはいけない。しかし、焼かなければ輝くようなテリは生まれない。金本は、ギリギリを攻めていく。
完璧に焼き上げたうなぎ。しかし、金本の採点は80点。合格点には達しているが、まだまだ先があると言う。
「もういいや、と言ったとたんにお迎えが来ちゃうよ」そう言って明るく笑う。その強い気持ちこそが、85歳となった今でも厨房に立つエネルギー源だ。
金本の真骨頂“かば焼き”
味はもちろん美しさを宿していると評判だ
火鉢の上の格闘
金本は江戸時代から続く老舗の5代目。昔から名店と呼ばれてきた店の評判を自分の代で崩してはならない、と常に重圧と闘っている。伝統とは何か。金本は、ずっと考え続けてきた。「若い頃は、伝統をただ守ることに必死だった。」と言う。しかし、時代は猛スピードで変わっていく。昔と同じままでは、ついていけるはずがない。時代の波にもまれる中でいきついたのが、この流儀。追求心を忘れないという職人魂、江戸前の心意気は、時代が変わっても不動のものだ。しかし、養殖うなぎを取り入れたり、うなぎにワインを合わせたりするのは、柔軟に対応していけばいい。何を守り、何を変えるか。その選択の積み重ねが伝統をより豊かなものにしていくのだ。
金本は生っ粋の江戸っ子
地元に伝わる祭りも大切に守る
白焼きにキャビアとワインを合わせたセット
35年前、斬新なアイデアだと話題を呼んだ
フランスのワイン醸造家ラフォンさんと語る
伝統を継ぐ職人同士、話は尽きない
金本の幼い頃の夢は、列車の運転士だった。だが、老舗の長男だという理由だけで、いやおうなく職人になった。
「今の若い人は、仕事が自分に合わないと言ってすぐに辞めるでしょ?でも、それは違うと思う。自分が仕事に合わせて努力をしなきゃ。」
どんな職業でも、縁あって就いた仕事。どんな仕事にも、面白さはあり、やりがいがある。それを見つけ、努力し続ければ、必ず道は開けると金本さんは言う。