ここ10数年の間にゲームは目覚ましい進化を遂げてきました。テクノロジーの発展によるグラフィック、サウンドの進化はもちろんのこと、今や比較的小さな開発会社でも大企業に見劣りしない高水準の作品を開発可能な時代となっています。
一人のプレイヤーとして、HDグラフィック、強化されたシェーダ、高度なAIを筆者は大歓迎しているのですが、こうした要素はゲーム体験にそれ程大きな変化をおよぼすものではありません。テクノロジーの恩恵は無視できるものではありませんが、それ以上に重大で、かつ矛盾した変化がゲームに起きています。ゲームの難易度が下がった一方、操作はより複雑になったのです。
『マリオ』シリーズに見るアシスト機能の進化
ゲーム機やジャンルを問わず、ゲームの難易度は下がってしまいました。それが必ずしも悪い事だとは言いませんが、少数の例外を除き、今やコアゲーマーにとっては歯ごたえが足りない一方、カジュアルゲーマーや初心者には優しい作品がほとんど。
近年の任天堂作品に導入されてきた「サポート機能」がその一例。これはプレイヤーが難しいステージを任意でスキップできるというものであり、最近のゲームに見られるアシスト機能の進化をよく表しています。
初めて導入されたアシスト機能は『スーパーマリオブラザーズ3』の「パタパタの羽根」と呼ばれるアイテム。これを入手すると無制限に飛び続けることができ、苦手なステージを飛び越えることが可能。しかし敵に接触すると能力を失ってしまいますし、ステージ自体はちゃんとクリアしなければなりません。
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』では「おてほんプレイ」と呼ばれる、より優しい機能が登場。同一ステージで8回失敗すると緑の「ヒントブロック」が出現、これを使用するとAI操作のルイージがステージ攻略のお手本を見せてくれます。同じ機能が『ドンキーコング リターンズ』、そして『スーパーマリオギャラクシー2』(「おたすけウィッチ」という名称)にも登場しています。
そして『スーパーマリオ 3Dランド』ではこうしたアシスト機能がさらに進化し、「アシストブロック」と呼ばれる機能が登場。同一ステージで5回失敗すると「無敵このは」を入手でき、そのステージを通して無敵状態となります。10回失敗すると「パタパタの羽根」を入手し、ゴール直前までワープできます。これらのアイテムは持ち物としてストックされ、任意のタイミングで使用可能というのが特に重要なポイントです。
もちろんこうしたアシスト機能はあくまでオプションであり、無視するも自由です。しかし近年の『マリオ』シリーズ、特に『3Dランド』においては難易度が低下しつつも、お馴染みの楽しさはキープしている、と言い切れるのでは。それでは他ジャンルの作品の例を見てみましょう。
取っ組みやすく、ユーザーフレンドリーなRPG作品たち
RPGにおいて、最近発売された2本の作品が対照的なアプローチで低難易度化を計っています。
筆者も現在プレイ中の『Kingdoms of Amalur: Reckoning』はRPG初心者に優しい作品と言えます。このジャンルの基本はしっかり押さえつつも、ヒント表示、親切なAI、自動照準、自由度の高いレベルアップシステムなど取っ組みやすい仕上がり。間口の広いアクションRPGでありながら、広大なフィールド、重厚なストーリー、数多くのサブクエストを備えているのです。さらにはグラフィックすら親しみやすい色彩となっています。
一方『スカイリム』は既存のシステムを刷新することで難易度が低下しました。前作『オブリビオン』と比べてゲームプレイ自体の難易度が低下したとは言い切れませんが(筆者個人的には簡単になったと感じます)、戦闘も含めたシステム全般が取っ組みやすく、親切になりました。
例えばレベルアップシステム。『オブリビオン』ではポイントを各能力に振り分けるシステムでしたが、その効果を実感しづらいのが難点でした。『スカイリム』ではポイントを任意の能力ツリー上のパークに割り当てるシステムに変更され、プレイヤーの選択の結果がはるかに分かりやすいものとなりました。進化したマップ、クエスト管理や特徴づけられた各スキルと相まって、『スカイリム』はより難易度の低い(ここでは「ストレスを感じさせない」の意)作品となったのです。
かの有名なマゾゲーも低難易度化
