花のまちづくりは生ごみと花苗の交換事業で 〜リサイクルフラワーセンターが開園・埼玉県戸田市〜 |
埼玉県戸田市は東京都板橋区と荒川を境にした県南部に位置し、人口12万人強の県下一暮らしやすい街と言われている。日本経済新聞社の都市評価「サスティナブルシティ(持続可能都市)」では全国3位。市民の満足度が高い各種施策を実施しているからなのだが、特に花のまちづくりによる施策には目覚しいものがある。その一つが「生ごみと花苗の交換事業」で、今年から隣接する蕨市にまで拡大し、平成22年5月21日、その作業場であるリサイクルフラワーセンターが蕨戸田衛生センター敷地内に開園した。そこで、同市におけるまちづくりや環境改善へのEMを活用した各種取り組みについて特集する。
施設の概要として、敷地は8,747㎡、218㎡の温室が3棟、管理棟が271㎡、堆肥化装置室が36㎡である。この堆肥化装置は、一般家庭からのEM処理された生ごみを1日360kg処理できる。
草花が栽培されているリサイクルフラワーセンターの内部
開園式で挨拶する神保国男戸田市長
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リサイクルフラワーセンターの全景
−EM堆肥を姉妹都市の有機農業に活用し、
戸田市に還流する資源循環型も視野に−
このセンターは①循環型社会の構築②美しい街づくり③障がい者・高齢者の雇用促進④子供たちへの生きた環境教育現場の提供⑤環境ボランティアを促進する場の提供⑥衛生センターと近隣地域の環境美化の6つの目的をもって設置された。
特に③障がい者・高齢者の雇用促進で障がい者雇用については、週に100人の雇用を目指す画期的な試みがなされている。花の種の発芽から生ごみ持参の市民へ提供される花鉢の作成までの種々の業務にわたり、指導員とともに元気に働いている。労働の対価として支払われる賃金についても埼玉県の最低賃金を基準としている。
障がい者雇用については、全国的に不景気もあり進んでいないのが現実であり、しかも一般的には信じられないくらいの低賃金なので、このセンターでの障がい者対策は全国的に見てもかなり上位に位置する素晴らしいものである。
また、このセンターの特色としては年末年始を除き土日もオープンするほとんど年中無休の体制で市民本位の姿勢を貫いている。花苗の生産能力は、年4回のローテーションで年間約8万鉢であり、戸田市・蕨市の市民はもとより、両市内の公共施設や道路敷き花壇などにも供給される予定だ。
また、次の展開として戸田市の場合、都市化が進み市内に農地は少なく出来た堆肥を農業用として市内で消化できないことから、この堆肥を使って姉妹都市である埼玉県美里町の農家の協力で安心安全な有機栽培をお願いし、戸田市の学校給食や戸田市民へ野菜などを還流する資源循環型も目指す。
戸田市を「環境みらい都市」に県が認定 |
今年2月、戸田市が埼玉県から「環境みらい都市」に認定された。地球温暖化防止対策の取り組み実績などで他の市町村の模範となる都市であることが認定理由だという。
戸田市役所のベランダに設置されている
ハンギングバスケット
戸田市の環境対策は、市民と行政が協働して取り組む具体的対策が功を奏している。その代表例として、①温暖化防止対策としてのエコライフDAYの市民参加率が県下No1。②環境ボランティア団体の活動が盛んである。③リサイクルフラワーセンター事業が障がい者・高齢者雇用による環境と福祉の融合、コミュニティの醸成、ボランティア養成など多岐にわたること。④生ごみの堆肥化でごみの減量化と花のまちづくりを進め潤いある空間を創出し、ポイ捨ての減少・犯罪の減少に繋がっている。⑤市民参加で進める戸田ヶ原自然再生事業といった生物多様性を視野に入れた事業。
戸田市は環境対策が進んでいて財政力の豊かさ、暮らしやすさの「サステナブルシティー(日本経済新聞社)」評価で全国3位になったのだが、これは神保戸田市長の理念「住みよいまち・住んでよかったまちづくり」を実現させる強いリーダーシップと環境への強い想い入れが合致した結果と言えるだろう。
─ 戸田市独自の屋上緑化システム「フェルトガーデン戸田」
安価・軽量で高い省エネ効果も実証され、民間にも拡大 ─
戸田市の屋上緑化システム「フェルトガーデン戸田」が、温暖化防止につながり環境負荷が軽減されることが実証され徐々にではあるが民間のビルにも拡大しつつある。特長は、使われている資材が全てリサイクル品(U−ネット通信2008年1月48号参照)。リサイクル品なので価格が安いことと軽いことも大きな特長であり、温暖化防止や省エネの時代には最適な屋上緑化システムであろう。
