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【社会】

開かずの電子資料 OS更新 図書館泣かせ

2013年7月28日 07時04分

都立中央図書館のCD−ROM閲覧コーナー。パソコンの脇に「旧OSに対応したソフトは再生する機械がありません」と断り書きがある=東京都港区で(中村陽子撮影)

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 各地の図書館で、CD−ROMなどの電子媒体で保存されている資料の一部が、パソコンのOS(基本ソフト)など、デジタル環境が刷新されていく中で、見られなくなっている。図書館側も問題を認識しているものの対策は難しく、手をこまねいている状態だ。専門家は「電子資料を持つすべての機関に関わる問題。このままだと貴重な記録も消失する」と危惧する。 (中村陽子)

 融資の審査などに使う「第11次 業種別審査事典」CD−ROM版、江戸期に編さんされた名所案内「江戸名所図会」のデジタル解説書…。東京都立中央図書館で、CD−ROMの一枚をパソコンのドライブに入れると、目次までは表示されるが、その先はエラーメッセージが表示され、再生できない。

 担当者は「見られない資料の多くは、更新前の世代のOSに対応して作られた製品で、閲覧ソフトが組み込まれていたり、映像が入っていたりする複雑な作りのもの」と説明する。同館には二千を超す電子資料がある。昨年、OSを「ウィンドウズ7」に更新して以降、「資料が開けない」という問い合わせが目立つようになった。

 電子資料が再生できない理由は、読み込み装置が適合しないなど、OS以外にも考えられる。だが「個別の原因究明や、エラーとなる資料数の把握はできていない」という。「利用する人が少ない古い資料について、一つ一つ確認している人的余裕がない」(担当者)。今のところ、閲覧用のパソコン脇に<旧OS対応のCD−ROM、フロッピーディスク等は、館内で再生する機器がありませんので、ご利用いただけない場合があります>と、断り書きのパネルを置いて対応している。

 国会図書館にも、OS更新後、見られなくなった資料がある。同館では当面の対処として、現在利用しているより前のバージョンのOSが入ったパソコンも閲覧室に置き、なるべく多くの資料が再生できるよう工夫している。担当者は「電子資料は、どうしても読み取りの機械に依存する。図書館だけの問題ではない」と話す。再生できない資料は、死蔵状態となるが「捨ててしまえば、将来的にも見ることができない」と保管を続ける。

 同館は、約十年前から、電子資料を長く利用するための仕組みを調査、検討してきた。その報告書では、パソコンの再生環境を維持するだけでは、済まない問題も指摘している。媒体の破損だ。

 例えばCDなど光ディスクの耐用年数は、一般的に十〜三十年ほどとされ、数百年はもつ紙よりもずっと短い。壊れてしまうと、電子情報そのものが消失する。

 対策として、耐用年数の長い新媒体に内容をコピーして保存することなどが考えられるが、コストがかかる上、著作権などの問題もあり「具体的なモデルは、できていない状態」だという。

 電子情報の長期保存について研究している小林敏夫氏(神奈川大非常勤講師)は「超長期に情報を保存し、必要な時に再生できる仕組みを作らなければ、やがて大量にデータが消える。その中には人類にとって貴重な情報も含まれるだろう」と指摘する。情報を処理する技術は、この数十年で飛躍的に発達してきたが、保存にはあまり目が向けられてこなかった。「社会活動のほとんどが電子技術に依存する時代。デジタルデータの長期保管の問題は、図書館だけでなく、研究機関や企業も一緒に取り組むべき課題だ」と話している。

(東京新聞)

 

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