これには反論もあるでしょうが、筆者個人的には『ダークソウル』も前作『デモンズソウル』と比べると難易度が低下した印象を持ちました。アイテム、魔法、装備の増加はもちろんのこと、黒騎士のドロップアイテムが良質となったため、レア装備を求めて奮闘する割合が減っています。武器、防具の強化や数多くのショートカットも難易度低下の原因。それでも『ダークソウル』は依然としてマゾゲーと言えますが、ゲーム全般に見られる低難易度化の例外とはなっていません。
難易度が低下したのに操作方法は複雑になる矛盾
ここまで述べてきたように、ゲーム全般において難易度は低下してきた一方、その操作はどんどん複雑なものになっています。しかし年期の入ったゲーマーは中々その兆候に気づくことはありません。ゲーム操作の複雑化は一定の割合で進行するため、ゲームに慣れている人ほど感じにくくなるのです。
アメリカのゲーム開発者向け情報サイト「Gamasutra」のロバート・ボイド記者は「The Complification of Zelda」という記事において、『ゼルダ』シリーズを例に問題を指摘しています。かつてエレガントな操作性を絶賛された『ゼルダ』シリーズが、現在どれだけ複雑な操作を要求される作品となってしまったのか、彼はこう述べています。
「以前、とにかく操作が複雑なインディーズのシューティングゲームをプレイしたことがあります。その複雑さをカバーするためか、画面上にはコントローラーの表画像と共に、各ボタン操作の情報が表示されていました。なんてバカげているんだろう、その時はそう思ったのですが...
『スカイウォードソード』も初期状態では全く同じ表示なんですよね...操作が複雑でプレイヤーが置いてきぼりになる恐れがあるため、常に操作方法を画面上に表示する、それって何かおかしくないですか?」
ボイド氏によると、『スカイウォードソード』においてプレイヤーが要求される9つのボタン操作がこちら。
- 決定/走る/拾う
- アイテム使用(押しながら選択)
- 持ち物メニュー
- ポーチアイテム使用(押しながら選択)
- マップ
- カメラ固定
- 主観視点/ダイビング
- ヘルプ
- 剣の精霊を呼ぶ/照準リセット/鳥を呼ぶ
上記のボタン操作に加え、さらに要求されるモーションコントロールがこちら。
- 斬撃(コントローラーの動きに対応して攻撃方向が変化)
- 突き
- スカイウォードでチャージ
- 回転斬り
- とどめ
- 盾を構える/盾アタック
- 前転
Wiiのモーションコントロールとは、操作をより直感的で自然なものにするために導入された新システムであったはずですが、どうも道を見失ってしまったように思われます。
通常のコントローラーによる操作を用いたゲームであっても同じような問題を抱えています。筆者がカジュアルゲーマーである自分の妻にRPGの良さを体験してもらおうと『Kingdoms of Amalur』をすすめた時のこと。彼女は「攻撃操作」の欄にずらりと並んだ操作方法の数々を目にした瞬間、筆者にコントローラーを返して部屋を出て行ってしまいました。
間口を広げる狙いも、結果は伴っていない
アメリカのゲーム業界団体、エンターテインメントソフトウェア協会が去年発表したドキュメント「Eseential Facts About the Computer and Video Game Industry」ではセールスなど様々なデータから、ゲーム産業が経済にとって不可欠な要素であると示されています。確かに女性や老人を含め、ゲーマー人口は年々増加しているものの、家庭ゲームとPCゲーム両方を含めた累計売上額は成長が停滞しています。(2002年で2億2400万ドル、2010年で2億3200万ドル)
この数字において、現在のゲームに見られる間口の広さ、そして操作の複雑性はどのような意味を持つのでしょうか? ゲームの難易度を下げても、新規プレイヤーは獲得できなかったということなのか? そして低難易度化やアシスト機能の充実は見当違いの施策だったのか?
そもそも、難易度は下がったのに操作が複雑なゲームという存在を、ゲーマーはどのように受け止めればよいのでしょうか?
アボット氏はウォバッシュ大学映像学部で学部長を務める傍ら、自身のブログBrainy Gamerを執筆し、Podcastも配信されています。大学ではドラマや映画学の講師を担当しており、同学部ではビデオゲームの歴史、手法も学べるそうです。
Video Games Are Easier Than Ever, Yet Harder To Manage [Brainy Gamer Via Kotaku]
(上原理)