JX日鉱日石エネルギー(株)の屋上
戸田中央総合健康管理センターの屋上
外気と緑化下との温度差が10度もあり効果が実証され、本格的な設備が平成19年以降に戸田市役所庁舎屋上や南小学校屋上など公共施設に設置された。民間には、JX日鉱日石エネルギー(株)に続き戸田中央総合健康管理センター屋上にも設置され、温暖化防止と省エネのみならず、CSR(企業の社会貢献活動)にも寄与している。
─ 集合住宅用にはハンギングバスケット ─
戸田市は都市化の進展とともに集合住宅の比率が高く、庭に植木や花を植える人は限られているのでフェルトガーデン戸田の変型として、ベランダでも楽しめるハンギングバスケットでの花飾り普及にも取り組んでいる。JX日鉱日石エネルギー(株)の協賛で設置された戸田公園駅西口広場や戸田市役所3階ベランダにも設置されていて来訪者の心を和ませている。
戸田公園駅西口駅前に設置された
ハンギングバスケット
─ みんなの花壇「花ロード美女木」
ポイ捨てが減り、犯罪発生率も低減 ─
戸田市の「花のまちづくり」は誇れるものが多いが、地域住民、学校、企業、戸田EMピープルネット、国土交通省、戸田市が一体となって進めている「花ロード美女木」も秀逸である。東京外郭環状道路下298号国道沿い歩道に設置された16箇所の花壇を地元主体で維持管理をするというもの。
雨にもめげず花ロード美女木を整備する
美女木地区の皆さん
この運動は平成18年3月から続いているが、地元町会の連合体で地域の環境保全や防犯で活躍する美女木地区まちづくり協議会(萩原脩造会長)の主導のもと、今では年間延べ6千人以上が参加する一大市民運動だ。こうしたことが埼玉県から評価され「花いっぱい咲いたまフラワーコンテスト審査員特別賞」と「彩の国景観賞」を受賞している。
この運動効果は想像以上で、都市化の波でコミュニティ醸成が危ぶまれる地域の連帯感が高まることやごみのポイ捨て減少、また空き巣・自転車泥棒などの犯罪も大きく減った。
また、この花壇による花づくりの特長は、戸田市独自の屋上緑化システム「フェルトガーデン戸田」と同じようなリサイクル素材を用いている。
─ タイ国実業家が戸田市の生ごみリサイクルを視察 ─
タイ国で日本の三菱電機グループとの合弁会社を経営している実業家のプラファド氏らが埼玉県戸田市にあるリサイクルフラワーセンターと環境ボランティア作業場であるエコスを視察した。
堆肥化の様子を見る
タイ国の実業家プラファド氏(左端)
タイ国でのEMは全国的に普及しているが、農業・漁業と一般家庭ごみの処理や病院での消毒・清掃等での使用が主で、産業界とりわけEMを使った環境事業は、これからだという。
今回の視察は、EM研究機構の紹介により「生ごみと花の交換」で全国的に注目されている埼玉県戸田市の先進事例を見たいからとのこと。また、EMでの生ごみ堆肥・飼料製造等環境事業をタイ国内で立上げるための実態調査の一環でもあるという。
EMで土壌ダイオキシンを低減化 |
─ 蕨戸田衛生センターで実験研究 ─
蕨戸田衛生センターは、蕨市と戸田市の約20万人分のごみ処理施設、焼却能力は1日180トンである。戸田市と蕨市の分別の徹底等ごみ減量化策が功を奏し、人口は増加傾向にあるが、ごみは減少している。
EM活性液を散布するための
調整をする衛生センター職員
一昔前までの焼却ごみは、どこの自治体でもそうだが、焼却場敷地内に埋め立て処分していた。そのため、敷地内には今でも、重金属やダイオキシンなど有害物質が埋もれている。当センター敷地内の北に現在、リサイクルフラワーセンターが設置されているのだが、事前の土壌調査の時、地下3mでのダイオキシンの数値が43,000ピコグラム、環境基準値が250ピコグラムであるから170倍以上と、その汚染度はかなりのものだ。
リサイクルフラワーセンターの土壌対策は、汚染土壌の上にゴム製の防護シートを張り、きれいな土で厚さ50cmの土盛りをしている。しかし、その工事費用は高額である。
そこで、EMを使ってバイオレメデーション(生物的環境浄化)ができないか。費用も安く、汚染土壌を根本的に浄化する技術が確立できれば、その需要は国内のみならず全世界からいくらでもあり、地球を救う素晴らしい技術となり得るものだから。
技術確立を目指して平成21年から蕨戸田衛生センター組合、地球環境共生ネットワーク、EM研究機構、戸田EMピープネットの4者による本格的な協働研究が始まった。
当面は、18年度から引き続き試験をしている蕨戸田衛生センターの敷地内3箇所でのEM活性液の散布を続ける。これまでの散布でも数値は半減しているが、環境基準の250ピコグラム以下にはならない。そこで活性液の濃度・散布回数の増加等で低減化の様子をみることにしている。
