自分たちの立場をわかっているのだろうか。参院選に敗れた野党各党のごたごたを見ると、そんな疑問がぬぐえない。民主党では、海江田代表の続投に異論が出る一方、東京選挙区の公認[記事全文]
もう先送りは許されない。原発事故の被災者の健康不安や生活再建への支援のことだ。象徴的なのが、子ども・被災者支援法への政府の対応だ。[記事全文]
自分たちの立場をわかっているのだろうか。参院選に敗れた野党各党のごたごたを見ると、そんな疑問がぬぐえない。
民主党では、海江田代表の続投に異論が出る一方、東京選挙区の公認をめぐる菅元首相への処分問題で、執行部の中で意見が割れた。おとといの両院議員総会で海江田氏の続投と処分問題にひとまず決着はついたが、党内に不満はくすぶる。
みんなの党では、党運営や野党再編への考えの違いから、渡辺代表と江田幹事長がお互いを批判している。江田氏と民主党の細野前幹事長は、日本維新の会も交えた再編に前向きだ。これに渡辺氏がブレーキをかける構図になっている。
一方、参院選で1議席しか取れなかった社民党は、福島党首が辞任し、まさに存亡の淵(ふち)に追い込まれた。
自民、公明の巨大与党に対抗するどころではない。野党がこんな体たらくでは、議会制民主主義そのものが機能不全に陥りかねない。
幹部間の確執や、上滑り気味の再編話にうつつを抜かしている時ではない。野党各党は敗因を虚心に分析し、党再生に向けた道筋を探らねばならない。
参院選では、民主党が惨敗した。みんなの党や日本維新の会も含め、比較的新しい勢力に不振が目立った。
振り返れば、93年に自民党が分裂して以来、政党の離合集散が繰り返されてきた。国会に議席を持った政党は、じつに30を超える。
確固たる基盤を持たない新党が生きながらえるのが、いかに難しいか。この20年、政界に影響力を誇った小沢一郎氏の生活の党が、今回は議席を獲得できなかったのは象徴的だ。
とはいえ、長い歴史を持つ政党も、もはや旧来の支持基盤にあぐらをかいていられる時代ではない。
実際、旧態依然とした自民党への有権者の失望が民主党の躍進を支え、一時は政権にまで押し上げたのではなかったか。
民主党政権の自壊から、ここ2回の選挙では一転して自民1強体制を生み出した。だからといって、変革を求める民意の流れは変わらないはずだ。
「多弱」となってしまった野党が、それにどうこたえるか。理念や政策が異なる中、答えをすぐに見つけるのは難しい。だからこそ、まずはそれぞれの党の立て直しが大切になる。
それ抜きに党内の主導権争いを演じていては、民意は離れる一方だ。与党ばかりをよろこばせてはならない。
もう先送りは許されない。
原発事故の被災者の健康不安や生活再建への支援のことだ。
象徴的なのが、子ども・被災者支援法への政府の対応だ。
この法律が超党派の議員立法でできて、1年1カ月になる。被災地に住む人。政府の指示や自らの判断で避難した人。避難先から地元へ帰る人。それぞれに必要な支援策を作る。対立しがちな三者を、被曝(ひばく)を避ける権利を共有する人々ととらえて包み込む。そんな発想の法律だ。
法じたいは理念法で、具体的な支援策は「基本方針」で定めることになっている。
ところが、基本方針はいまだにできていない。作る前に被災者の意見を聴く定めになっているが、復興庁自らがその場を設けたことはまだ一度もない。
今の国や自治体の制度では、被災者の抱える不安や問題にはこたえきれない。たとえば、福島県内でも避難区域の外に住んでいた大人には、放射線の影響の詳しい健診がない。
借り上げ住宅に暮らす避難世帯は15年春までは住めるが、その後のことは決まっていない。住みかえもままならず、生活設計ができない。ストレスを背景に児童虐待も増えている。
被災者の声を集約し、支援策全体をみなおす必要がある。
ネックになっているのは、支援対象とする地域を放射線量で線引きして決めなくてはいけないことだ。被災者の間でも健康不安の強さや避難の必要性をめぐる考え方は違う。だれもが納得する線引きは難しい。
だからといって、これ以上、たなあげを続けられない。支援法に期待した被災者らは見捨てられたと感じ始めている。
低線量被曝の影響はだれにも正解がわからない問題だ。復興庁は、線引き基準の検討を原子力規制委員会に頼んでいる。だが、公の討論がないままでは、多くの人が受け入れられる基準や支援策はつくれまい。
まず、復興庁は支援のニーズを把握するためにも、被災者どうしの対立を乗りこえるためにも、住民や避難者から話を聴く場を早く設けるべきだ。
線引きがいったん決められたとしても、それが適切かを不断に見直し続けることを想定せねばなるまい。日本学術会議は、幅広い意見をもつ科学者たちを集め、被曝の影響を公の場で検討するよう提案している。そうした場を活用してもいい。
与野党が力を合わせて作った法律である。参院選も終わってノーサイドとなった今、国会議員たちはもういちど超党派で政府に実行を迫ってほしい。