「元気そうね」は禁句−−。がんで家族をみとった人が、死後1年を経ても周囲の不用意な言葉に傷ついている実態が、埼玉医科大国際医療センターなどの調査で分かった。遺族への言葉に配慮が必要なことは経験的に知られるが、遺族自身が個別に評価した調査は初めて。一周忌を終えても悲しみの癒えない遺族は多く、周囲の認識とのずれは深刻と言えそうだ。【元村有希子】
同センターには、家族を亡くし精神的な症状に見舞われた人をケアする「遺族外来」がある。多くは「もっといい治療法があったのでは」「看病が不十分だった」と後悔し受診に訪れるが、センターは「周囲の言葉や態度に傷ついた」と漏らす人が多いことに着目した。
そこで、2010年10月〜11年4月、全国のがん患者遺族630人を対象に、知人や親類からかけられた言葉や態度42項目について、経験の有無と「助けになった」程度を尋ねた。対象者は、回答時点で死別から13〜24カ月経過していた。
その結果、約6割が「一緒に住んでいてなぜ(がんに)気づかなかったのか」や「がん家系なの?」など、興味本位のせんさくともとれる質問を受けており、遺族から「最も助けにならない」と評価された。
また、約4割が、死別による「よい面」を強調する声かけを経験。「これで自由になりましたね」「看病から解放されたじゃない」などの言葉に傷ついていた。同様にほぼ半数が、悲しみを隠して振る舞っていることに気づかない人から「意外に元気そうですね」と言われていた。保険金の額や生活費の質問も「助けにならない」とされた。
逆に「助けになった」のは、▽事情をよく知る人の「頑張ったね」という声かけ▽黙ってそばにいてくれた▽食事を差し入れてくれた▽気遣うメールや手紙、電話▽法要などの作業の手伝い−−など、弔意を態度で示す働きかけで、いずれも約8割が経験していた。 遺族外来の大西秀樹教授(精神腫瘍科)は「『大往生でしたね』という言葉も、遺族によってはつらい場合がある。亡くなる人の年齢や境遇で悲しみに軽重はつけられず、価値観を押しつけるような言葉は慎んでほしい」と話す。研究代表の石田真弓助教は「一周忌で悲しみが癒えると言われるが、家族の死から1年が過ぎても、外来を訪れる人も多い。周囲の不用意な一言で、症状が悪化してしまうケースもある」と指摘する。