─ 戸田市の河川浄化は民間ボランティアで ─
EM活性液・担体・だんごを投入
戸田市内を流れる大河は南側東京都境を流れる荒川だが、これに流れ込む支流の川でEMによる河川浄化が民間ボランティアの手で行われている。
菖蒲川にEMだんごを投げ入れる戸田中学生
平成14年以来、EM活性液とEM担体を投入しているのが戸田市の西を南北に流れるさくら川。市内中央を流れる上戸田川は平成16年から20年までEM活性液とEM担体を投入していて効果が上がり始めていたが、現在は河川工事などで中止している。市内を東西に流れる県の1級河川である菖蒲川には、平成19年からEM活性液、EM担体、EMだんごを相当量投入している。
─ 河川浄化運動は悪臭対策から始まった ─
河川浄化運動は、川沿い住民からの悪臭苦情から始まることが多い。戸田市の場合も例に漏れず悪臭苦情から始まった。
菖蒲川で舟に乗りヘドロの状況を調査する
戸田ロータリー会員他の皆さん
さくら川や菖蒲川でよく見られるシラサギ
さくら川の場合、隣接する巨大な下水道処理施設からの排水と川に流れ込む工場排水や家庭雑排水が悪臭の原因だ。この悪臭対策として、地元の笹目、美女木地区の町会組織と戸田EMピープルネットが立ち上がり、EMによる河川浄化が始まった。特にこの川の上流のさいたま市南部地区は公共下水道が整備されていないため、未処理の家庭雑排水が常時流れ込んでいる。このため、EMも常時投入し続けなければならない。今年で8年目だが、悪臭は全く無くなり、川底もヘドロは消え去り砂地が見えている。蟹、魚の水棲生物が遊びシラサギなどの水鳥が飛来し、生物が多様化している。
高層住宅も建つ住宅密集地を流れる菖蒲川の場合、長年にわたり川に接する南原町会の有志でつくる「クリーンEM南原」の方々が家庭で作るEM米のとぎ汁発酵液や活性液を定期的に投入しているが、川幅が広く水量の多い菖蒲川では流した後は良くなるが、その効果は限定的であった。
─ ロータリー・中学校・EMピープルネットの協働で ─
菖蒲川の悪臭やヘドロで汚れた状況をどうにかしようと戸田ロータリークラブが立ち上がり、戸田市役所環境クリーン室と相談し、地元の戸田中学校と戸田EMピープルネットの協働での河川浄化運動が始まった。資材の費用はロータリークラブが負担し、活動はロータリークラブの他、戸田中学校とEMピープルネットが参加している。
現在、EM投入後丸2年であるが悪臭は無くなり、生物の多様化が顕著になりつつある。春にはボラの稚魚が大群で遡上しこれを狙ってシラサギやカワウが飛来してくる。鴨は一年中、泳ぎ、飛び交っている。大量にいる大きな鯉も年中、悠々と泳いでいる。しかし、下水道の中継基地が近くにあり大雨の時には、し尿の生放流が行われるので、その直後は水が汚れ臭いも少々気になるが、数日でそれも解消される。さくら川のように1tタンクで二次培養したEM活性液を大量定期投入すれば、もっと水質改善が進み、アユの遡上も夢ではないだろう。
EMと主婦のパワーで見事に甦った珊瑚の海・天草 〜契機となった家庭生ごみの堆肥化と同液肥による汚水浄化の実体験〜 |
熊本県西端の島々天草地区では、主婦たちによる長年のEM活用により、河川の悪臭とヘドロが消え、有明の海も生態系が復活しつつある。この活動を平成6年に手掛け、地道に活動を続けている杉本烈子さん(“天草の海を珊瑚の海に”代表、U-ネット熊本県世話人)に、同地区における活動の一端を案内していただいた。
天草随一の名所リップルランド(道の駅)での
EM製品販売 杉本さん(右)と
活動仲間の柴田森子さん
─ EMによる河川浄化 産みの親 ─
杉本さんは、生ごみバケツの液肥が汚水の浄化やヘドロの分解に大きな効果があることをはじめて体験・発見した主婦として名高い。バケツの液肥を毎日抜き取って雑排水口に流していたら、排水路、その先の河口までのヘドロが消えた。その様子がEM研究機構に報告され、EMによる本格的な河川浄化活動に繋がった(EM研究機構談)という。
杉本さんの力強いパートナー
中野さんご夫妻・ご主人の和人さん(左)と
無農薬菜園
また、“天草の海を珊瑚の海に”という強い想いから、活動グループの名前や名刺・ファックス用紙にまでその言葉を書き込み、自ら行動しながら地域の婦人会、商工会、授産施設、行政組織などに働き掛け、生ごみの堆肥化、家庭での活性液・発酵液の活用、農薬を使わない野菜・果樹栽培の普及などに大きな成果を生んでいる。
─ 授産施設の活性化に寄与 ─
いつも笑顔が絶えない授産施設の利用者と関係者