特集ワイド:続報真相 福島第1原発事故 汚染水、本当の深刻度
毎日新聞 2013年07月26日 東京夕刊
東電の計算では、地下水は1年に約30メートルの速さで海に向かって流れている。問題の防波堤の海側までは建屋から2キロぐらいあり、丸井グループ長は「今ならまだ拡散を止められる」という。
海への流出とは別に、回収した汚染水の保管場所も大きな問題だ。現在約32万立方メートル(ドラム缶換算で160万本)をタンクに貯蔵しているが、大西委員長は「敷地内に保管するとなると、残るスペースはあと2年分ぐらい」と話す。二見教授は「放射線量が高い中での作業のため貯蔵タンクは急造で、溶接不良やつなぎ目の締め付けが十分でないところがある」と苦い顔だ。そこから漏れる恐れもあり「周辺の工業団地や福島第2原発の施設を使い、仮設ではなく十分に耐用性があるものを造るべきだ」と力を込める。
◇「凍土で壁」に国予算 際限ない維持費
汚染水処理対策委員会は、1〜4号機の原子炉建屋とタービン建屋のまわりの土を全体的に凍らせ、水を通さなくする「凍土遮水壁」を地下水対策の「切り札」として投入することを決めた。
「問題なのは、世界で誰もやったことがない大規模な工事であることだ」と大西委員長は言う。今までの日本の地下トンネル建設で経験された長さの100倍ぐらいにはなるという。U字形のパイプを80センチから1メートルの間隔で埋め、そこに不凍液を流して周辺の土を凍らせる工法だが、本当に間の土が凍るかが大きな課題だ。
うまくいけばトレンチごと凍らせることができ、タービン建屋とトレンチの間を埋めることができる。国が予算をつけて、今年中に現地で実験する予定だ。大西委員長は「これができれば建屋内に入り込む水をある程度コントロールでき、溶けた燃料に触れて新たに生まれる汚染水を減らすことができる。周囲の線量を下げることも可能。燃料の取り出しに向けて大きな進展となる」と期待する。
これに対し丸井グループ長は「凍土方式は最新技術だが、一回始めたらやめられない麻薬のようなもの」と説明する。毎年維持費として膨大な電気代がかかるうえ、凍らせていた土が解けた場合、もともと水を通しにくかった粘土質の土に隙間ができるなど逆に水を通しやすくなってしまう。「凍土壁が解けた場合を想定し、凍土の外側に鉄の連続壁を造ったり、さらに外側に井戸を掘って周辺の地下水を減らしておくなど二重三重のバリアーが必要」と警告する。多重のバリアーは海側にも造り、遮水壁やガラス系の薬液を投入する防止壁など重層的な対策をなるべく早くしなければならないという。